P.111 開幕第一戦(2)
「貴様ァァッ!!」
怒声と共に地を蹴るヘンリー。一気にシャクルとの間合いに入り込み、三又の矛をシャクルの顔面めがけ突き放つ。
「うおっ!」
シャクルは身を反転させるように矛先をスレスレで躱し、己も剣を突き放つ。しかしヘンリーの返す矛の柄が剣を弾いた。
続くはヘンリーの連撃。再び返される矛先がシャクルの脳天めがけ振り下ろされる。
瞬時に身を引かせるシャクルの鼻頭を掠め、リングに落ちる矛。次なる一手はシャクルの蹴り。放つままにヘンリーの片膝のマザーボールを破壊した。
すると空に浮かんだ炎のタイマーの下に描かれたシャクルの名前の下に、『1ポイント』の表示がされ、会場も湧き上がる。
「きたァァァっ!!今大会初のポイント先取!それはなんとヘンリー選手ではなくシャクル選手だァァーッ!!」
「よしっしゃーっ!」
「やったぁ~っ!!シャクルナイスキック!」
その場で飛び上がり、喜ぶアヤメとアラーケ。ロンも「ほぉ~」っと感心したように髭を撫でる。
一方、アヤメ達の横に陣取るヘンリー親衛隊からは悲鳴が上がる。
「キャーっ!ヘンリー様のマザーボールが!」
「ヘンリー様ぁ!」
すると、ここぞ!っとばかりにアヤメがヘンリー親衛隊を指差し、
「どーだぁ!これがシャクルの実力だぁーっ!」
っと言い放つ。対する親衛隊は、突然の物言いに「え?」っと止まり、「だ、誰?あれ」っと互いに見合う。
「ちょっ…!ひ、姫!?」
慌ててユーネがアヤメの指差す手を下げさせ、親衛隊との間を遮る。そして親衛隊に振り向き「何でも無いですよ~」っと言って愛想笑い。再びアヤメに視線を戻し、
「何を言ってるんですか姫…!」
「――…っ!」
アヤメ本人、ついつい勢いで言ってしまっていたようで、ハっと我に返り、口元を押さえて「しまったぁ~」の目線をユーネに送る。
ユーネも小さくため息をつき、ゆっくりと親衛隊の方に振り返る。続きアヤメも恐る恐る覗くと……親衛隊の女性達が、ユーネ越しに隠れるアヤメをジっと見つめ――…っと言うより睨んできていた。そしてその内の1人が口を開く。
「あなた達…まさか、ヘンリー様の対戦相手のお連れ様方なのかしら?」
声をかけられ、ユーネを「どうしましょ…」っと見つめるアヤメ。その視線にユーネは小さくため息をつき、アヤメを隠しながら体ごと振り返った。そして謝罪のひと言でも……っと口を開こうとしたが、先に開いたのは先程の女性。
「あら?その格好、帝国部隊の軍服…」
一瞬「何でここに?」っという表情を浮かべるも、ユーネの姿をまじまじと見つめる女性。そしてその後ろから顔だけを覗かせていたアヤメを見て、突然ハっ!っとしたように口元を押さえた。
「あ、あら?もしや…貴女は、アルシェン姫様…ですの?」
「え?あ、はい…」
女性の問いに、思わず答えてしまうアヤメ。これには周囲の親衛隊の女性陣もざわつき始める。するとユーネが周囲を警戒しつつ、周囲に響かぬギリギリの声を出す。
「確かにそうですが、これは他言無用でお願い致します。あまり表立つような事は避けたいので…」
「別に他言は致しません…ですが、VIP席にいて、帝国兵士と一緒。それにヘンリー様の相手が姫様の誘拐犯とくれば、大方予想はつき――…」
…っと女性が言いかけた瞬間、会場が湧き上がる。この歓声に、アヤメ達の視線がリングに向く。
するとリング上ではヘンリーの猛烈な突きの応酬がシャクルを襲っていた。
「貴様ァ!よくも華麗なる先取点を僕から奪ったな!!」
「奪ったもなにも、お前に隙があっただけだろうが…!」
突きの応酬をギリギリで躱しつつ、反撃の剣を振り抜くシャクル。ぶつかり合う剣と矛に、金属を打ち鳴らす音が響き、シャクルとヘンリーが互いに弾き合う。
開いた間合いに、同時に踏み込む両者。再び響く金属音。シャクルの剣は三又の矛先の隙間に刀身を埋める。
「貴様…よく見てみろ!!僕の美顔に隙は無い!!」
「だからそうは言ってねぇっつーの!」
「黙れッ!!」
怒声と共に、ヘンリーの三又矛はシャクルの剣を巻き込むように回転させ、剣を持つ手を捻り上げる。回転の力に負けたシャクルの手から剣が離れ、リング外の芝生に突き刺さる。
「ヤベっ…!」
「お前の顔の方が隙だらけだァァ!!」
再びの怒声に続き、回転を加えた突きがシャクルの左胸のマザーボールを砕き、勢いそのままに体を吹き飛ばす。
空中のポイント表示が(ヘンリー)3対1(シャクル)となり、会場からは歓声が湧き上がる。
「ヘンリー選手逆転です!!しかも急所破壊の3ポイント!壊すボールによってはリーチ!さすがは前回王者ヘンリー=バートン!!」
「イヤァ~ヘンリー様ステキー♥」
すると親衛隊の女性は上品に口元を隠し「おほほ」と笑うと、誇らしげにアヤメを見下ろす。
「やはりヘンリー様、美しいだけでなく本当にお強いですわぁ~」
「うっ…ま、まだ負けた訳じゃないのですわ…おほほほほ~…」
キャラを見失い、100%の強がった引きつり笑いを返すアヤメ。
「ですが姫様、もうあの犯罪者は丸腰ですのよ?もう勝ち目は見えてますわ」
「犯罪者犯罪者って…シャクルは犯罪者じゃないです!そっちのヘンリーって人の方が、よっぽど変質者で犯罪者ぽいですけどー」
「まっ…!何て事を…!」
このアヤメのひと言に親衛隊の全員が大激怒。ギャーギャーと騒ぎ立て、アヤメに向かい詰め寄ってくる。詰め寄る女性達を咄嗟に止めるユーネ。
「今の失言、いくら姫様といえど許せませんわ!撤回なさい!!」
「わぁ~ちょっと皆さん!抑えて抑えて!」
「えっ、何なに!?どうしたのよこれ!?」
今まで試合に夢中になってたアラーケも気づき、親衛隊の波を抑えるユーネを手伝う。
「あんな白髪頭のみすぼらしい犯罪者のどこがいいのよ!」
「っ…!!」
数ある怒号の中、このひと言がアヤメの耳に入り……
「シャクルは銀髪だぁーっ!どこがって…全部だぁーっ!!」
そう叫びながら、なぜか自分を守ってくれてるアラーケの後頭部をバシバシと叩くアヤメ。
「ちょっ…!痛っ!痛いってアヤメちゃん!それにさりげなくノロケんのも諸々イタい…ってホントに痛いってば!!」
なぜかバトル開始の観客席を他所に、リング上のシャクルは飛ばされたまま、大の字で仰向けに寝そべり空中のポイント表示を見つめていた。
「ん~、そろそろ本気でいかなきゃヤバそうだな…」




