P.110 開幕第一戦(1)
「オーホっホォ~」
棒読みの高笑いに、ドス黒いオーラをまとうアヤメ。
「ア…アヤメちゃん…?」
そんなアヤメの顔を恐る恐る覗き込むアラーケ。すると鋭く光る、狂気に満ちたアヤメの目がアラーケに向く。
「っ!?」
「アラーケくーん」
「く、くん!?」
するとアヤメは何やら無言で、野球の監督などが見せる、手を使ったサインをアラーケに送る。
「えっ?何……ちょっとアイツら…マザーのハンマーで…黙らせろや?」
「(コクっ)」
「OK、了解だぜ隊ちょ――…ってオーイ!!何サラっと怖い事言っちゃってんの!?アヤメちゃんのキャラじゃないっしょ、キャラじゃ!てか女の子にハンマーは却下!ナッシング!!」
己の顔の前に、腕で大きなバツ印を作るアラーケ。するとアヤメは再びサインを送る。
「ん?…肝っ玉の小さいおと――…ちょいちょーい!これ以上伝達したらアヤメちゃんのキャラがおかしくなるって!」
「だって悔しいじゃん!シャクルの事バカにされたみたいでーっ!」
そう言って石のテーブルに突っ伏すアヤメ。そんなアヤメの背中に優しく手を置くユーネ。
「気持ちはわかりますが姫、大丈夫ですよ。今どうこう言おうが、戦いが始まれば結果が全て。あの女性達も今に知りますよ、シャクルの実力を」
「でも~…」
少し膨らませた頬で、アヤメ達には目もくれず、未だ「キャーキャー」と騒ぐ女性達を見るアヤメ。
「ヘンリー=バーントは確かに強い。でもシャクルだって強い。そうですよね?姫」
「当然です!」
「じゃあ信じましょう。試合の後、シャクルと一緒に私達が笑ってやりましょうよ」
するとアヤメはしばらく女性達を見てからユーネに視線を戻し、渋々な表情を浮かべて1度頷いた。そして――…
「シャクル頑張れーっ!」
叫ぶアヤメの声は届いているのかいないのか…轟音と化した歓声が降り注ぐリング上。周囲に手を振り続けるヘンリー。対するシャクルは剣を抜き身にし、刃を指でなぞる。
「おー、マジで斬れねぇんだなコレ」
マザー保護により斬れない鉄剣となった愛剣の刃を、コンコンと叩くシャクル。すると周囲に手を振り終えたのか、ヘンリーがシャクルに向く。
「シャクル=ファイント…」
「ん?」
「ランティ城第一王位継承人、【アルシェン=ヒル=ランティ】姫を誘拐した犯罪者…だったよね?」
「ア、アル…?アルへ…?」
「おいおい、今更しらばっくれるなよ…まぁ結果冤罪だったようだけどね」
「あぁ、みたいだな」
「『みたい』って君……全く、王家誘拐犯っていうくらいだから、高値の懸賞金がつくと思って注目していたんだけど…結果が冤罪じゃあね…」
「そりゃご愁傷さま。こっちとしては、濡れ衣に懸賞金かけられちゃ、たまったモンじゃねぇからな」
「だがシャクル=ファイント」
「あ?」
ヘンリーはシャクルの名を呼ぶと、右手を開いた状態でシャクルに向ける。「何だ?」っと見つめていると、ヘンリーの右手に突如青白い光の棒が出現した。その棒をヘンリーが握ると共に、棒は徐々に長さを伸ばし、その姿を三又の刃を持つ矛と形を変えていく。
「きたきたきたァーッ!!水のマザーを操りしヘンリー選手のブレイバー武装!」
レフェリーの声に呼応する観客の歓声が再び会場を揺らす。
するとヘンリーは2メートルはあろう三又矛の切っ先をシャクルに向ける。
「僕は標的とする犯罪者は徹底的に調べる質でね…君が現在もアルシェン姫を護衛し、同行している事も知っている」
「は?まぁ一緒にいる事は否定しないが…俺が標的?俺には懸賞金どころか、手配書自体――…」
「僕は犯罪者を狩りたい訳じゃ無い。必要なのはお金だよ」
「いや、なら尚更だろ。俺を標的にするよか、単純に『優勝を狙う』だけでいいじゃねぇか」
するとヘンリーは小さなため息と共に、両手を上げて首を横に振る。
「賞金ごときの億の金…そんなものはいずれは無くなる。賞金稼ぎってのにも、そろそろ疲れてね…」
「…何が言いたいんだよ?めんどくせぇな、お前…」
「万にひとつ有りはしないが、戦いで僕の綺麗な顔に傷でも付いたらどうなると思う?」
「は?」
「世の女性達が悲しんでしまうではないか!この美しい僕の顔に傷が付いたら!」
突如天に向かい叫ぶヘンリーに、「コイツ、そっちの輩かーっ!」っとドン引きの表情のシャクル。
「だから僕は君の手配書が冤罪となり、姫の護衛として動いていると知ってからずっとマークしていたんだよ、君を!」
「………」
もはや「コイツ苦手だ…」の気持ち全開のシャクルの表情。言葉すら無い。
「ここで君を倒し、君よりも僕が強いとわかれば、姫も僕に護衛を頼むだろう……いや、もう既に僕の虜であろう」
そう言って会場のVIP席側に流し目をチラり。すると会場中の女性達からの黄色い悲鳴が鳴り響く。
当のアヤメは――…
「何あの人…キショい…」
OK、予想通り。
「なるほど、そーゆー事ね…」
「そうさ…姫の護衛となり、姫を虜にしてしまえば、王位ごと…金も地位も手に入るってものさ」
「確かに…『姫様』好かれりゃ、そうなるかもな」
「…?」
「だが悪ぃな。アンタが言うウチの『姫さま』は、誰にも渡すつもりはねぇ」
「何だと…」
「こういう祭事とか初めてだから、最初は楽しもうと思っていたが…姫さま天秤に賭けられちゃ、本気でいくしかねぇな…こりゃ楽しむ前に終わっちまうな」
シャクルはそう言い放ち、剣を2、3度振って肩に乗せる。
「おい審判」
「は、はい?」
「さっさと始めようぜ、試合。俺は口喧嘩しにきた訳じゃ無いんだわ」
「そ、そうですね!では最後にこれだけ…一昨年より採用となったルール。場外アウトはマイナス1ポイントです。体の一部が場外の芝生に触れた時点でマイナスとさせて頂きます!それでは――…」
するとレフェリーはヘンリーにも視線を向け、「始めても?」っと首を傾げて見せた。
「あ…あぁそうだね、始めよう…この意気がった世間知らずの犯罪者崩れに、本当の強さと美しさを教えて上げないとね」
「いや、美しさはマジで要らねぇから…」
お互いにやる気は満々。ヘンリーからはあきらかな殺気が滲み出ている。
「そ、そうですね。では、開幕の第1戦目――…」
叫ぶ声と共にレフェリーの右手が上がると、シャクルとヘンリーの体にマザーのポイントボールが出現した。
「…――始めぇッ!!」
カァァンッ!!
ゴングの音が鳴り響くと、溜めていたものを爆発させるように観客席から歓声が上がる。
ゴングと共にシャクルは地を蹴り駆け出した。一気につまる間合いにも、ヘンリーはその場から動く事なくシャクルを見据える。
まずは様子見といった所か、緩い太刀筋で振り下ろされるシャクルの剣。様子見には様子見で応えるように、ヘンリーは斬撃を避けずに柄で受ける。そして連撃――…っとはいかず、互いに競り合い停止する体。
「………」
「………」
開始直後、一気に盛り上がった歓声に反し、いきなり地味な競り合いとなる初戦。会場は「あれ?あれ?」となり、素人目にもわかる"ただの"競り合いに「戦えーっ!」の声も上がる。
「…っと、もっと派手好きかと思ったが、案外堅実なんだな?"暫定"チャンプさんよぉ…」
「安い挑発に乗ってくるとでも思ったかい?…初見の相手に大振りするようなブサイクじゃないよ、僕は」
「いや、ブサイクって…言葉選びはだいぶ大振りたけどな…」
苦笑を浮かべ剣を弾くシャクルは半歩下がり、握る剣を横一線に勢いよく振り切った。急激に速まった剣速。瞬時にヘンリーは身を引かせ、剣先をその鼻スレスレを掠めさせていく。シャクルは振り切る剣ごとに身を反転させ、身を引かせたヘンリーとの間合いを空けた。
「…これも躱すか…」
そう呟くのはシャクル。確かに相手を図った攻撃だったが、あわよくば…の気持ちもあった。
「躱せた所で、君の物差しは僕をどう判断出来たんだい…?」
少し乱れた前髪をサラりとならすヘンリーは、余裕の笑みで白い歯をキラリ。これには会場の女性陣からは「キャーっ!」。そしてシャクルの引き笑い。
「いや…ま、まぁまぁだな…」
「っ…!」
すると突然ヘンリーの眉がピクっと脈打ち、徐々に表情が険しくなっていく。
「こ、このハンサム極まりない僕に…『まぁまぁ』だと…!?」
「へ?」
「この僕を…この僕を…」
俯きながら肩を震わせるヘンリー。これにはシャクルも訳がわからずに、ただ表情を引きつらせるばかり。
「この僕を…『まぁまぁハンサムだ』と言ったな貴様ァァッ!!」
顔を真っ赤にし、バックに炎が見える程の怒りを爆発させるヘンリー。
「いや言ってねぇし、キレ過ぎだろ…オイ…」




