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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.02 追憶の語り部
11/122

P.011 出会い(2)

 その翌日の夜の事。エルセナは1冊の本を持って現れた。



「どうしたんだ?その本」

「シャクルさんが眠るまで、本を読んで差し上げようと思いまして」

「え?本って…読み聴かせってやつかい…?」



正直そんな子供じゃない…そうも思ったが、好意でしてくれてるのだと思うと無下にも出来ない。その迷いが顔に出てしまったのだろうか、エルセナは表情を曇らせ俯いた。



「本…お嫌いですか?」



正直言えば本は嫌いだ。空想話の物語の本は特にだ。しかし……



「いや…嫌いではないが…」



泣くんじゃないか?っとも思う程のエルセナの表情を見てると、こうしか言えなかった。するとエルセナの表情はすぐさま笑顔になる。



「そうですか?じゃあ読んであげますね!」



そう言って楽しそうに本を開き、「いきますよー」っと読み始める。



「その昔、人の歴史が生まれる前の事――…」



そうして読んでくれた本は昔、シャクル自身が幼い頃に読んだ事のある童話だった。いざ始まってみると恥ずかしさから辺りをチラチラと、誰がいる訳ではないが見渡してしまう。


だが少し経つと、楽しそうに読むエルセナの姿に不思議と心が休まり、そのキラキラと輝く目を見つめていた。




◆◆◆――…




 そうして、シャクルがエルセナの元に来て3日が経過した頃。シャクルは自力で立ち上がれるくらいまで回復していた。まだ完全に体の傷は癒えてはいないが、歩いたり軽く動く事くらいは出来た。


これは余談となるが…これまでの3日間、毎晩エルセナが本を読んでくれた。よほど本が好きなのだろう。


では本題へ。シャクルはベットから立ち上がり、寝ていた部屋から初めて出た。部屋の隣も部屋になっており、長方形の木の机に囲む木の椅子が4つ。リビングのような部屋なのだろうか、その内の1つにシグが座っていた。



「シグさん、おはようございます」

「おぉ、動けるようになったか小僧」

「はい。お蔭様で」



シグに会うのはあの日以来。相変わらず肩にはアグナーと言う精霊が乗っている。するとその声に誘われたように、奥に見える台所からエルセナが顔を覗かせた。



「あ~シャクルさん!もう起きて大丈夫なんですか?」

「あぁ、だいぶ痛みもなくなったからな」

「それはよかったです。じゃあ座って待ってて下さいね。もうすぐご飯出来ますから」



そう言って台所に戻るエルセナ。シャクルはシグの向かいに座り、シグの顔を見つめた。



「どうした小僧?」

「あの…そろそろ教えていただけませんか?その…精霊の事とか…」



その言葉にシグは少し押し黙る。そしてひと息はき、



「そうじゃのぉ。動けるようにもなった事じゃし、隠すような事でもない……よし、飯を食い終わったら出かけるぞ」

「え、どちらにですか?」

「まぁ行けばわかるわい」

「はあ…わかりました」



そうこうしてる内に朝食が出来き、その朝食を食べ終えたシャクルとシグは、エルセナを残し外に出た。久しぶり立つ外の世界は晴々としている。


エルセナの家の外観は、長方形の石積みの平屋。辺りにも同じ家が10数個ある。



「この島は名も無いただの孤島じゃ。人口も僅かに50人程。他の島との交流も無いに等しい」



道行く人々の格好はあまり綺麗とはいえない布の服。人の生活色より自然色の方が色が濃く、あまり豊かとはいえない島のようだ。



「こっちじゃ小僧」

「あ、はい」



徐々に集落から離れていく2人。少し歩くと、背の高い木が立ち並ぶ林道に出た。更に進んでいくと、道という道が無くなり、木々の間を抜けるものとなった。そして10分程歩き続けると、目の前に石造りの巨大な建造物が現れた。有名な建物で言えばパルテノン神殿によく似ている。



「ここが【霊召寺院(れいしょうじいん)】じゃ」

「霊召…寺院?」

「まぁ入れ」



促されるままに寺院の中に入る。寺院の中は全てが開放されたひと間。広い空間の奥、入口とは対面する位置には巨大な祭壇がある。祭壇までの道には綺麗な赤い布が敷かれていた。辺りには何本も松明の火が灯っており、窓のない内部を薄暗く照らす。


目が薄暗さにも慣れたシャクルは、壁面をぐるりと囲む、6体の人間の石像に気づく。裾の長いローブに付いたフードを被り、両手を軽く広げて微笑んでいる。全員女性に見え、よくよく見ても、年季はあるが全く風化していない、そんな不思議な石像だった。



「これは…?」

「彼女らは自然界に存在する源の力…地、水、火、風、光、闇…それを守る女神の像じゃ。そしてその6人の女神に仕える6体の精霊がいる」

「じゃあそのアグナーっていうのが?」

「そうじゃ。この子は【"地の精霊"アグナー】」

「何故あなたが…女神達の精霊を?」

「わしらはミリアード家は【霊召士】と呼ばれる一族なんじゃよ」

「霊召士…ですか?」



シグは無言で頷き1歩、また1歩と祭壇に向かい歩きはじめた。



「お主は信じられぬかもしれぬが、この地球…外界の大地アースランドの他にもう1つの世界、核なる大地と呼ばれるマザーランドという世界が存在する」

「は…はい?」

「簡単に言おう。この地球は2層に分かれておる。外側の世界は、今我々のいる地球。そしてその内側にもう1つの地球があるようなものだ」



入口と祭壇の間、寺院のちょうど中間辺りで足を止め振り返るシグ。何の事だか全く理解できないといった表情のシャクルを見てシグは笑う。



「『何故?』と聞きたい顔しておるが、わしがこの世界を創った訳ではないから真意はわからんぞ。元々世界がそうなっておったんじゃ」

「で…ですよね…」

「そこで更なる説明においての例え話じゃ。人間は生きる為に必要な臓器は、やはり心臓じゃな?」

「はい…まぁ確かに」

「心臓は1人の人間に1つ。この世界を人間と置き換えると、双子として生まれた地球という人間と、マザーランドという人間には、1つの心臓しかなかったのだ。そしてその心臓があったのはマザーランドの方」

「えっ、それじゃあ地球は…?」

「その地球を死なせない為、わしら霊召士がいるのじゃ。マザーランドにある世界の心臓…【"世界樹"マザー】から生み出されし、血液ともいえる自然界の生命力【マザー】をこの地上に送る為にな」

「地上に…送る…?…っ!」



シャクルはハっとしたように、シグの肩に乗る地の精霊アグナーを見た。



「そう。このアグナーはわしがマザーランドから召喚した地の精霊。しかしマザーの力が無いこの地球上では、精霊は己の体を維持する事が出来ない。力を使う事も出来なければ、存在も出来ないのじゃ。そこでわしら霊召士がマザーの媒体となり、地球にマザーを供給しておるのじゃ」

「えっ、マザーが無いのに媒体?どういう意味なんですか?」

「わしらミリアード家の祖先は元々マザーランドの住人でな、特にマザーの力に優れた家系だったのじゃ。よって遥か昔、一族をこの地上に送ったと言われておる」

「その…力に優れるというのは?」

「簡単に言えば、自然の力を使った魔法じゃよ。個人の能力(ちから)に差はあるが、マザーランドの住人はこのマザーを使い、簡単な魔法を使えるのじゃ」



シャクルは眉をひそめ、難しい表情のままシグとアグナーを交互に見る。



「何じゃ?もう一度最初から説明するか?」

「あ、いえ…言って頂いた事はだいたいはわかりました。つまり地球は2層に分かれた世界。そして俺達が立つ地上には自然を保つ力の…マザーでしたよね?それが届かず、衰退していくだけ。だからそのマザーの力に長けた霊召士と呼ばれる、シグさんのような方が地上でパイプ役をしている…っという事ですよね?」



その言葉にシグは意外そうな表情をしてシャクルを見つめた。



「ほぉー。ずいぶんと理解力のある小僧じゃのぉ」

「いや…理解、っと言うか…海に出るようになってわかったんです。世界というのは広く、自分の想像を遥かに超えた現実もある…だからそんな夢みたいな事があっても、不思議じゃないかもしれませんから」

「夢でも不思議でもない。現実じゃよ、これも」



確かに…っと思いながらシグの肩に乗るアグナーを見つめ、シャクルは無言で小さく頷いた。するとシグは再び説明を開始する。



「召喚できるのは地、水、火、風の四大自然元素の精霊のみ。その霊召士のマザーに1番適した元素精霊が、1人の霊召士に1体与えられる。しかし霊召士もすぐには精霊とマザーは使えぬ」

「すぐに使えないって…子供は使えない、っとかですか?」

「まぁそういう事だ。要は精霊の媒体となるには、肉体的にはかなりの負担となる。だから霊召士は老いるのも早ければ長生きも出来ぬ。ちなみにわしはまだ46歳じゃよ」

「えぇっ!?」



シグには失礼だが見た目はもう80…いや90歳くらいはいっているような容姿である。あまりのシャクルの反応に、シグはしてやったり顔で笑い、話しを続けた。



「霊召士が精霊を召喚する事が出来るのは、15歳を迎えたその日からじゃ」

「じゃあエルセナも?」

「そうじゃ。あと2年もすれば精霊を召喚し、その身に宿す日がくる。それまでには何とか一人前の霊召士になれるよう、厳しく育てていかねばならん」

「………」



未だ難しい表情を浮かべ、無言となるシャクル。いきなり言われた今までの事全てを「なるほど、そうだったのか!」っとは鵜呑みには出来るものではない。…が、嘘とも言い切れない。しかし完璧な信憑性がある訳でもない。シャクルの頭の中は軽くパニック状態であった。

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