P.109 闘技祭開幕(3)
「今大会のルールは前大会同様のポイントバトルとなっております。まずはわたくしの体を見て下さい」
そうレフェリーが言うと、その体に幾つかの光る玉が出現。サイズはマイクのように持つ玉と同じくらいの野球ボールサイズ。出現した場所は頭、両肩と両肘。そして心臓のある左胸に両膝の計8ヵ所。
「このボールは特殊なマザーを練り上げたポイントボール。その身に付けた者以外の攻撃を喰らうと壊れる構造となっております。肩、肘、膝の6ヵ所のボールはそれぞれ1ポイント」
そう言いながらそれぞれのボールを指差すレフェリーは、頭のボールと左胸のボールを交互に指差した。
「しかし人体急所となる頭は2ポイント。心臓は3ポイントとなります。このボールを互いに破壊し合い、5ポイント先取した者が勝者となります」
するとレフェリーが右手を掲げ、指をパチンっと鳴らすと、体に付いた8つのボールが消える。そしてレフェリーが空を見上げた瞬間、2メートルはあろう火の…いや炎の玉が出現した。
「な、何よあれ!?」
「あれもポイントボール!?何ポイントよ、あのデカさは!?」
アヤメとアラーケ同様にザワつく観客席。その観客席をぐるりと見渡したレフェリーは再び右手を掲げ、指をパチンっと鳴らす。すると巨大な炎の玉は突然弾け、幾本もの炎の筋となり、空に巨大な『15:00』を描いた。
会場の皆が空に浮かぶ炎の数字を見上げていると、レフェリーの声が辺りに響く。
「制限時間は15分。これで決着がつかない場合、ポイントで勝敗を決めさせて頂きます。同点の場合は急所破壊の数。もしくはボール破壊の回数で決着をつけます。そして出場者達の武器にも、例年通りのマザー保護させて頂いておりますのでご安心下さい」
「え?マザー…保護…?」
首を傾げたアヤメは、そのままユーネに疑問の眼差しを向ける。
「マザー保護は、マザーで物体を覆うって言う意味です。そのままの意味ですよ」
「そ、それってつまり…?」
「要するに刃物にマザーによるカバーをかけ、斬れなくするって事です」
「闘技祭は『殺し』は御法度だからね。おれが子供の頃は、それでのKO制だったんだよなぁ」
「なるほど…つまり刃物が鈍器に変わるって事ですね」
「はい、そうなんです。それに体にも特殊なマザー保護が施されてて、身体への直接的なダメージは無くなります。ブレイバー型、ウィザード型にも対応出来るようになってるんですよ」
「へぇ~、ならよかったぁ――…ってあれ?」
安堵の表情のアヤメがアラーケの方を見ると、アラーケの隣にいたはずのロンの姿が無い事に気づく。
「あれ?ロンじいちゃんは?」
「へ?…うお!じいさんがいない!」
「え、ロアーヌ卿!?…本当にいない…ちょっ、ちょっと私捜して――…」
「ちょっと何なのこの人!!」
突如アヤメ達の背後から聞こえてくる女性の声。
・ロンがいない ・女性の悲鳴
上記内容をまとめるとつまり――…っと、引きつる表情で振り返ると……
「うほぉ~い♪歳は何ぼじゃ?スリーサイズは何ぼじゃ?お嬢ちゃん達ぃ~♪」
「ちょっとヤダ何!」
「何なんですのアナタは!」
予想は的中。数人の女性の集団に、ロンが体をクネクネさせて擦り寄っていっていた。
「あの人はもう…」
頭を抱え、ため息混じりにロンに向かい歩き出すユーネ。
「このじじいと一緒に試合観戦とゆこうではないかぁ~ん、お嬢ちゃん達ぃ~!もちろん皆のお膝の上でのぉ~♪」
そう言って、悲鳴を上げ続ける女性達の和の中に、ロンが飛び込もうと地を蹴った瞬間…ユーネが後ろ襟を掴み止める。
「ふぐぉっ!」
首から『く』の字に折れ、そのまま地面に落ちるロン。対する女性達は悲鳴を上げたまま、その場から逃げ去っていた。
「全くもう…何をやってるんですか、ロアーヌ卿」
「何をって…可愛らしい女の子がおれば、声をかけないと失礼じゃろうて」
「そのかけ方に問題があるんです」
「じゃあユーネちゃんのお膝の上で観戦と――…」
「ダ・メ・で・す!」
ロンの言葉を切り、「戻りますよ」とユーネがロンの手を引くと、会場にレフェリーの威勢の良い声が再び響き渡る。
「さぁーてそろそろ開幕の一戦っといこうではないか諸君!!」
「うおぉぉぉぉぉッ!!!!」
開幕を告げる声に、会場の歓声がより一層強まり大地を揺らす。
「さぁ今から開幕戦を飾る戦士の入場だァ!!東口より入場してくるのは――…」
レフェリーは言葉をためつつ、変な躍りのように手足をブンブン振り回してから、東側の入場口を全身で差す。すると入場口から1つの影がゆっくりと姿を現す。その影に「待ってました」と言わんばかりの盛大な歓声が迎える。
「キャアァーっ!!」
っと突然アヤメの横から響く、悲鳴にも似た女性達の黄色い歓声。突然の声に驚くアヤメが視線を向けると、先程ロンが迫った女性達…いや、更に数人加えた御一行が頬を赤く染め、目元を『♥マーク』にしているではないか。
何事だ!?っと表情を引きつらせるアヤメ。この女性御一行の視線はリング方向に向いている。再びの何事だ!?で追って向けられる視線の先には……
「さぁ入場してきたァァァ!前大会優勝者、【ヘンリー=バーント】!!」
レフェリーよりコールされ、会場…そしてあの女性御一行達の歓声が向けられたのは、リングに向かい歩く1人の男。スラリとした長身に、綺麗な艶のある金髪をポニーテールのまとめ。白い肌に、形の整った切れ長の赤目。赤いマントに白い貴族服を着たカナフィーリン族の男だった。
「キャア~~!ヘンリー様ぁ~!」
「素敵ーっ!」
「ヘンリー様ぁ~!」
まるでアイドル親衛隊か?っと思わせる声援。それに応えるように【ヘンリー】と称した男はサラっと髪を掻き上げ、会場に手を振りウィンクを1つ。
これには会場中の女性の黄色い声――…いやもう悲鳴だ、悲鳴。思わず耳を塞ぎたくなる程の声が上がる。
「出ましたね、ヘンリー=バーント」
何の事だと圧倒されていたアヤメの元に、ロンを連れたユーネが戻った。
「あ、ユーネさん。すごい人気ですね、あの人…」
「はい。王族の皆様の耳には届かないでしょうが、あのヘンリー=バーントは名のある賞金稼ぎなんです」
「賞金稼ぎ?」
「こういった賞金絡みの大会や、懸賞金のかかった指名手配犯を捕らえる輩ですよ。確かな実力と、見ての通りのルックスの良さで、世の女性達を虜にしてる…今や世界一有名な賞金稼ぎですよ、ヘンリー=バーントは」
そのユーネの言葉に「へぇ~」っと頷き返すアヤメに対し、アラーケは何故か胸を張り、リングに向かうヘンリーを見下すように目を細めている。そして妙に鼻息が荒い……
歓声の鳴り止まぬ中、ヘンリーがリング上に立ち、微笑を浮かべながら会場に手を振った。するとヘンリーの名を呼ぶ黄色い声がより一層増す。
「さぁてさてさて!この歓声止まぬ中、この前大会優勝者のヘンリーに挑む勇者を呼ぼうとしようではないかァ!!」
このレフェリーの声に、湧き上がるのは会場の男達。反してブーイングが発せられるのは会場の女性達。
「この状況!対戦相手は完全アウェイとなるのかァ!?よォォし入場してきてもらおうか!悪役役の選手を!!」
っと差される入場口。
「――…おいおい…始まる前から悪役決定かよ…」
ゆっくりと入場してきた人影がそう呟くと、その顔を上げて会場を見渡した。その顔は……
「うわ!シャクルだ!」
「うぇ!?マジだ!」
驚くアヤメとアラーケの目線の先、若干気だるそうに歩くシャクルの姿があった。
「ランティ王家のアルシェン姫誘拐犯に仕立て上げられた冤罪賞金首!!シャクル=ファイントの入場だァァッ!!」
「何だよ、その紹介文…」
湧き上がる会場とは対称的に、苦笑いを浮かべリングに上がるシャクル。
「シャクルーっ!!頑張れ~!!」
「優勝まで一気にいったれシャクル~!!」
アヤメとアラーケの歓声も、会場の声――…っと言うより女性達の声に掻き消され、シャクルの元には届かない。だが2人は会場の雰囲気に混ざり、とりあえず騒ぐ。
シャクルの登場に、ヘンリー親衛隊――…っと名付けてしまおう。彼女らのブーイングは更にヒートアップ。
「ヘンリー様ぁ~!そんな男に負けちゃダメよ!」
「ヘンリー様を傷つけたら許さないんだからね、この白髪男!」
「アンタなんかヘンリー様にボコボコにされちゃえーっ!」
次々にシャクルに降り注ぐ罵声とブーイング。だが当のシャクルは気だるそうな表情のまま、アクビをしながらリングに足を進めていく。
「でもま、悪役ってのも何か面白ぇかもな…」
っと呟き口元に笑みを作るシャクル。しかし会場の観客席では……
「ちょっ…アヤメちゃん…?」
「ひ…姫…だ、大丈夫ですか…?」
引きつる表情のアラーケとユーネの視線の先……「何でしょう?」っと振り向くアヤメの笑顔。表情は笑顔。だが、その顔に目に見えて浮かび上がっているのは、まるで漫画に描かれたような『怒りマーク』。
「シャクルは白髪じゃなくて銀髪なのにねー。ボコボコに出来るもんならやってみやがれってんだよねー。オホホホホー」
変わらぬ表情で、感情が入っていないような棒読みの言葉。直後、アヤメのバックからはドス黒いオーラまでが見えてくる程の威圧感……もう3人はビビって何も返せない。
「オホホホー。さぁシャクル。やっちゃいなさーい。オホホホー」




