P.107 闘技祭開幕(1)
辺りの日は暮れ、皆が寝静まるような時間だというのに、シュバーラッツの町は賑やかだった。大半の遊戯場は24時間動いている上、明日は5年に1度の闘技祭。町中に明かりが灯り、夜だというのにお祭りの熱が冷めないのは当然と言えば当然なのだろう。
賑わう大通りに面した宿屋、花の風車の一室にアヤメ達の姿はあった。アラーケとロンはまだ合流はしておらず、部屋に姿は無い。負傷したユーネの方は既に目を覚ましていた。
「…すみませんでした、皆さん…ご迷惑をおかけしまして…」
皆が囲うベッドに横になるまま、淀んだオーラを漂わせ、あからさまにヘコんでいるユーネ。テオという男に一瞬にして敗れた事が相当ショックなのだろう。
「ミネアさんもありがとうございました…お陰で助かりました…」
「い、いえ…ご無事でなによりです」
「でもご迷惑をおかけ――…」
「あぁ~もう謝罪はいい」
頭を掻きユーネに向くシャクル。
「あの野郎は何者なんだ?お前が手も足も出ねぇなんて、相当な相手だろ…」
「それに何なのかしらね、あの容姿…ヒューマ族かと思えば、モルハス族にも見えたわ」
そう言ってキリを見るリーシェは、「どうなの?」っと首を傾げてみせるも、キリは「さぁな」っと言うように両手を上げて首を横に振った。
「奴はテオ=テルアー。キリキシア大陸にある帝国の第8医療棟を壊滅させた指名手配犯です」
「医療棟?それって病院みたいなやつ?」
首を傾げミネアを見るアヤメ。
「はい。病院施設の他にも、医療の研究開発なども行われている場所です」
「何でそいつは病院なんか壊してんだよ?」
するとシャクルも首を傾げてミネアを見る。
「いや…それはわたしに聞かれても…」
「あ~そっか。何でだ?ユーネ」
「遅いわよ!普通最初っから私に聞くでしょ!?」
「悪い。だから何でだ?」
「何か流されてる感満載って感じ~…」
膨れっ面のユーネは、気持ちを入れ替えるように息を吐きつつ体を起こす。
「はっきりとした理由はわからないですが、たぶん妹を探してだと思うんです」
「妹って…あの子、ハヤちゃんの事ですか?」
「はい、そうです。姫が一緒にいたあの女の子がハヤ=テルアー。テオ=テルアーの妹です」
「その妹と医療棟…何の繋がりがあんだよ?」
「それにユーネ様。あの女の子の服装…ナディア国の民族衣装でしたが…」
「いえ、彼らは【ダルランテ】の出身です」
耳にした事の無い地名に、アヤメとシャクルの視線が同時にミネアに向く。するとミネアはゆっくりとした口調で説明をしてくれた。
「えっとですね、ダルランテはエクシラのあるキリキシア大陸南部にある町の事です。標高3000メートルの高さにあり、何種類もの鉱石資源が採掘される、別名『鉱山の町』とも呼ばれている所です」
「でも5ヵ月程前に、町全土を巻き込む大規模な落盤事故があり、我々帝国の別部隊が救助にあたっていたんです。そして帝国保有の医療棟で治療をしていた所…」
「あのテオって奴が来たと」
シャクルの言葉に頷くユーネ。
「私も詳しい事はわからない。聞いた話しってだけだけど、襲撃によって医師や兵…そして町民までもが殺されてしまったらしいの。妹のハヤ=テルアー以外は全員…原型を留めない程バラバラにされた状態でね」
「ん?そのテオも落盤事故に巻き込まれてたって訳じゃないのか?」
「ごめんなさい、その辺りは全然わからないわ。ダルランテの一件は別部隊の管轄だから」
すると黙って話しを聞いていたキリが立ち上がり、グっと背伸びをする。
「ま、とにかく危ない奴って事だろ。詳しくわかんねぇなら、警戒だけしときゃいい話だ。それに小隊長さんが無事だったんだから、ひとまずよかったじゃねぇか」
「そうですね。ではユーネ様、この町にいる間はわたし達と行動を共にしましょう」
「…すみません。民間人である皆さんを頼る形になってしまい…」
「いえ、わたし共の方が助けて頂いておりますから」
「あ~いえいえこちらこそ…」
再び行商のおばちゃん(?)のようにお互いにペコペコとし合うミネアとユーネ。その姿を見、シャクルもゆっくりと立ち上がる。
「さて…ユーネも大丈夫みたいだし、俺らは部屋に戻るわ」
「そうだな。いい夢見ろよーお前ら」
っと気だるそうな様子で後ろ手に振るキリ。追ってシャクルと部屋を出る。
「――…さて、っと…どうする?キリ」
「あのテオって奴の話しか?」
「あぁ。『敵は帝国』って言ってたが、放っておく訳にもいかないだろ」
「確かにな…まだ近くにいるかもしれん。オレとお前で交代しながら、この部屋の見張りしておいた方がいいかもな」
「それならワタシもやるわ」
話していた2人の間に突然リーシェが現れる。
「うおっ!いるなら『いる』って言えよお前…びっくりさせんな」
「ごめんなさい、なら『いる』わ」
「事後報告はいいよ…ま、手伝ってくれんなら部屋にいてくれ。お前とミネアがいてくれるだけでも安心出来るからよ」
「あら。でもジっとしてるのは嫌よ、ワタシ」
「おいおい…見張りの意味ねぇじゃん…」
呆れ顔のシャクルに、なぜか笑顔のリーシェ。キリも苦笑いでシャクルの肩を叩いてリーシェを見た。
「ならオレがここに残るから、お嬢さんとシャクルでアラーケとロアーヌのじいさん連れ戻して来てくれ。アラーケにも協力してもらえれば、オレらも幾分かは休めるからな」
「そうすっか…ほら行くぞ、リーシェ」
「あらデート?優しくエスコートしてね」
「へいへい、美人相手で緊張するけどなー」
そう言いつつ、全く感情のこもっていない表情と声色でスタスタと歩き出すシャクル。その後ろをリーシェは鼻唄混じりについていく。
2人を見送りひと息吐くキリは、アヤメ達のいる部屋の扉の横にゆっくりと腰を降ろす。そしてしばらく古びた木目調の天井を見つめていると、ある事に気づいてしまう。
「この姿って…事情知らねぇ奴から見たら、『部屋追い出された奴』みたいだよな…」




