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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.09 遊戯の町
106/122

P.106 遊戯の町への上陸(3)

 アラーケとロンと別れ、町の中心部へと足を進める一行。中心部に近づくにつれ建物は豪華に、そして大きくなっていく。


アヤメとシャクルは「お~」っという表情で辺りを見渡し最後尾を歩く。



「すげぇなぁ、この辺は」

「あきらかにお金持ちです、って感じだね」



見渡す周囲は豪華な服装をした紳士淑女ばかり。



「世界最大の遊戯町と言っても、実際にこの町で遊ぶには莫大なお金が必要となります。ですから大半の施設を利用するには、それなりの財産を持つ者しか相手にされません」

「つまり金持ち以外は門前払いってか?」

「ですがわたし達の向かう闘技場は、この町で最も安い賃金で賭ける事が出来る施設です。なのでこの町でも1番人気があるんですよ」

「賭けるって事は、試合をするって事なんだよね?」

「えぇ。勝利に魅せられた猛者達が、名誉のみを目指し日々戦うのです。そして5年に1度、皇帝がいらっしゃる日に、賞金を賭けた闘技祭へと変わる。それが明日なんです」

「皇帝まで来んのかよ。これはこれは…」



すると一行の目の前、茶に染まるドーム型の建物、闘技場が姿を現した。



「うわぁ~…近くで見ると、ホントおっきい~」

「本当だな。でけぇ…」



巨大な闘技場をポカ~ンっと見上げる。



「しっかし人がすげぇなぁ…」



そのキリの言葉通り、闘技場の入口らしき所には幾人もの戦士達、屈強な男達の姿が見えた。ヒューマ族だけではなく、カナフィーリンやラーグ、モルハス族達もいる。



「あらあら、たくさんいるわね」

「そうだな。こんだけいれば確かにパンクしてそうだな…」

「とりあえず登録してこようぜシャクル。小隊長さんも頼むぜ」

「あ、はい。では行きましょう」



屈強な男達の間を抜け、闘技場内へと入った。入ってすぐに空気が変わる。冷たい空間…なのになぜか心の底が熱くなる。戦士たる者、当然の感覚なのだろう……



「うわぁ~!!中すっごく広ぉ~い~!!」



アヤメに至っては違うようですが……


内部は外装同様の茶の煉瓦造り。武器を構えた戦士の石像が立ち並び、ドーナツ型の通路はアーケード街のようになっている。壁には歴代のチャンピオン達なのだろうか?肖像画が何枚か飾られていた。少し先を見ると、受付らしきカウンターが見えた。10人以上の女性が並び、様々に対応していた。



「お、あそこっぽいな。シャクル、推薦状は?」

「ユーネに預けてる」

「あ、はい。皆さんの名前はもう書いてあるんですが…大丈夫かな…」



あまりの人の多さに不安を感じつつ、カウンターに向かうアヤメ達。偶然空いていた1人の女性にユーネが駆け寄り声をかける。



「あのすいません。カーレン=エレッタの推薦状で、闘技祭に出場したいんですが、登録可能でしょうか?」



すると受付の女性は笑顔で1度頷いた。



「はい、推薦状の方々でしたら条件はあません。大丈夫ですよ。皆様ご参加でいらっしゃいますか?」

「よかったぁ…あ、私はカーレン=エレッタの代理で来た者でして、参加はこちらの4名です」

「代理の方でしたか…でも確かに帝国部隊の方のようですね?」

「はい。一応カーレン=エレッタよりの紹介の書状もあります」



そう言って推薦状と手紙入り封筒を受付の女性に渡す。女性は推薦状らを受け取ると、入れ替えるように3枚の紙を差し出した。



「参加にあたって参加希望者と、推薦者の方々の推薦状照合と登録用紙。あと誓約書へのサインをお願い致します」



女性に促され、サインを始めるシャクル達。その際誓約書についての説明を始めた女性。


その頃アヤメは1人、受付カウンターから少し離れた位置で周囲をキョロキョロ。



「闘技場の中にも中にもお店があるんだ…さすが闘技のお祭」



その言葉通り、ゆったりとカーブしている通路に、点々とだが出店が見られた。もうすぐ夕暮れ。ちょっと小腹が空いてきたアヤメは、ポケットからお金入りの小袋を取り出す。一応アヤメのマザーランドでのお小遣いである。



「ねぇーシャクル。あそこのお店で何か買って食べててもいい?」

「ん?あぁ。あんまり離れんなよ」

「はーい。ちょっと行ってくるね」



カウンターのシャクル達を気にしつつ、何か美味しそうな物は…っと出店を物色していると……



「――…ふぇ~ん、ふぇ~ん…」



どこからか女の子の泣き声が聞こえてきた。


辺りを見渡していると、壁際に立つ柱の陰に、1人の女の子がしゃがみ込み泣いているのが見えた。アヤメはすぐさま女の子に駆け寄り、前でしゃがみ込んで頭を撫でた。



「どうしたの?」



そうアヤメが優しく声をかけると、女の子はゆっくりと泣き顔をアヤメに向けた。


女の子は6~8歳くらいのヒューマ族で、白い肌無造作に伸びた腰までの茶色で髪。白い布製の服にサンダル姿の女の子。アヤメを見るなり体をビクつかせ、再び大声で泣き出してしまった。



「うわぁ~ん!」

「えっ!?あっ、ちょっと!?どっ、どうしたの?ねぇ?ねぇー!?」

「うわぁ~~んっ!!」



更に大声になる女の子に、アヤメはあたふたと辺りを見渡す。「何だ何だ?」っと周囲の人々もアヤメ達を見ていく。その隙間、お菓子の積まれたカートを押した商人の姿が見えた。



「おじさぁーんっ!!お菓子下さぁーいっ!!」



ここぞとばかりのアヤメの魂の叫びが闘技場内に響き渡る。





「――…それで、お名前は?」



ようやく落ち着いた様子の女の子は、自分の顔くらいはあろう棒つきキャンディーをペロペロ舐めていた。



「…【ハヤ】…【ハヤ=テルアー】」

「ハヤちゃんか…どうして泣いてたの?お父さんとお母さんとはぐれちゃったの?」



すると【ハヤ】と名乗る女の子は首を横に振る。



「お(にい)…」

「おにい?…あ、お兄ちゃんとか。じゃあお姉ちゃんと一緒に、お兄ちゃん探そうか?」



そう言って手を繋ごうと手を差し出すと、ハヤは下を向きながらコクっと頷き、その手を握った。すると次の瞬間……



「ハヤ」



アヤメの背後から男の声が。振り返るとそこには、アヤメとさして身長の変わらない1人の男が立っていた。赤いニット帽に橙のマフラー。深緑の上着に茶革のパンツ。だが顔はボサボサの茶色の髪と、口元まで覆ったマフラーにより、その表情は確認は全く出来ない。


するとハヤはアヤメの握った手を離し、男に駆け寄っていく。



「お(にい)!」



今までボソボソとしか話さなかったハヤだったが、元気いっぱいに飛び跳ねて『お(にい)』と呼んだ男に抱きついた。男は抱きついたハヤの頭に、ポンっと黒い革の手袋をした手を置いた。



「ん?お前その飴どうしたんだ?」



ボソっと囁くような男の声。無感情にも思える声色だが、ハヤは嬉しそうにピョンピョンっと跳ねながらアヤメを指差した。



「あのお姉ちゃんが買ってくれたんだよ!」



男はパっとアヤメの方を向くと、ゆっくりと歩み寄りペコリと頭を下げる。



「すんません、妹がお世話になったようで」

「あ~いえいえ、私は何も…」

「飴、幾らですか?」

「そんないいですよ。お気になさらずに」

「いや…でも…」

「いいんですよ。でもよかったね?ハヤちゃん。お兄さん来てくれて」



アヤメが笑いかけると、ハヤは兄の後ろにサっと隠れてしまう。



「こらハヤ……すんません。コイツ恥ずかしがり屋で…」

「いえいえ、大丈夫ですよ。じゃあ…私はこれで失礼しますね」


挿絵(By みてみん)


軽く一礼をし、兄の後ろからチラチラとこちらを見てくるハヤに「バイバイ」っと手を振ると、ハヤも小さくだが手を振り返してくれた。



「姫ーっ!」



笑顔でハヤに手を振り返していると、後ろからの呼ぶ声が。アヤメが振り返ると、小走りに駆け寄ってくるユーネの姿が見えた。



「登録完了しましたので――…っ!?」



っと言いかけたユーネは突如目を見開き拳を構えた。その動きにアヤメは「えっ?」っと驚く中、



「お(にい)…」

「帝国…っ!」



後ろから聞こえるハヤと男の声。アヤメが2人に振り返ると、男はポケットに両手を入れた状態で腰を落とし臨戦態勢。ハヤはその後ろで怯えたような表情で震えている。


何事かとユーネに視線を戻した瞬間、ユーネが地を蹴り駆け出した。



「姫から離れなさい!!【テオ=テルアー】!!」

「あんたもハヤに近づくなって…」



発する言葉は棒読み気味で、全く覇気の無いのだが、動きは目にも留まらぬ速度でユーネに向かう、【テオ=テルアー】と呼ばれたハヤの兄。


ユーネとテオ、両者の間は10メートル以上はあっただろう。しかしユーネか2、3歩走った頃にはテオが目の前に。



「ッ!?」

「帝国は死んどけって…」



瞬間的にテオの両手がポケットから出ると共に広がり、ユーネの前でクロスさせた。


一瞬止まる辺りの時間。すると次の瞬間、ユーネの肩口からクロス状に噴き出す血飛沫。



「うぁあぁぁぁっ!!」

「ユーネさん!!」



噴き上がる血飛沫を避けるように後ろに宙返りをするテオは、空中でユーネに向かいアンダースローの投球フォームで何かを投げつけた。するとユーネの体は強い力に弾かれたように数メートル先の壁に突き刺さる。



「ユーネさん!!…っ!」



背中から壁に突き刺さるユーネの体には赤く光る鳥の爪のような三日月型の物が数本刺さっており、完全に気を失っているようだった。



「帝国…」



そう呟くテオの両手を見たアヤメの目が見開く。テオの両手からはあの黒い革の手袋が消えており、代わり覗くのは黄土の毛に覆われた獣の手。その5指からはユーネに刺さる赤く光る爪が、鉤爪(かぎづめ)のように伸びていた。



「帝国は…やっぱ死ねよ…」



そう呟き、ユーネめがけ手を振りかぶる――…次の瞬間、



「――…ったく、さっそく面倒事かよ」

「お祭前の前哨戦ね」



アヤメの横をシャクルとリーシェが駆け抜けていく。



「シャクル!リーシェ!」

「おっとお前さんはオレの傍から離れんなよ」

「キリさん…?」



アヤメを庇うように立つキリ。そしてユーネの元にはミネアがおり、治癒の力をユーネに送っていた。




 ガギィィィィィンッ!!




打ち合うシャクルの剣、リーシェの槍とテオの爪。双方を片手で軽々と受け止め2人を見る。



「お前らは…帝国じゃない…」

「は?何だと?」

「帝国じゃないなら、戦う意味は無い…」

「ここまでやっといてそれか、よっ!」



舌打ち混じりにシャクルの拳がテオの顔面にヒット。勢いそのままにテオは後ろに跳んだ。



「っ!?」



打撃によりズレたマフラーから覗くテオの顔…それは目元は人間なのに、鼻から下は猫のような黄土の毛に覆われた口元をしていた。



「なっ…何だよあれ…」



するとテオはすぐさまマフラーのズレを直し顔を隠す。そのテオにハヤが駆け寄り並んだ。



「お(にい)…」

「分が悪そうだ…帰るぞ、ハヤ」

「う、うん」



シャクル達を見据えたままのテオに、頷き抱きつくハヤ。その体を抱え上げ、テオはその場を走り去っていった。


その背中を見送るシャクルとリーシェは、自らの武器を納めてアヤメを見た。



「無事か?」

「う…うん、でもユーネさんが…」

「おいミネア!ユーネは大丈夫なのか?」



床に寝かせたユーネの胸に両手をかざし続けるミネアは険しい表情でゆっくりと頷いた。



「急所は外れてますから大丈夫なのですが…傷の範囲が広く、わたしだけでは…」



すると周囲から2人のカナフィーリン族の男が駆け寄ってきた。



「僕らもヒーラーなんだ。手伝うよ」

「すみません…ありがとうございます」



シャクルは再び辺りを見渡し、深いため息を1つ。



「『帝国が』…か。デカい組織に敵が多いのはどこも同じなんだな…ったく、ユーネにも護衛が必要かもな…」

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