P.104 遊戯の町への上陸(1)
2時間後。一行の姿は定期船の中にあった。定期船は大きな客船で、甲板はカフェテラスのようなオシャレな丸テーブルの並ぶ空間となっている。
その1つのテーブルを囲む一行。キリとアラーケはテーブルに俯せになり爆睡中。
「ご…ごめんなさい…」
謝罪しながら小さくなっていくミネアの横には、傷だらけでボロボロのシャクルの姿があった。
「いや…俺も悪かっただろうし…別にいい…」
しかし腑に落ちない表情。
「お酒苦手でして…酔うと記憶が無くなる~…っと言いますか、見境が無くなってしまうもので…」
チラりと向かいを見ると、何故かアヤメとユーネも傷だらけでボロボロな姿。
「う~…止めに入っただけなのにぃ~…」
「公務執行妨害だぁ~…」
「ごめんなさい…」
すると不満そうなため息をつくシャクルが横目にアヤメを睨む。
「お前は『止めに』なんか来てねぇだろうが…つーかお前のひっかき傷が1番痛いんだけどな」
「それはシャクルがミネアの胸触ったからでしょー」
「触ってねぇよ!躓いてブツかっただけだ、顔が!」
「どうせわざとでしょ~」
「んな訳ねぇだろ…てか何でお前にピーピー言われなきゃいけねぇんだよ…」
「女の敵にはピーピー言うわよ、むっつりシャクル」
「変なキャラ付けすんな」
黒いオーラが見えるような雰囲気で睨み合うアヤメとシャクル。その様子に慌ててミネアが間に入る。
「ちょっ、ちょっとケンカしないで下さいよ2人共…それにわたしなら別に気にしてませんから」
っとミネアが言うと、どこから現れたのか、ロンが両手をにぎにぎさせながらミネアに歩み寄ってくる。
「そうかい?ならもう1か――…
ドゴォッ!!
…――はぶぁっ!!」
振り向き様に拳を放つシャクルが、歩み寄るロンの体を吹き飛ばす。
「元の原因はテメェだ、じじい…」
数分後、シャクルの横には鼻血を流したまま椅子に縛りつけられたロンの姿が……騒ぎに目覚めていたアラーケとキリは不思議そうにロンを見つめた。
「フォっフォフォ~!いいパンチ持っとるのォ~若人よ」
「そりゃどーも…てかじいさん。何でこの船乗ってんだよ?」
「そんなん決まっておろう。ミネアちゃんのパイパイの感触が忘れられんでなぁ~♪」
そう言ってミネアを見、楽しそうに足をパタパタさせるロン。対するミネアは、ため息と共に呆れ顔で頭を抱える。
「パイパイ!?ミネアちゃんのパイパイ!?」
「うるせぇなアラーケ…おいじいさん、ふざけてんのかよ」
「ふざけてなどはおらんわい。あのパイパイの感触、お主も触ったんじゃからわかるじゃろ?」
「なっ!?」
「何ぃ~!?ズルいぞシャクル!!」
「お前は黙ってろっつーの!」
「どんなんだった!?やっぱ――…」
ドガッ!!
シャクルに詰め寄るアラーケの後頭部にミネアの踵落としが炸裂する。
「うるさい…」
「そ、そぉ~りぃ…」
「んで、結局本当の所じいさん何で乗ってんだ?」
「『何で』と言われても、ここは定期船。そんなんシュバーラッツに行く為に決まっておるわい」
これには「なるほど」っと手を叩くアヤメ。
「それは確かに。おじいちゃんはシュバーラッツに何の用なの?お家があるとか?」
「いやいや、余生を楽しむ為じゃよ。何たってシュバーラッツは世界最大の遊戯の町。巨大カジノに闘技場。もちろんバニーガールのおネェーちゃん達も楽しみの1つじゃ!」
その横でなぜか頷くアラーケ。
「この歳まで縛りつけられた生活……残り僅かの人生を楽しまなければ損ってものじゃ」
「縛らりつけられた生活?」
「カナフィーリン族の長、【ロンロアーヌ卿】ですものね?おじい様」
リーシェの言葉にキョトンのアヤメとシャクル。ミネアは「えっ!?えっ!?」っとリーシェとロンを交互に見、キリとユーネは「あ~やっぱり」っと数回頷く。
「何じゃ…バレとったか」
「どこかで見た事あるとは思っていたんですよねぇ…私」
「オレもだ。帽子にサングラスじゃわかんねぇよ、ロアーヌのじいさん」
「お~すまんの、ララグド宮殿王」
「しかしよく気づいたのう、リーシェちゃん」
「前に1度会ってるから、なんとなくたったけどね」
「はて?リーシェちゃん程の美人なら、1度会ったら忘れんはずじゃが……どこの集落出なんじゃ?」
「ワタシはロスブリアの出身じゃないわ。赤ん坊の頃にラーグ族のブレゴに拾われて育てられたのよ」
「ブレゴじゃと?…ほぉ~あのブレゴか!懐かしいのぉ。…ん?おぉ!!思い出したぞ!あのブレゴの横におった幼子か!?」
「えぇ。いつも父の背中にくっついてた、あの子供だったのよ、ワタシ」
「ほうほう。今はっきりと思い出せたわい。確かに面影があるの~……自分の種族にしか興味を持たぬあのブレゴが、カナフィーリンの子を育てる事自体驚きなのじゃが。あの幼子がこんな美女に育つとは更に驚きじゃわい!さぞブレゴもご満悦じゃろ?」
「さぁ、どうだかね?」
そう言いつつも嬉しそうなリーシェ。そのリーシェの肩をツンツンと突き、アヤメが顔を覗き込む。
「ねぇ、集落って何なの?」
「ロスブリアは幾つかの集落に分かれているのよ。まぁ簡単に言えば1つの島に、それぞれ違った文化を持った小さな町が点々としてるって事。その集落を全て総括しているのがカナフィーリン族の首都【アドア】。そしてこのおじい様…ロンロアーヌ様って事」
そう言ってロンを見るリーシェ。するとロンは「えっへん」っとした仕草で胸を張る。一方ミネアは「やっぱり~」っと1人あわあわしている。酔っていたとはいえ、KOした事に焦っているようだ。
「ほぉ。すげぇヤツだったんだな、じいさんは」
「しっかしロアーヌのじいさん。護衛も連れないで、長なのによく簡単に出歩けんな?」
「フォ~フォっフォ!簡単に出歩ける訳なかろう。なら、決まっておろうに」
っとVサイン。
「えっ?それってつまり~…内緒で抜け出してきた?」
「ピンポぉ~ン♪」
「おいおい…内緒って事は、まさか?」
引きつる表情でキリは皆を見渡す。
「うむ、そうじゃ。追っ手もおるじゃろうて」
「やっぱりかよ…」
頭を抱えるキリに対し、ロンはまじまじとアヤメ達を見回す。
「ララグド宮殿王がおるという事は、お主らは護衛の者らか?」
「オレも連れの1人だ。護衛はどっちかと言えばコイツの、だな」
キリはアヤメの頭をポンポンっと叩く。
「はて?お嬢ちゃんのか?」
「こちらはランティ城のアルシェン姫なんです」
ユーネの言葉にロンは少し考え、何かに気づいたように手を叩く。
「ヒューマ第3首都のランティ城のか。初めて会うからわからんかったわい。しかし、モルハスにヒューマの王家…加えタスマニカン帝国の兵とは…いったい何の一行じゃ?」
「いや…何でもねぇよ。ただシュバーラッツに用があるだけだ」
「そうか。まぁ何でもよいわ。ここで会ったも何かの縁じゃ。わしをシュバーラッツまで連れてってくれんかのう?」
「連れてくも何も、この船乗ってりゃ着くんだ。俺らといる必要ねぇだろ」
「追っ手があるじゃろ?」
「いや、だからだっつーの」
「シュバーラッツで遊んだら帰るから頼むわい!お礼はちゃんとするでのぉ」
両手を擦り合わせ、拝むようにシャクルに寄っていくロン。
「追っ手が来たら素直に帰る。お主らに迷惑はかけん」
「いや一緒の時点で既に迷惑なんだが…」
「待って下さいシャクル」
後ろからシャクルの袖を引くミネア。
「ロスブリア上陸の橋渡し、ロアーヌ卿にお願いするというのはどうですか?」
「あ~そっか」
「ん?何じゃ、お主らロスブリアに来たいのか?」
「あぁそうだ。橋渡し頼めんなら、一緒でも構わねぇが」
「来るなら一向に構わんが…わかっておるのか?ロスブリアは――…」
「あぁ大丈夫だ、リーシェから聞いてる。上陸するのも全員じゃない。だからロスブリアでの上陸メンツの安全も保証してほしいんだ」
「そんな事でいいなら構わんぞ。ミネアちゃんのパイパイに挟んでくれるなら」
「よし、ミネア」
「やりませんからーっ!」




