P.103 謎のスケベじじい(3)
バタバタでカムラに別れを告げ、エクシラを発つと大急ぎで馬車に乗り込み、キリキシア大陸の港へ到着したアヤメ達だったが……皆の姿は港の酒場にあった。
酒場はまだ昼前だというのに酒盛りをする船乗り達でほぼ埋まっている。
「…おいユーネ…」
「な…何でしょう…?」
「船の時間まで、あとどのくらいだ…?」
「い…1時間ですね、はい…」
そう言って、カウンター席に座るアヤメ達。並ぶユーネはシュンっと小さくなっている。それは急いで港に来たものの、港には客船はなく貨物船のみ。単純に時間を1時間まちがえてしまったからだった。
「すみませんでした…私のせいでバタバタで…」
「いや、別に乗り遅れた訳じゃねぇから気にすんなよ」
「そーですよ。あのエビフライ美味しかったですし」
っと言ってアヤメは目の前のサンドウィッチをパクり。
「――…っかぁ~!そうだぞ姉ちゃん。お陰で美味い酒が飲めてんだからよぉ」
大ジョッキで酒を一気に飲み干したキリ。
「ひっさしぶりの酒はやっぱ美味いぜ。おいマスター、もう1杯もらおうか!」
「ちょっとダメですよ、飲み過ぎですからキリさん」
隣に座っていたミネアがキリの手を止め、マスターらしき男に「もう結構です」っと言うように首を横に振ってみせた。しかし既にマスターの手には酒入り大ジョッキがあり、キリがそれを受け取った。
「いいじゃねぇかよ~。ほらミネア、お前も飲め!」
「へっ!?あ、ちょっ…うっ…ッ~~!」
ほろ酔い気味のキリは、楽しそうにミネアの頭をがっちり掴み、強引に口内にお酒を流し込む。
「ん~~ッ!!」
ジョッキの角度はいきなり斜め45度。もはや『飲む』と言うより『被る』に等しい状態。
「あ~キリさんキリさん、零れてる溢れてる~ミネアの口からぁ~!」
「あっひゃっひゃあ~♪」
その光景に慌てて割って入るアヤメに対し、完全に酔っ払い、大爆笑するアラーケ。
酒場の皆が注目する程「ワーワー」騒ぐ光景に、端の方に座るシャクルは深いため息を1つ。
「はぁ…ったく騒がしい…」
「あら、楽しくていいじゃない?」
「まぁ静か過ぎよりは、な…」
「いつもこんな感じなの?」
「ま…まぁな…」
全く騒ぎを見ようとせずに、静かにお茶を飲むシャクル。
「ひっ…ひゃあぁぁ~…」
ドサッ!
「ぎゃ~!ミネアが倒れたぁ~!!」
「うひゃ~ひゃっひゃぁぁ~♪」
「ハッハァ~!!これで倒れるなんてまだまだお子様だな!鍛えてやるからもっと飲め飲めぇい!!」
そう言うと倒れたミネアを起き上がらせ、無理矢理口の中にお酒を流し込むキリ。
「キリさんストップ~!!ミネアが死んじゃうよォ~!!」
「これはさすがに危ないでしょ!ちょっと宮殿王~!」
慌てて駆け出すユーネを見、再び深いため息1つのシャクルはリーシェをチラり。
「楽し過ぎだろ、ここまできたら…」
「まぁ限度もあるわね…」
「よいではないか、楽しい事は」
「まぁな――…って、え?」
聞き慣れぬ声に横を見ると、シャクルとリーシェの間。小柄でグレーのハンチング帽を被り、顔にはサングラス。そして白い口と目を覆うような髭と眉毛。旅用のフード付きマントを羽織る老人が座っていた。覗く耳はリーシェのように尖っており、どうやらカナフィーリン族のようだ。
「あら、いつの間に?」
「てかここ椅子あったか?」
唖然とした表情のまま老人を見つめるシャクルとリーシェ。
「ふぉ~ふぉっふぉ!愉快愉快じゃ!」
「誰だよ、じいさん」
「わし?わしは【ロン】じゃ」
「…そのロンさんが何の用かしら?」
するとロンは、リーシェの足の先から頭のてっぺんまでをなめ回すようにジぃ~っと見回す。
「ええ女子じゃのぉ~?お嬢ちゃん♪」
「うふっ。ありがと、おじい様」
「歳は何ぼじゃ?スリーサイズは何ぼじゃ?何カップじゃ?」
リーシェにすり寄っていくロン。
「何だよ…ただのスケベじじいかよ…」
「えっと、確か上から――…」
「答えてんじゃねぇよ!」
するとそこに慌てた様子でアヤメが駆け寄ってきた。
「シャクル~!キリさん止めてよォ~!」
「おほぉ~こっちもなかなかの逸材じゃあ~♪」
リーシェの元から、瞬間移動の如くアヤメの前に現れるロンに、アヤメは「うわっ」っとなるも、キョトンとした表情でロンを見つめ返す。
「ほえ?誰…ですか?」
「…ったく、酔っ払いはほっとけ」
まるで関心の無い様子のシャクル。するとロンはアヤメの顔にグイっと近づく。
「お嬢ちゃん幾つじゃ?」
「じゅ、16ですけ――…ひっ!?」
「若い娘はハリがあってええのぉ♪」
っと言ってアヤメの太ももを撫で回すロン。
「スベスベじゃのぉ~♪」
「だぁーっ!コラジジイ!!」
「変っ…たぁ~~~いッ!!」
ッ、バッシィィィィィンッ!!!!
平手打ちがロンにクリティカルヒット。宙を舞うロンの体は、フラフラになりつつも頭を押さえ起き上がるミネアの傍に……
「ふごっ!!」
「う…うぅ~…頭痛い…」
「…およ?」
ミネアの存在に気づいたロンが瞬時に倒れた体をクルりと起き上がらせた。そんなロンを不思議そうに見つめるミネアに、ロンの目が突然見開く。
「ッ!?モロ好みじゃあぁぁ!!」
「え?」
「あら」
「…何かヤバそうな予感だな…」
…―――むにゅっ♥
突如ロンはギラつく瞳でミネアの胸を両手でわしづかむ。
「ヘヴンズドアお~ぷんじゃぁ~♪ボインボインじゃ――…」
…――ゴッ!! ズガァァッ!!
瞬間的に振り下ろされたミネアの拳。巻き上がる砂埃と床の木片。その砂埃の隙間から覗く『V』字に逆立つロンの足。上半身が床を貫通して刺さっていた。
これには酒場の時間がピタっと止まる。
「う…うお…」
「ホントに開いたわね」
「あ、あぁ…ヘヴンズドア…」
「ワタシは触られないって、魅力無いのかしら?」
「いや触られたかったのかよ…?」
「うふっ。そしたら殺すわ♪」
「ハハ…ある意味手ぇ出さなくて正解だったが、結果死んだな…」
「ねぇシャクル、誰なの?このおじいちゃん」
「知らん」
するとミネアの踵がゆっくりと、そして高く振り上がっていく。
「ちょっ…まさかミネア!?」
「ミ、ミネアヤメろ!それ以上やったらじいさんマジで死ぬぞ!」
慌てて止めに入ろうとしたシャクルだったが、駆け出した足が床の木目の繋ぎ目に引っかかり、躓いたシャクルはミネアに激突して覆い被さるように倒れ込む。
「…ってぇ~…わ、悪ぃミネ――…」
「………」
「――…ア…」
ゆっくりと視線を上げたシャクルだったが…その顔は何やらピンクの布に包まれた柔らかい2つの"あるモノ"の間に埋められていた。そのシャクルに向けられていたのは、これまでに見た事のないミネアの"眼"であった。
「あ、いや…わ…わざとじゃ~ないんだ――…」
ドォゴッ!!
「ぐあぁッ!!」
倒れた状態からのミネアの蹴りが、シャクルの体を突き上げる。そして一瞬浮かび上がったシャクルめがけ、
「シャクルのエッチぃ~!!」
振り抜かれるアヤメの平手打ち。
バッシィィィィンッ!!!!
「はぶぁっ!!」
「ふぎゃ!」
吹き飛ぶシャクルの体は、今度はユーネに激突。再びシャクルは覆い被さるようにユーネの上に落下する。
「いってぇ~…なっ、何でお前まで――…って、あ…」
柔らかい感触のある手元に視線を降ろすと…シャクルの右手はユーネの頬を押し潰し、頭を床に半分埋め込んでいた。
「ぁ…わぁんふぁふぇ~(あんたねぇ~)…」
「あ、いや、わ…悪ぃ…」
殺気を感じ、咄嗟にどける手と共に睨むユーネの目がシャクルに向く。
「ケンカ売ってる訳!?あんたァ!!」
「おっ、俺のせいじゃねぇっつーの!!」
「うっさい!何で私だけお色気ネタじゃないのよ!?触る価値無い胸無しって事かコラーっ!!」
「怒るとこソコかよ!?」




