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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.09 遊戯の町
100/122

P.100 2つの誤解(3)

 外はもう夜だろう。だが洞窟内の町の景色は変わらない。街灯の役目のマザー結晶が照らす広場には、外れにある灯りの届いていない、石のベンチに座るキリの姿があった。


周囲には人影は無い。静かな空気だ。眠気からくる大きなあくびを1つし、10メートル以上先、微かに見える岩肌の天井を見つめた。



「…ったく、良い子は寝る時間だっつうの…」



そう呟くと共に聞こえてくる足音。近づいてくる足音に向くキリの視線…その先にいたのはカムラ。



「育ちが悪いくせに、良い子気取りか?キリ」

「こんな時間に呼び出す兄貴も、やっぱ育ちが悪いじゃねぇのかよ」

「それもそうだな」



そう答えて笑うと、カムラはキリの隣に腰かけた。



「んで、お姫さんの検査はどうなんだ?」

「もう少しで終わるよ。あとは結果を待つだけだ。彼女達はもう隊の支部で休んでもらっている」

「そっか」

「まぁアヤメさんのロスブリア上陸は大丈夫そうだ」

「なら次はロスブリアか…兄貴は来るのか?オレらと一緒に」

「いや、やめておくよ。霊召士(れいしょうし)に精霊…マザー根源の地ロスブリア…興味のそそられる事ばかりだが、興味本意で関わっていいようなものじゃない。戦う力も無いなら尚更だ」



するとカムラは、懐から黒い鉄製の鍵を2つ取り出し、キリに差し出した。



「…これ…双塔(そうとう)ゴルブルの鍵…」

「サカンドラでは『貸してくれ』と言ったが、お前に預けるよ、キリ」

「ハハ、なら天空都市の土産物でも考えとくとするか」



座る姿勢のまま、グっと背伸びをするキリ。それから大きく息を吐き、誰もいない広場の中央を見つめる。



「…オレを呼び出したのは、鍵を渡すのが目的じゃねぇんだろ…?」

「…あぁ」

「ハマナの事だろ?」

「あぁ」

「それならもういいだろ…だからといって別に兄貴をどうこう思ってるとかねぇから、弁解しなくても――…」

「誰もわた――…オレ自身の弁解じゃない。お前のハマナに対する誤解を解こうと思ってな」

「はぁ?オレが…ハマナに対する誤解?」



するとカムラは再び懐に手を入れ、1枚の封筒をキリに渡す。キリは「何だ?」っと言う表情で封筒を受け取った。


手にした封筒は少しの厚みがあり、中には便箋が何枚かあるように思えた。



「手紙か?これ」

「そうだ。ハマナからの手紙だ」

「っ!?」

「5~6年前に来た、最初で最後の手紙さ…オレの言葉だけじゃ、絶対にお前は信用してくれないだろうからな」

「…読んでもいいのか?」



カムラは無言で頷いた。キリはしばらく封筒を見つめ、ゆっくりと中から便箋を取り出した。便箋は長い1枚の紙がつづら折りになったものだった。




『~ カムラ へ ~


久しぶりだね、元気してる?

ワタシはあいかわらず元気過ぎるくらいだよ。キリもあいかわらず、イカつい顔して元気してるよー。』




「イカついって…あの女ぁ~…」



ちょっとイラっとした様子で手紙を読み進めていくキリ。




『いろいろ話したい事はあるけど、手紙じゃあね…今度絶対帰って来なさいよ~!そしたら飲みよ飲み!飲めないとは言わせないんだからね、そん時は。


でも、カムラがサカンドラを出ていってからもう10年か…長いようだけど、あっという間だったかも。


ねぇキリ?あの日の事…覚えてる?ワタシの19歳の誕生日。婚約の織物、キリに渡しに行った日の事』




「オレに…!?兄貴にじゃ…」

「いいから読んでやれ。最後まで…」




『カムラが戻って来ないのは…やっぱりワタシのせいなのかな?ワタシが…「キリに織物渡す」って言ったからかな?


ごめんね。ワタシがそう言った日、カムラがワタシに言おうとしてた事…知らなかった。後からキリに聞いたんだ…ごめんね。


キリから聞いた事だけど、カムラの気持ちは嬉しかった。小さい頃からずっと一緒だったし、カムラの事は本当に大好き。


でもね、やっぱりワタシはキリの事が1番好きなんだ。今も昔も…』




手紙はまだ続いていたがキリは読むのをやめ、大きく息を吐き、天井を見上げた。



「本当に…ハマナの字だなこれは…」

「おいおい、オレが書いたとでも思ったのか?」

「最初はな……けど…本物だ…」

「キリ、お前の言う通りだったな」

「何がだよ?」

「オレは逃げたんだ…ハマナと…お前から」



そう言うとカムラは立ち上がり、グっと背伸びをする。



「ハマナの誕生日の数日前、想いを伝えに行ったが…先に言われてしまった…『キリに織物を渡したい』ってな」

「………」

「『顔会わせればケンカばかりしてたけど、自分の為じゃなく、誰かの為に在ろうとするキリが好きだ。王としての器だけじゃない、何より自分の気持ちがキリを選んだ』ってな…」

「嘘だろ…」

「嘘ではない。ハマナの本当の気持ち…本当は知っていたからこそ、余計に辛かった…だからオレは逃げた。お前が織物をもらうのを見れず…逃げたんだ。ハマナから『1番最初に祝ってほしい』っと言われ、了承したくせにな」



カムラは見上げた視線を地面に落とし、深いため息を1つ。



「小さい頃から…結婚してからもアイツ、『アンタなんか大っ嫌い』とか『カムラみたいに……カムラみたいに…』ってばっか言ってたじゃねぇか…」

「よく言うだろ?ケンカするほど仲がいいって…あれは本当だな」

「…にしちゃあ言い過ぎなんだよ、アイツ…」

「手紙の最後の1文、読んでやってくれ…」



キリは再び手紙を手にし、最後の1文に視線を向けた。




『もしワタシがカムラより先に天国に旅立っちゃったらさ、キリに伝えてほしいんだ。「ありがとう、幸せだったよ。素直になれなくてごめんね」って』




「…あのバカ……オレが先に逝っちまうかもしれなかったろうが…」

「キリ…オレからも『ありがとう』と『すまなかった』と言わせてくれ」

「いいって…兄貴もハマナも、オレの大事な家族だ。今も昔も、気持ちは変わらねぇ」



キリはゆっくりと立ち上がり、カムラの背中を軽く叩く。



「兄貴…ハマナのブロ――…」



言葉を切るようにキリの目の前に差し出された1つのブローチ。これにはお互いに少し驚いたような表情になり、一拍おいて互いに笑い出す。



「ハっ、さすが兄弟だな?兄貴」

「そうだな。こういう時だけは、考えは同じなんだな」



笑い合う中、カムラの手からブローチを受け取るキリ。



「やっぱりコレはオレが持つ。ハマナの為に」

「あぁ…手紙も――…」

「いや、手紙は兄貴に送られたもんだ。持ってろよ」

「そうか…」

「これなら3人…いつも一緒って事だからよ…」

「あぁ、一緒だ…」



カムラが頷くと、2人は無言のまま互いに拳を合わせ、すれ違うように別方向へと歩いていった。

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