P.001 プロローグ(1)
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夢を見た――…
薄いもやがかかったような私の視界には、見渡す限りの青い海。見上げてみれば空も同じ青。足元には白い砂浜……
どこだろう?知らない場所…でもどこか懐かしい。
「何ボーっとしてんだよ?」
突然聞こえた男の人の声。振り返るとそこには1人の男の人が立っていた。顔はボヤけてはっきりとは見えないけど、少し耳にかかるくらいの銀の髪に、白いYシャツと黒いズボン。細身で背の高い人。
その人はゆっくりとした足取りで、私に並んでグっと背伸びをする。
「この浜辺でお前と出会って、もう1年が経つんだな…早いもんだよな」
『お前』って、私?私と出会って…?
夢の中とはいえ、私に銀色の髪の知り合いなんていない。顔もはっきりしないからなおさら。なのに景色と同じ。どこか懐かしい…
「…ん?どうした、俺の顔に何かついてるのか?」
見つめていた男の人の顔がこっちを向いた。でも表情までは確認は出来なかった。
「おいおい何黙り込んでんだよ?ほら帰るぞ、家に」
その人はそう言って背を向けて歩き出していく。離れていく背中…私は不思議とその人から離れたくなかった。なのに私はその場から動けない。ましてや声も出せない…夢の中なのに金縛りにでもあったかのような感覚。
「(待って…行かないでっ…!)」
そう頭の中で繰り返し、必死に離れていく背中に訴えかける。だがやはり声は出せない。
そうしている内に、どんどん離れていく男の人とすれ違うように、金色の光りを放つ小さな球体がこちらに向かってきた。
「(な…何…?)」
ゆっくりと光りの球体は私に近づいてくる…夢とはいえ込み上げる恐怖感。叫びたくても、離れていく男の人を呼びたくても声は出せない。動けない。
「(ちょっ…ちょっと何なの…嘘でしょ!?動けない!助けてよ…助けて…っ)――…
…――シャクルーッ!!」
ドンッ!
まるで鈍器に殴られたかのような衝撃が私を襲い、暗闇になった視界に響いた別の声――…
「時間だよ…マスター…」