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ショッピング

前話から時間が空いてしまい申し訳ありません。

不定期更新ですが、お付き合いいただけたら幸いです。

窓から太陽の光が差し込んでくる。

ようやく朝だ。

何とか理性が勝利できたようだ。

少し眠れたが、熟睡とはいかなかった。

そのぶん寝顔を堪能した。

「んー」

鮎川がもぞもぞと動く。

そろそろ目を覚ましそうだ。

「おはよう」

少しぼんやりとした鮎川に微笑む。

鮎川は恥ずかしそうに毛布で顔を隠してしまう。

「おはよう。もしかしてずっと見てたの?」

「ずっとじゃないけど、かわいい寝顔だったよ」

「もう…」

「夢でおいしいものでも食べたのか?寝言が出てたぞ」

「えっ、全然覚えてないよ~」

「ははっ、ぐっすり眠れたようで良かったよ」

「そういう先生は何だか眠そうだね」

「そりゃあ…」

「私と同じベッドで緊張しちゃった?」

「あたりまえだろ。女の子と寝るなんて経験無いからなあ」

「そうなんだ~」

大きめな俺のシャツを着て抱きついてくる彼女。

「大人をからかうんじゃありません」

「は~い」

照れてるのは俺だけか。

さて、まずは鮎川の服を買いに行かなきゃな。


さすがに俺の服を着て買い物に行くのは難しいので、どうしようか考える。

宿の奥さんが朝食の案内に来たところで相談してみる。

「そういう事情なら私の服を貸しましょうか?」

「助かります」

鮎川は小柄なので奥さんの服でも大きいだろうが、俺の服よりはましだろう。

「私はずっとこの服でもいいのにな」

「さすがにそういう訳にはいかないだろ」

「服屋もこの通り沿いにありますから、朝食を食べたらのぞいてみて下さい」

「こんな朝早くからやっているんですね」

「早いお店は日の出から営業してますよ」

日本の感覚とは少し違う。

こういった常識も修行中に学んでおけばよかったかな。


朝食は昨日と同じようなメニューだ。

やはり焼きたてのパンは美味しい。

お腹もいっぱいになり、準備をしたら買い物に向かう。

借りた奥さんの服は一般的な村人という感じだ。

3分ほど歩いたら服屋に着いた。

この世界では古着屋が一般的なようだ

中に入ると主に女性用の服だった。

こんなところも現代と同じで、服に興味があるのは女性ということか。

種類はさほど多くないが、ひと通りそろえる程度なら問題なさそうだ。

「あまり高い服は買ってやれないが、2万Gくらいで買っておいで」

「先生も一緒に選んでよ」

「俺にそんなセンスは期待しないほうがいいぞ」

「いいの。先生がいてくれるだけで十分だよ」

「わかったよ」

鮎川が服を選んでいく。

普通にスカートなども売っている。

さすがに冒険用ではないが、街での普段着として着るようだ。

ブラウスとTシャツを2枚ずつ、スカートとジーンズを1本ずつ買った。

あとは下着と靴下を買ったようだ。

さすがにそちらは見られないが、いわゆるかぼちゃパンツらしい。

男用とそれほど差は無いようだ。

靴もブーツのような、この世界で一般的なものを買った。

この店は古着といっても比較的きれいな商品を扱っていた。

何とか予算内で収まった。

これで手持ちは1万G弱と、やや心細い。

鮎川にお金の心配はさせたくないので、午後は魔物を狩りに行こう。


「鮎川がスカートをはいた姿を初めて見たな」

鮎川は店で着替えてブラウスとスカート姿だ。

小学生の時はずっとズボンだった印象がある。

「昔は動きやすさ第一で選んでいたから。でも中学に上がって制服を着るようになったら、

私服でもスカートをはくようになったよ」

「そうか。女の子らしくてかわいいと思うぞ」

「えへへ。ありがと」

「さて、昼ごはんを食べたら魔物を狩りに行こうと思うんだが、宿で待ってるか?」

「一緒に行く!」

「でも、危ないぞ」

「昨日先生の強さは見てたし、離れて見てるから。お願い」

「まあ、このあたりの魔物なら強い奴はいないし、いいよ」

「やった。じゃあ着替えてくるね」

スカートでは動きづらいのでジーンズに着替えるようだ。

宿で奥さんに服を返し、お礼を言う。

昼食のことを聞いてみると、別料金だが用意できるとのこと。

せっかくなのでサンドイッチを頼み、外で食べるか。


そんなこんなで俺たちは森に向かって散歩中だ。

「天気もいいし、ピクニックみたいで楽しいね」

「お弁当も作ってもらったしな。ここらで食べようか?」

「はーい」

街道脇の草原に腰を下ろす。

「おっ、すごいボリュームだな」

肉の薄切りが大量にはさんであり、野菜やチーズなど盛りだくさんだ。

「いただきまーす」

「いただきます」

二人でかぶりつく。

それはまるでジューシーなローストビーフのようだ。

「うわ、おいしい」

「ああ。これはうまいな」

ダンナさんと話したところ、ここは野菜より肉のほうが安いというアメリカンな世界だった。

自分も鮎川くらいの年のころは肉ばかり食べていた気がする。

そのあたりは男子も女子も同じだろう。

これで一人前300Gは安い。

「あーおいしかった。ごちそうさま」

「満足できたか?」

「うん。このお肉がサイコーだね」

「じゃあ、少し休んだら行こう」

俺は草原の上に横になった。

鮎川が俺の腹を枕にして横になる。

緑の匂いを乗せたそよ風が彼女の髪を揺らす。


俺はいつの間にか眠ってしまったようだった。

伸びをして、何とか目を覚ます。

魔物が出る森までは若干距離があるので歩いて移動した。

そんな急ぐことは無いだろう。

「さて、じゃあ少し狩りをしようと思う。魔物が出たら、鮎川は少し離れていてくれ。」

「気をつけて。ケガしないでね」

「ああ。ありがとう」

5分ほど森の中を歩いたところで前方に気配を感じた。

ウルフだ。

本来群れをつくる魔物のため1体でいるのは少し違和感があったが、気にせず火魔法で倒す。

「ウオーーーン」

それほど強い魔物ではないし、落ち着いて魔石を回収する。

あたりの気配を探ると、少し離れた場所に複数の反応を見つけた。

こいつは群れの偵察役だったのだろう。

先ほどの鳴き声に反応したのか、かなりの速度でこちらに向かってくる。

「鮎川、ウルフの群れだ。数は17体。魔法で倒すが、数が多い。俺から離れるな」

「うん。わかった」

視界に捉えた端からファイヤーボールを連発する。

11、12、13…2体が背後に回りこんだ。

鋭い牙で俺たち…いや、鮎川に向かって跳びかかってきた。

体の小さい鮎川のほうが弱いと判断したのだろうが、そうはさせない。

身体を魔力で強化。

1体を蹴り飛ばし、もう1体は両手で掴んで投げ飛ばす。

そうして、ある程度距離をとったところで、火魔法でトドメをさす。

もちろん素手でも殺すことはできるが、鮎川の目の前でグロテスクな光景を見せるのを避けただけだ。

火魔法だと煙が晴れるころには魔石しか残っていない。

「怖くなかったか?」

「うん。先生が守ってくれるって信じてたから」

いい笑顔でそう話す鮎川は俺を信じきっているようだ。

「おいおい、俺を信じてくれるのは嬉しいが、もし俺が悪いやつになってたらどうするんだよ?」

「先生がどれだけ私を心配してくれたか、昨日ずっと見てたし。それに、昔の先生を知ってるからね」

少し恥ずかしそうに話す彼女につられて、俺も照れる。

「そ、そうか。でもここは日本じゃないから注意は必要だぞ」

魔石を回収して、町に戻ることにする。

あれ?1つ足りない。

よく見ると、足元にトランプくらいの石版が落ちていた。

拾い上げるとウルフのような動物の絵が刻まれている。

「うーん、何だろうね?」

「俺にも分からないが、ウルフが魔石の代わりに落としたアイテムだろうな」

ギルドで買取の時にでも聞いてみよう。

う…そういえば俺はギルドに事情聴取を受けることになっていたんだった。

思い出さないようにしていたのに、昨日の光景が浮かぶ。


いくらあの少女を助けるためとはいえ。

いくら相手が盗賊とはいえ。

いくら目の前の光景が許せなかったとはいえ。

いくら怒りに我を忘れていたとはいえ。


俺は人を殺してしまったのだ。













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