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白い子犬

森の中を東へ走る。

ローズやナナのおかげだな。体が軽く感じる。

今の服装は冒険者風のズボンにシャツ、ジャケットにマントといった格好だ。

アイテムボックスは使える人が少なくて目立つということで、

カムフラージュのために大きめのリュックを背負っている。

これらはローズからのプレゼントだった。

汚れが目立ちにくいグレーや茶色の基本的な装備で、

街を歩いても違和感が無さそうだ。

剣は走るのに邪魔なので、アイテムボックスの中にある。

なぜ魔法使いなのに剣なのかというと、ローズの好みだ。

実際、杖が無くても魔法は使える。

あれば、より正確に発動するという程度だ。

まあ、俺も剣と杖の2本を持ち変えるのは手間だと思う。

杖の代わりに魔力の込められた指輪という選択肢もあるし、必要なら追加しよう。


ローズの家周辺は結界を張ってあるため、弱い魔物は入れない。

強い魔物は頭も良いので、わざわざ危険を冒してまで入って来ない。

もう少し行くと山道に出るはず。

そのあたりからは魔物も出るので気を引き締めて行こう。


「…キャン…」

今、遠くで犬の悲鳴が聞こえた。

気配を探ると300mほど先でオークに追いかけられている犬を見つけた。

この世界に来て、犬は初めて見た。

動物好きとしては見捨てられない。助けよう。

更に加速して犬の近くまで走る。

まさにオークが斧を振り下ろそうとしたところだった。

「させるか!ファイヤーボール」

寸前で俺の魔法が直撃して、オークは絶命する。

「ふう。ギリギリ間に合ったな」

幸いこのオークはそんなに強くなかった。

白い子犬は後ろ足と背中に怪我をして気を失っていたので、急いでヒールをかけた。

1回では回復しなかったので、2回目は魔力を集中させて強化する。

「これで治ってくれよ…ヒール!」

先ほどより強い光に包まれた子犬は目を覚ましたようだ。

俺の姿を見つけたとたん驚いたような顔をしたが、

腕の中に飛び込んできた。

心細かったんだろう。目には涙を浮かべている。

「もう大丈夫だぞ。怖いオークは倒したからな」

「キャン、キャン」

「よしよし。怖くないよ。親もいないようだし、俺と来るかい?」

「わん!」

「よし。じゃあおいで。まだ怪我が治ったばかりだから抱っこしてあげるよ。」

子犬はぎゅっとしがみついてくる。しっぽも振りっぱなしだ。

かわいい。かわいすぎる。

撫でてやると、気持ちよさそうに体をすりよせてくる。

ずっと撫でていたい気もするが、目的を思い出した。

「さて、じゃあ街までとばそうか」

揺れを気にしながら走り続けた。

途中で食事休憩をとっている時も、水で柔らかくしたパンをあげたら喜んで食べていた。




なんとか日が落ちる前に街までたどりついた。

ここまで走り続けて疲れなかったなんて、3年前の俺では考えられない。

修行で確実に体力はついたようだ。

道中で魔物を20体ほど倒してきたので、まずは魔石を換金に行こうか。

たしか、冒険者ギルドで買い取ってくれるはず。

スライムやウルフ、子犬を襲っていたオークなど魔石の大きさは様々だ。

基本的には強い魔物ほど魔石が高く売れるらしい。

いくらで買い取ってもらえるのか楽しみだ。

街の人に場所を聞いて向かう。

大きな建物にたどりついた。

鎧に身を包んだゴツい兄貴や魔法使いの人がたくさんいるので間違いないだろう。


中に入るとカウンターが2つ。

初めての場所なのでどうすればいいのか分からない。

この子も興味津々といった感じできょろきょろしている。

「ようこそ冒険者ギルドへ。初めての方ですか?」

こちらに気づいた受付の女の子が声をかけてくる。

「はい。魔石を買い取ってほしいんですが」

「ではこちらへどうぞ。鑑定しますので少々お待ちください」

女の子は魔石の袋を持って奥へ行く。

「これは…あなた一人でブラッディスライムを倒したのですか?」

「はい。何かおかしなことがありましたか?」

「いえ、スライムという見た目に騙されて、殺されてしまう方が多い強敵なので。」

「確かに苦戦しましたね。時間はかかりましたが何とか倒せました」

まあ、実際は魔法で一撃だったのだが。

「お待たせしました。20体分で53,200ゴールドです」

大銀貨5枚・銀貨3枚・大銅貨2枚を受け取り、お礼を言う。

「冒険者登録をして頂ければ、その壁に貼ってあるクエストの報酬も受け取れますよ。

採取や討伐、探索、護衛などいろいろありますので、よろしければどうぞ」

「ありがとうございます。考えてみます。

そうだ、宿を探しているんですが、オススメってどこかありますか?」

「それでしたらこの通りにある『黒猫亭』がおすすめですよ。」

「助かります」


ギルドを出て50mほど歩くと、黒猫亭が見えてきた。

3階建てのアットホームな雰囲気の宿だ。

「ようこそ黒猫亭へ。お一人ですか?」

猫耳の付いた女性が奥から出てきた。

この世界には獣人もいる。

耳とかしっぽが付いているが、他はほとんど人間と変わらない。

「はい。この子も一緒で大丈夫ですかね?」

「大丈夫ですよ。かわいい子ですね。夕食と朝食が付いて8,000ゴールドです。

お風呂が付いている部屋は10,000ゴールドですが、どうしますか?」

「じゃあ、お風呂付きの部屋で。」

「ありがとうございます。もうすぐ夕食ですが、すぐにお持ちしてもいいですか?」

「はい。あと、この子用にミルクをいただけると助かります。」

「ふふっ。サービスでつけておきますね。お部屋は3階のつきあたりです」

「ありがとうございます」

カギを受け取り、部屋に入ると子犬がそわそわしているようだ。

モフモフしようとすると、力を抜いて体を預けてきてくれた。

遠慮なくモフモフさせてもらおう。

両手で体の隅々まで撫で回す。

頭、背中、お腹、しっぽ、どこもさわり心地が最高だ。

時々ピクッとなるのがかわいい。

あとで風呂にも入れてやろう。

そうだ。確認したところ女の子だったので、名前はマリーにした。


食事はおいしかった。

ただ、豚肉のしょうが焼きにパンという組み合わせなのが惜しい。

この世界に米はないのだろうか。機会があれば探してみよう。

マリーはミルクをおいしそうに飲んでいた。

ちょっと飲んでみたら牛乳よりもすっきりした味だ。


食事の後は風呂だ。

この世界に来て風呂に入れたことはありがたい。

日本の風呂に慣れてしまうと、水浴びはなかなかキツいものがある。特に冬。

原理が気になったが、水を火魔法で暖めるという至ってシンプルな方法だった。

マリーは水が怖いのか、一緒に入ろうとしない。

仕方ないので強引に風呂場に連れて行き、体を洗ってやる。

石鹸で体中を泡だらけにしている姿もかわいいな。

洗い流して湯船につける。

俺の腕にしがみついてくるが、気持ちよさそうで何よりだ。

風呂から上がるとプルプルと水を振り落とそうとしている。

あまり上手くいかないらしいので、タオルでわしわしと拭いてやる。

足の怪我はきれいに治っていたが、背中には傷跡が残っていた。

もう一度ヒールをかけてみる。

だが、傷跡を消すのは難しいようだ。

「完全に治してやれなくてごめんな。」

マリーは俺の手に顔をこすり付けてくる。気にするなということかな。

さすがにドライヤーは無いので自然乾燥だが、この3年で慣れた。

下着なども洗濯し、室内に干していく。

もちろん手洗いだ。ボタン一つの洗濯乾燥機が懐かしい。


さて、寝るか。

「マリー、おいで。一緒に寝よう」

しっぽを振りながらベッドに飛び込んでくるマリー。

俺を見つめながら腕の中で丸くなっている。

今日出会ったばかりとは思えないほど懐かれたが、悪い気はしない。

誰かの温もりがあることにほっとしている自分がいる。

「こうして、のんびりマリーと過ごしていくのもいいかもな」

マリーを抱き、眠りについた。



読んでいただき、ありがとうございます。


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