ステータス
「ここが異世界か…あんまり地球と変わらないな」
高山が倒れていたのは森の近くの草原だった。
「服装はあの日のままだな。とりあえず、ステータスやスキルを確認しておくか」
ステータスと心の中で念じてみると、目の前に俺のステータスが表示された。
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名前:ヤスヒコ・タカヤマ
職業:魔法使い
レベル:1
HP:500
MP:1000
状態:異常無し
スキル:翻訳
鑑定
初級魔法(火①・水①・風①・土①・光①・闇①)
アイテムボックス
料理
栽培
教育
加護:次元神の加護
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HPとMPは高いのか低いのか分からないが、強化したということは高いほうだろう。
翻訳と鑑定はテンプレだけど助かるな。
6属性の魔法が使えるのか。初級というのが気になるが、まあレベルを上げていけば大丈夫かな。
アイテムボックスの中には、パンと干し肉、樽に入った水がたくさん入っていた。
とりあえず飢え死にはしないだろう。
下の3つのスキルは趣味と仕事で身についたものかな。役に立てばラッキー程度か。
加護?あいつは次元神っていうのか。よく分からないがありがたくもらっておこう。
腹ごしらえを終えて、早速魔法を使おうと試行錯誤していた。
「ファイアー」、「ファイアーボール」、「フレイム」と色々唱えてみても出ない。
心の中で唱えても出ない。
何か杖のようなものが必要なのかと思い、拾った木の枝を使ってみるも出ない。
「うーん…どうすれば使えるんだ?」
そんなとき、頭の中に声が響いてきた。
『お困りのようだね~。ちょっとだけアドバイスをあげるよ』
あの間延びした声。次元神だった。
『集中とイメージさ。目を閉じて右手に魔力が集中するように意識してごらん。少し暖かくなってこないかい?そうしたら今度は目標に向かって火の玉をぶつけるイメージで、ファイヤーボールと唱えるんだ』
言われたようにやってみる。
「イメージして…ファイヤーボール!」
ドガン ゴォー
目標にした3メートルほどの木が一瞬で炎上した。
えっ、初級魔法だから小さな火の玉くらいじゃないの?
「今のは何だ?」
次元神は腹を抱えて大笑いしているようだ。
『ハッハッハッ、苦しい~。魔力を使いすぎだよ。普通の初級魔法は10MPくらいで使えるのに、今のは半分以上消費しちゃったんじゃない?』
ステータスを確認してみると、MP:370という表示なので630も使ってしまったことになる。
『この世界では初級魔法でも上級魔法並みに強くすることが可能なんだ。ポイントは注ぐ魔力量と熟練度そして使用者の力量だね~。今の魔法の威力は普通のファイヤーボール10発分くらいかな~』
「つまり、俺は10発分の威力のために63発分もMPを消費したってことか?」
『正解~パチパチパチ。この方法は効率が超悪いのさ。ただ、イザというときの切り札にはなるかな。まあ、普通の魔法使いには無理だけどね~』
「なるほどな。ちなみに熟練度ってのは火①とかの数字のことだよな?」
『そうだよ~。使えば使うほど熟練度は上がるから、特化するのもバランスよく上げるのも君次第だね。いや~贅沢な悩みだよ』
「? まあいい、今回は助かったよ。ありがとう。」
『いえいえ、どういたしまして。でも、本当は今回みたいに頻繁に出てくることはできないんだ~。その代わり、ヘルプ機能を強化しておくよ。調べたい項目に意識を集中すると詳しい説明が出てくるんだ~』
「それはありがたいな」
『最後に、ポーションとMPポーションをいくつかアイテムボックスに入れておくよ。じゃあ、がんばってね~』
「いろいろありがとう。またよろしく頼むよ」
気配は消えたようだ。
「さて、じゃあ今日は魔法の練習だな」
幸い人の気配は無いので、色々な魔法を試していった。
相手はスライム。直径20cmくらいの透明なゼリーだ。
どうやらMPは時間経過でわずかに回復し、食事や睡眠で1~2割回復できるようだ。
魔法についてヘルプ機能で調べた結果、
初級火魔法『ファイアーボール』:火の玉を飛ばす。
初級水魔法『ヒール』:HPを小回復させる。
初級風魔法『ウインドカッター』:つむじ風を起こし、範囲内にダメージ。
初級土魔法『ストーンバレット』:石つぶてを対象にぶつける。
初級光魔法『ホーリーライト』:聖なる光で闇属性の対象にダメージ。
初級闇魔法『ダークミスト』:黒い霧を発生させ、吸い込んだ対象を状態異常(混乱)にさせる。
水魔法は回復系統らしい。
うーん、光魔法と闇魔法が微妙だな。
まあ中級魔法からに期待しよう。
そんなこんなで魔物を倒していくが、所詮はスライム。多少まとめて襲い掛かってきたところで魔法1発で殲滅可能だ。さすが強化されているだけある。
魔物を倒すと魔石を落とす。ちなみにスライムの魔石は直径1cmにも満たない小さなものだ。時にはレアドロップもあるらしいが、まだ見ていない。
魔石は街で買い取ってくれるらしい。
「そろそろ街を探してみようかな」
そう思い、荷物をまとめていたところ、何かが猛スピードで近づいてくる。
「何だ?」
数秒もしないうちに、10mほどの位置に降りた白い鎧。
顔全体を覆う兜で表情は見えず、肩には黒いウサギが乗っていた。
いきなりのことに驚いていると、突然質問が飛んできた。
「昨日から森が騒がしくてかなわん。原因はおまえか?」
「それは申し訳なかったな。俺はヤスヒコ・タカヤマ。魔法使いだ」
「私はローズ。この森に何の用だ?」
「俺は…魔法使いとして旅を始めたばかりで、魔法の訓練をしていただけなんだ」
迷ったが、異世界から来たことは伏せておいた。
「ほう。見かけぬ格好に珍しい魔力…おまえ、この世界の住人ではないな」
はい。一発でバレました。まあ、この格好だしね。
「やっぱりバレるよな」
「実は以前にもおまえのような奴がいてな。一度会ったことがある」
「その人はどうなったんだ?」
「魔王に戦いを挑んで殺されたと聞いているよ。才能はあったが、それだけでは魔王は倒せない」
「…そうか。ところで、珍しい魔力と言っていたが、俺はどのくらいの強さなんだ?」
「さっき言った奴よりも弱い。私から見たらまだまだだな。試しに私に向かって魔法を撃ってみるか?」
「いいのか?じゃあ遠慮なくいくぞ」
最初に使った時のように、多めに魔力を込めるイメージで
「ファイヤーボール!」
大きな火球がローズに向かって飛んでいくが、彼女に当たる前に消えてしまった。
今、ウサギに吸い込まれたように見えたんだが?
ローズはウサギを撫でながら言う。
「あの程度の魔法ならこの子が食べてくれるからね」
「俺はウサギ以下か…」
orzのポーズでうなだれている俺に、ローズは声をかけてきた。
「事情を話してくれれば、力になれることがあるかもしれない」
事情を説明したところ、
「お前の魔力には興味がある。私が教えてやろうか?」
「それはありがたいが、ローズは魔法使いなのか?」
「ああ、魔法も使えるぞ。6属性を上級までな」
「よろしくお願いします。師匠」
こうして俺はローズに弟子入りすることにした。
ヤスヒコは知らない。
実は自分もレベル1にしてすでに国内で上位の実力を持っていることを。
このあたりに強い魔物がいないのは、ローズが全滅させてしまったからだということを。
そして彼女がこの王国No.1の魔法使いだということを。
(元)教え子の登場はもう少し先です。
しばらくお待ちください。




