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襲撃

やや残酷な描写があります。

ご注意ください。

昨夜、街のはずれの民家から若い夫婦がさらわれた。

犯人は不明。

扉は力づくで壊されたようだった。


今朝、街の入口で夫は変わり果てた姿で見つかった。

体中に傷跡があり、首を絞められて殺されたらしい。

その犯行は人間の力では不可能なことが明らかだった。

締められたというより、首の骨まで粉々に握りつぶされていたのだ。

彼の背中には、こう刻まれていた。


【祭りの始まりだ】




いつものようにギルドに顔を出したところ、昨晩の不気味な事件の話を聞いた。

「詳細は不明ですが、いつも以上に警戒してください」

「しかし、人間の力では難しい犯行ですか……」

「ええ。獣人や魔物という可能性もありますが、どちらも不自然です。獣人でもあそこまでの力は無いでしょうし、魔物なら体に文字を刻むなどという複雑な行動はしないでしょう」


「祭りの始まりですか。何だか気になりますね」

「ギルドでも調査していますので、ヤスヒコさんたちも何か手がかりがあれば報告お願いします」

「わかりました」


少し気になるので、今日はあまり森の奥へ行かないようにしよう。



森の中でいつものように訓練を兼ねて魔物を倒していると、遠くに嫌な気配を感じた。

背筋がぞくりとするような強いものだ。

この世界に来て初めてかもしれない。

「この気配は何だ?何かが街に近づいてくる」

「えっ?先生、どうしたの?」


ドオオオーン

街のほうから爆発音が響く。

煙も上がっている

これは異常事態だ。


「舞、街に戻るぞ」

「うん」

舞を抱え上げ、街まで走る。


街に近づくと、悲鳴も聞こえてきて、かなりの被害が出ているのが分かる。

視界に入るだけでも数十匹の魔物が街に襲い掛かってきていた。

あちこちで冒険者や住民が魔物と戦っている。


近くにいる魔物を片っ端から倒し、怪我人を見つけるたびに回復させる。

「くそっ、キリがないな。舞、大丈夫か?」

「大丈夫だよ。このくらいの魔物なら私でも何とか倒せるから」


ギルドの方角へ向かうと、ギルドマスターが指示をとばしていた。

「おお、無事だったか!お前たちも手伝ってくれ!街の東側の被害が大きいんだ。加勢を頼む」

「了解」


俺達は東へ走った。

そこはまさに戦場だった。

あちこちに倒れている人がいる。


今戦っている冒険者もあちこちに傷を受けていて、こちらが押されている。

「一体ずつ仕留める。舞は戦いながら回復にまわってくれ。気をつけるんだぞ」

「わかった。先生も気をつけてね」


魔法で遠距離から攻撃を加え、仕留めていく。

「援護する!皆、立て直すんだ。なるべく大人数で魔物を囲むように」

「助かる」

「おお」


舞と二人でヒールをかけてまわり、怪我人を回復させていく。

見える範囲の魔物を倒していく。

「よし、このままいけば押し返せるぞ。その調子だ」


そんなとき、声が聞こえてきた。

「ギャハハハ、人間どもは皆殺しだ!」

これまで見たことの無い魔物が、人間の足らしきものを引きずっている。

姿は日本人のイメージする鬼に近いかもしれない。


「ま、魔人だ!」

「何でこんな小さな街に魔人がいるんだ!」

冒険者が口々に叫ぶ


「魔人だと?舞は下がって怪我人の治療を頼む。あいつは俺が止める」

舞や他の冒険者をこいつと戦わせるのは危険すぎる。

「分かった。先生、気をつけてね」

舞は街の中心に向かって走っていく。





「やけにあっさり逃がしてくれるんだな」

「どうせお前を始末したら捕まえに行くしな。俺様から逃げられるわけねえだろ」


10メートルほどの距離を置いて魔人と対峙する。

「あの小娘はお前の女か?」

「そうだと言ったら?」

「ケケッ、俺は小さなガキをいたぶるのも好きなんだ。いい悲鳴をあげてくれる。動けなくなったお前の目の前で、最高のショーを見せてやるよ。特別だぜ」

「そんなことは絶対に許さん!舞は俺が守る!」

「お前に見られながら、一体どんな声で鳴くんだろうな。邪魔な服を破って、指を1本ずつ折って、足の肉をえぐって……」

「それ以上しゃべるな」


俺は魔人に斬りかかる。

魔人は片腕で軽々と受け止める。

「おいおい、口ほどでもねえな」

「うるさい」


ファイヤーボールを連発、更に風魔法で土を巻き上げ、目くらましにする。

「チッ、うっとうしい」

奴の背後に回りこんで、剣で斬りつける。

しっかり両腕でガードされる。少し傷を負わせただけだ。


「痛えじゃねえかこの野郎、こっちから行くぜ」

猛スピードで突っ込んできて、力任せに殴りかかってきた。

右手に黒いオーラが集まっている。

氷の盾を出して防ぐが、一撃で粉砕される。

「くっ」


奴の連続攻撃を避けきれず、喰らってしまう。

ガードしたというのに体の奥まで痛みを感じる。

俺はそのまま壁を壊して後ろにあった建物に突っ込む。


自分にヒールをかけて立ち上がり、魔法で反撃する。

黒いオーラだから、あいつは予想通り闇属性だろう。

光属性の魔力を剣に纏わせる。


魔人は俺の剣を見て、警戒したように避ける。

「へえ、なかなかやるじゃねえか!」

俺は無言で剣を振るい続ける。

ほとんどは避けられるか両手で捌かれるが、いくつか奴の体にキズが刻まれた。


「邪魔だ、消し飛べえぇぇ!」

口に魔力が集中していき、黒い光線が放たれる。

光の剣で空にはじこうとするが、押されてしまう。


最初の爆発はこの光線のせいかもしれないな。

俺は大丈夫だが、かなりの破壊力があるので街を攻撃されるとまずい。


練習では失敗することも多かったが、全力でぶち込んでやる。

右手に火の魔力、左手に光の魔力を込めていく。

これで決める。

とっておきの融合魔法だ。


渾身の一撃を放とうとする魔人に向け、両手を合わせて融合魔法を解き放つ。

「いっけえええー!」

「この程度 ぐわあああ!」

白く輝く炎が魔人を包み込んだ次の瞬間、大爆発を起こす。

至近距離での爆発のため、俺も巻き込まれ、吹き飛ぶ。


さすがに腕は無傷では済まなかったが、何とか立ち上がる。

砂煙が少しずつ晴れてくる。

全身が黒焦げになった魔人が横たわっている。

「クソッ……魔王様がきっと……てめえを殺すぜ」

奴の体は動かないようだが、剣を首元に振り下ろしてとどめをさす。

こいつを生かしておいては危険だ。


すると、魔人が消えた後には長さ5cmほどの黒い水晶が残っていた。

放置は出来ないのでアイテムボックスに入れておく。

さすがに魔力切れに近いだるさを感じて、MPポーションを飲む。

ほとんどをトレーニングのために舞に渡していたから、俺の手持ちはこの1本しかない。


舞のほうは大丈夫だろうか。

自分にヒールをかけて、舞のもとへ急ぐ。




『ヒール』

「ありがてえ、これで親父は助かる」

魔物はほぼ倒されていたが、街の被害も非常に大きい。

舞は回復魔法を使い続けている。


『ヒール』

『メガヒール』

『ヒール』

「くっ、魔力がもう……」

『ヒール』

舞の魔法が発動しない。

「そんな、まだ傷ついている人がたくさんいるのに!私、どうしたら……」

ポーションもMPポーションも、もう使い果たしてしまっていたようだ。


「舞、大丈夫か?」

「先生、腕が……」

「ああ、俺のヒールじゃ治りきらなくてな。って、お前も傷だらけじゃないか『ヒール』」

「先生ごめんなさい、私、目の前に苦しんでる人がいるのに何にも出来なかった。メガヒールが使えても、加護があっても、魔力が切れちゃったら何にも出来ないって思い知らされた」


「ねえ、お姉ちゃん、お願いだよ!お母さんを治してよ!血がたくさん出てるんだ……」

泣きながら舞の腕にしがみつく男の子。

「さっきやったみたいに魔法で治してよ!」

「本当にごめんね。お母さんも治してあげたいんだけど、もう……魔法が使えないの」

舞が男の子に謝って、涙を流している。


その姿を見て、俺も奥の手を使うことにした。

「舞、俺の魔力をお前に分ける」

「えっ!先生、できるの?」

「ああ。だが俺も初めて使うから、成功するかどうかは分からない」


アイテムボックスから、師匠にもらった魔法薬を取り出し半分飲む。

「これは、飲んだ二人の間で魔力の共有ができる薬だ」

「すごい。じゃあ私も飲むね」

舞はすぐに残りを飲み干す。


「だが、条件がある。心から愛する人の魔力しか体内には取り込めないらしい」

「先生、そんなことを心配してるの?もっと私を信じてほしいな」

そう言うと、頬を染めながらもためらうことなく俺にキスをしてくる。

俺も舞を抱きしめて魔力を送り込もうと集中する。

魔力が勢いよく流れ出す。

「んっ」

舞の体がぴくっと反応している。


しばらくして唇を離すと、舞の息が荒い。

「先生、たくさん魔力分けてくれてありがとう。えっと、魔力と一緒に先生からの気持ちも流れ込んできたよ。がんばれ、頼りにしてるぞ、大好きだよ!ってね」

「改めて言われると照れくさいな」

俺の顔も熱くなる。


舞は男の子の頭をなでながら、やさしく話しかける。

「待たせてごめんね。すぐにお母さんを治してあげる」


俺の手をとり、祈り始める。

「先生も神様も力を貸してくれている今なら、街の皆を癒してあげられる」


『メガヒール』


舞から癒しの光があふれ出し、怪我人にシャワーのように降り注ぐ。

輝きに包まれて、俺の腕も治っていく。

町中から歓声が上がるのがわかる。


これは全体回復魔法か?

「見ろよ、舞。お前のおかげで笑顔になった人が、こんなにいるんだ」


「お姉ちゃん、ケガを治してくれてありがとう!」

「嬢ちゃんのおかげでうちの子が助かったよ」

「魔物に襲われた父が目を覚ましました。本当にありがとうございます」


「でも、私一人の力じゃないし、先生がいなかったら……」

舞にデコピンをお見舞いする。

「先生?」

「舞、お前はすごいことをしたんだよ。確かに魔力が切れて何も出来なかった。助けられなかった人もいた。でも、それを言ったら俺だってメガヒールが使えないから、大怪我は治せない。一人では出来なくても、これは俺たち二人だから出来たことだと思うぞ」


「先生……」

「舞が無事でほっとしたよ。俺が一番大切なのは、守りたいのは舞なんだから」

「先生、ありがとう」

しがみついてくる舞の頭をなでてやる。


孤児院の子ども達や、黒猫亭のみんなは無事だろうか。

確認に行こう。






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