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ノートと濡れ衣

宿の奥さんに聞いてみる

「この街でノートやペンを売っているお店ってありますか?」

「それなら、街の北のほうに学校があるんだけど、その近くに売ってるよ」


さすがに日本の数倍する価格だったが、手が出せないほど高くは無かった。

ノートとペンのセットを赤ちゃんの分も含めて15人分を揃えた。

小さい子にはお絵かきにでも使ってもらおう。

お兄ちゃんたちと同じものを欲しがる子もいるだろうからね。

最初は先生からのプレゼントということで、喜んでもらえるかな?


俺と舞とマーサさん用に赤ペンも買ってみた。

「私もこれを持って丸付けするんだね。本当に先生になったみたい」

「頼りにしてるよ。舞先生」

「まかせてください。泰彦先生」

クスクスと二人で笑いあう。


「何度も書いて消せる黒板みたいな物があるといいんだけど、そう上手くはいかないか」

「先生、魔法でなんとかできないかな?例えば土魔法で壁を作って、黒板代わりにするとか」

「舞、いい考えだ。確かに魔法なら何度でも出したり消したりできるな」

「えへへ、もっとほめていいんだよ」

「えらいえらい」

わしゃわしゃと頭をなでてやる。


「初日の内容は数の数え方からだな。1から100まで教えてみるか。」

「私たちの時は同い年の子たちばっかりだったけど、5歳の子もいれば10歳の子もいるんだよね」

「ああ。小さい子の面倒はマーサさんに見てもらえばいいが、個人差は大きいだろうな。難しい子は30くらいで止めておいてもいい」


「私はどんなふうに手伝えばいいかな?」

「そうだな、覚えるのに時間がかかる子についてもらおうかな。教え方が分からなければ俺を呼んでくれればいい」

「わかった」

「とりあえず同じ内容で年上組も一回やってみようか。それで簡単すぎるようならもう少し難しくする感じでいこう」



いよいよ初日、俺たちの授業は好評だった。

内容は自分の名前と数の数え方という基礎的なものだ。


もっとも、子ども達が一番目を輝かせたのは魔法で黒板を作り出した瞬間だったが。

やっぱり子どもは魔法に興味津々だった。

もっとやってコールが止まらず、10枚も作ってしまった。

後片付けは子ども達が手伝ってくれた。


授業の後は俺たちも夕食の準備を手伝い、夕飯をごちそうになった。

その後は年上組の授業だ。


さすが年上組。数え方は全員クリアだ。

もう簡単な足し算を教え始めている。

年上組にはお金の計算など、現実的な問題を中心に教える予定だ。

喜んでもらえたようで何よりだ。




翌日、討伐クエストの報告に来たところ、ギルド受付のエミリさんが声をかけてくる。


「そういえば、聞きましたよ。ヤスヒコさん」

「えっ、何をですか?」

「教会で子どもたちに計算なんかを教えてるそうじゃないですか」

「ええ、何か自分にできることは無いかと思いまして」


「そう思う人はたくさんいますけど、実際に出来る人は少ないですよ。ましてや冒険者で」

「いえいえ、そんな大層なことはしてませんから」

「とっても素敵ですよ」

ウインクしてくるエミリさん。


体の前で軽く腕を組んで、カウンターに前かがみになっているから、胸が強調されて谷間が。

つい胸元に目がいってしまうのは仕方が無いことだろう。

「ははは、照れるじゃないですか」


そんなやりとりを、舞が横から目をうるませて見てくる。

「先生がエミリさんの胸を見てデレデレしてる。やっぱり胸が大きいほうがいいんだ」

「ま、舞」


「好きだって言ってくれた日は、『俺はお前の体も心も欲しいんだ』って言って抱いてくれたのに……」

ひっく……

「初めての夜は、お風呂で私の体を隅々まで洗ってくれたのに……」

ひっく……ひっく……

「強引にベッドに押し倒されたあの日は、朝まで離してくれなかったのに……」

ふえええん


あの、舞さん、確かに本当のことだけど、そのへんで止めてくれないかな。

エミリさんがドン引きしている。

俺に向けられるのは、さっきまでの笑顔がウソのような冷たい視線だ。


後ろではギルドマスターが、指をゴキゴキ鳴らしながら愛用のバトルアックスを構えている。

おいおい、赤いオーラが出てて、まるで全力で殺りにくるような雰囲気じゃないですかー。

「さあ、犯罪者の裁判を始めようか」

「いやいや、話を聞く前に殺ろうとしてるじゃないか」


周りで話を聞いていた冒険者達も武器を構えている。

「逃がさねえぞこの野郎」

「こんな小さな子に手を出しやがって!」

「問答無用だ。やっちまえ!」


「せめて説明させてくれー!」




その後、何とか説明を聞いてくれたみんなには微妙な顔をされたが、最悪の誤解は避けられたようだ。

どっと疲れた。

小さな女の子に無理やり手を出してポイ捨てするような男に見られたなんて怖すぎる。


「ちゃんと嬢ちゃんに優しくしてやれよ」

「こんな可愛い子を泣かせちゃダメじゃないですか」

俺はエミリさんとギルドマスターにお説教されていた

「はい……でも、お二人は舞の年齢を知ってますよね。俺達はちゃんと付き合っています」

舞の手を握って反論する。

二人揃ってあさっての方向へ視線をそらす。


「ま、突然殴ろうとしたのは悪かった。俺には10歳になる娘がいてな、つい体が反応しちまったんだ」

「奥さん似でとっても可愛らしい子ですよ。マイさんみたいにね」

あ、話そらしましたね。


「最近は魔物の動きが活発になってやがるんだ。油断してると危ねえぞ」

「そんなにですか」

「ああ。持ち込まれる魔石の量も増えてるんだが、住民からの目撃・被害情報も多いぜ」

「確かに。特にここ数日は受付にいても感じますね。何かの前兆でなければいいのですが」





森の奥から街に向けて黒い視線が注がれる……








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