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水神の加護とサイダー

初感想いただきました。ありがとうございます。

お気に入り登録していただいた皆様も、ありがとうございます。

「今日はヒールの練習をしよう」

「はーい。でも、先生も私も怪我なんてしてないよ?」

「俺が軽い怪我をするから、舞が治すんだよ」

「でも、先生が怪我をするなんて…」

「心配しないで。修行中はしょっちゅう怪我してたから、ヒールは自信があるんだよ」

「わかった。がんばる」


俺は左手の人差し指に小さな傷をつける。

「じゃあ、まずお手本を見せるよ。傷口に手をかざして魔力を集め、怪我の無い状態をイメージするんだ。そして魔力で傷を覆うような感じで『ヒール』」


傷口が光り、傷はきれいにふさがる。

血をふき取れば元通りの指先だ。

「大きな傷や、時間のたった傷は治せないことがある。もっと上級の回復魔法が必要なんだ」

舞に手を見せながら説明する。


「イメージが上手くできれば傷跡も残りにくくなる。魔力で傷口の細胞を活性化させて、元に戻す手助けをする感じだな。ただ、流れ出てしまった血はヒールでは元に戻せないから、出血量には注意が必要だ」

「小さな怪我ならすぐ治せるんでしょ。早く覚えたいな」


やる気が伝わってくる。

「最初は俺の手をしっかり見て、頭の中にイメージする練習だ」

「これが先生の手…私の手よりずっと大きくて硬いね。ごつごつしてて、大人の手っていう感じ。これは剣を握ってできたマメかな?」


俺の手をとり、顔に近づけ、じっと見つめている。

見るだけかと思ったら、さわられている。

ゆっくり、じっくり、すみずみまでさわられている。

舐められるかと思ったくらいだ。

「…どうだ、イメージできそうか?」

「うん。バッチリ」


俺は先ほどのように指に小さな傷をつける。

「じゃあ、次は魔力を手に集めてごらん。途中までは昨日教えた風魔法と同じだ。昨日は魔力を風の刃に変えたが、今日は治す力に変えるんだ」

「うん、こんな感じかな『ヒール』」


傷口が光り、元通りに治っていく。

何だか暖かい毛布に包まれているみたいに感じる。

血を拭いて確認するが、傷跡は全く無い。

俺でも最初のうちは1回で治らなかったり、傷跡が残ったりと散々だった。


「すごいな。最初から完璧なヒールだよ」

「ヒールは何だか使い慣れている感じがするの。ずっと前から使っているような…」

「もしかして、こっちの世界に来たとき、あのジョーカーに何かもらったのか?」

「そういえば、奥さんと話をしたよ。すごいきれいな人だった」

「あいつ結婚してたのか…で、奥さんも何かの神様なのか?」

「水の神様って言ってたよ」

「それだ。舞には水の神様が力を貸してくれているから、水系の魔法が得意になるんだ」

「やった、これで先生が怪我した時にいつでも治してあげられるね」

「もし怪我したらよろしく頼むよ」

「まかせて」


ステータスを確認すると、『水神の加護』があった。

最初に見たときは加護は無かったはずだが…

魔物に襲われないように、水魔法を使えるようになるまで発動しない仕掛けがしてあったのだろうか。

外部に出る魔力が強いと、魔力をエサにする一部の魔物から狙われやすくなるのだ。

師匠や俺は魔力を外に出さないよう制御ができるが、舞はまだできない。


舞は水魔法をメインに、風魔法をサブで育てていこう。

俺が前衛、舞が後衛でしばらく戦うことになりそうだ。


「あっ先生、頭の中にいくつか魔法がうかんできたよ」

「ん?どんな魔法だい?」

「ウォーターシールドとメガヒールっていう魔法だよ」


一気に2つもか。さすが神様だ。

「ウォーターシールドは水の盾だね。中級魔法の一つだよ。メガヒールは文字通り。ヒールより治す力が強いんだ」

「水の盾って、何だか頼りなさそうだけど…」

「ああ、初心者が使うとただの水の盾だけど、熟練者になると性質を変えられるんだ。ぶ厚い氷にしたり、霧状にしたり、熱湯にしたりね。大きさや形を変えればドーム状にして味方全体を包むこともできるし、便利だよ」

「奥が深いんだね」

「舞も訓練すればできるようになるさ。慣れたらオリジナルの使い方を考えてもいいかもな」


さて、もう一つの魔法はというと…

「俺でもメガヒールは使えないんだ。これは水系の上級魔法だから、使える人はすごく少ない」

「そんなすごい魔法なの?」

「そうだよ。熟練者になれば、切断された腕や足も元通りくっつけることが可能らしい。師匠の話だと、この国全体でも数人しかいないんだ。そんな魔法が使えるなんて、すごいことだよ」


笑顔で何度もうなずく舞。

「これで先生が大怪我しても大丈夫だね」

「うーん、できれば大怪我はしたくないけどね」


この世界の魔法は、注ぐ魔力量や熟練度で威力や効率が大きく変わる。

例えば同じウインドカッターでも、全力の俺と舞では勝負にならない。

だから俺は3年も修行したワケだが、今でも師匠には勝てる気がしない。

上には上がいるのだ。




宿の裏庭に出てウォーターシールドを練習する。

『ウォーターシールド』

俺の目の前に直径30センチほどの透明な盾が出現する。


「さあ、同じようにやってみよう。手に魔力を集めるところまでは他の魔法と同じだよ。そうしたら次は魔力を水に変えるんだ。最後はその水を盾の形にして完成だ」

「『ウォーターシールド』あっ、できた」

「いいね。昨日の風魔法に比べて、水魔法は全く問題ないな。じゃあ、応用していこうか」


氷の盾は数回失敗したが、もう使えるようになった。

神様の加護があるとステータスの成長が早くなったり、多くの魔法が使えるようになったりするらしい。

舞はもともと飲み込みの早い子だが、それを更に加速させているようだ。


舞の魔力量は俺ほど多くないので、MPポーションは必需品だ。

メガヒールの練習はヒールの応用でいけるので、しばらくは基本のヒールを練習してもらう。




夕方、宿に戻ると奥さんから提案があった。

「いつもありがとね。もし長く泊まるようなら割引があるけど、どうする?10日間で2割引だよ」

「そうですね、お願いします。それと、ダブルの部屋に変えてもらいたいんですが」


横にいる舞がぴくっと固まる。

いや、舞さん。あなたが毎晩俺のベッドに潜り込んでくるんでしょう。

どうせ一緒に寝るなら広いベッドのほうがいいというだけだ。他意は無いぞ。うん。

「いいよ。じゃあ今日から部屋を変えておくね」


奥さんは舞に「がんばって」と耳打ちをしている。

顔を真っ赤にして「えっと、その…」とあわてている舞。

かわいいので、もう少しあわてさせておこう。


部屋を移動し、二人きりになったところで説明してやると、安心したらしい。

いつもの舞に戻っている。

さて、風呂に入ってご飯だ。


風呂上がりに奥さんと少し話をした時にサイダーの話が出た。

久しぶりに炭酸が飲みたくなった俺は、夕飯につけてもらうように頼んだ。


「サイダーなんて久しぶりに飲むな。こっちの世界に来て初めてだ」

「私は炭酸が苦手だから、いつものジュースをもらうね」

「じゃあ食べようか。いただきます」

「いただきます」


今日の食事もおいしかった。

異世界のサイダーは甘くて、ふわりとりんごの香りが広がった。

「あれ、何だか体が熱い…」

「大丈夫?顔が赤いよ。風邪引いちゃった?」


俺なんかを舞が心配してくれている。

やっぱりかわいいなあ。

ぎゅーって甘えたくなる。


「先生、お酒の匂いがするよ」

「えー、俺はお酒なんて飲んれないよー。ちょっとふらふらするけろ~」

「しゃべり方もおかしいし、酔っ払ってるよ」


「まいちゃーん、ほんとにかわいいなあー。すきすきだーい好きらよー。世界で一番愛してるー。ずっと、ずーっとはなしゃないからなー」

抱きしめた勢いで、そのままベッドに倒れこむ。









翌朝、目を覚ますと頭が痛い。

隣にいる舞は顔を真っ赤にしてこちらを見ている。

やばい、夕飯を食べた後の記憶が無い。

恐る恐る聞いてみる。


「…舞、俺は昨日何かしたか?」

「知りたい?」

「ああ」

「舞ちゃーん好き好き大好きだよーって言って、私をベッドに押し倒して…」


瞬間、酔いがさめてベッドの上で正座した。

変な汗が出てくる。

まさか…無理やり手を出したとかじゃないよな…

「くすっ、そのまま眠っちゃっただけよ」

いたずらっぽく舞が笑った


良かった。舞を傷つけなくて本当に良かった。

「先生、お酒は飲んでもいいけど、私以外の人に甘えたらダメだよ」

「ああ、もちろんだよ。でも、サイダーしか飲んでないんだけどな」


「甘えんぼうなんて、昨日は先生の意外な一面を見ちゃった。ベッドでも甘えてたんだよ」

俺には舞に甘えた記憶が無い。

何で覚えてないんだ!昨日の俺!!

「こっちの世界では、いろんな先生が見れて嬉しいよ」




朝食を運んできた奥さんに、サイダーの感想を聞かれる。

「久しぶりのサイダーの味はどうでした?甘くて飲みやすいお酒だったでしょう?」

「えっ、サイダーってお酒なんですか?」

「当たり前じゃないですか。りんごから作ったお酒ですよ。ここよりも寒い地方でたくさん作られますね」


そういえば、知り合いの先生が言ってたな。

サイダーを注文するとシードルっていうお酒が出てくる国があるって。


あのあと、舞にヒールをかけてもらったら二日酔いがスッキリ治った。

自分のヒールでは治らなかったのに。

水神の加護のおかげで、舞のヒールは様々な効果があるのかもしれない。

舞は「愛の力だよ」と言っているが。


まあ、酔って舞に手を出したりしなくてほんとに良かった。

彼女の笑顔は大事にしたいからな。





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