その液体は【400文字】
時は西暦1591年ーー
一人の男が、湯の沸き立つ前に座していた。柔らかな闇を包む庵、手が覚えている茶道具、そしてこの静寂。
全てが懐かしい。
これまで、平穏な人生ではなかった。
30年連れ添った先妻に先立たれ、その翌年、再婚。息子達は相次いで夭逝した。
千利休……彼は、主君に切腹を命ぜられた。
そして今、最後の一服を喫する。
黒天目の宇宙に浮かぶ、その濃緑の液体こそは……
『健康青汁』
◇
数年後。所変わって、英国の劇場ーー
ジュリエットは意を決して、仮死状態となる薬の入ったボトルを開けた。
命懸けの計略。全ては、愛する人と結ばれるため。
口にする、その液体は……
『健康青汁』
一時的に息絶えたジュリエットは、霊廟へ運ばれ安置された。
そこに事情を知らないロミオが駆けつけ、彼女の動かない身体を抱き起こす。
悲哀。慟哭。
まさに人生のどん底。その時、ロミオの手に触れたボトル……
一気にあおる、その濃緑の液体こそは……
『健康青汁』




