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物語の主人公

白紙の本。

まだお話は始まったばかり。

さぁペンをとり続きを書こう。

主人公になるのは誰なのか。

魔理沙は光を避けるために目の前に組んだ腕をのかす。


 そこは外だった。街灯などあるわけもない、森の中。暗くはあったが、空が澄んでいたため、月や星の光で、少しは視界が利く。


 魔理沙は気が動転して辺りを見回す。いつの間にか自分の足で立っていた事にも疑問が残った。


「いったいどうなってんだ……」


 急な状況変化。加えて意味不明な状況とほとんど視界が利かない現状。多大な不安と恐怖が魔理沙を支配する、


 周りを見渡していると、魔理沙の背後から草を分ける音がした。魔理沙はびくつき振り返る。


 草むらから出てきたのは人影だった。あまり視界が良くないため、相手を判断することはできない。


「誰だ?」


 魔理沙はおびえた表情でその人影に向かって問う。


「あれ? こんな時間に声がしたと思ったら人間がいるよ? どうしたのかな? 迷子かな?」


 魔理沙はこの声の持ち主に心辺りがあった。


「なんだルーミアか……」


 ホッと胸をなで下ろす。スペルカードルールが定着した今でも、思考をあまり持たない下級の妖怪は、ルールそっち抜けで襲ってきたりする。そのため、常識あるものなら普通、妖怪が活発になる夜道に出たりしない。


「あれ? 私の名前を知ってる? 私、有名?」


 暗闇で表情は見えないが、首をかしげている様に見える。


「何言ってんだ、私だ、魔理沙だ。目玉の前だけに暗闇でも作ってるのか?」


 更に首をかしげる人影。会話の内容が全く伝わっていないようだ。さすがにこの時点で若干の違和感を感じざるを得なかった。いつものルーミアの態度ではない。魔理沙もいぶかしげになる。


「まぁいいや。人なら食べてしまえば名前なんてどうでもいいし」


「は? 何言って……」


 暗闇の人影の目が紅く光った。顔の輪郭からして不釣り合いな程に大きく見開かれた二つの目は、真直ぐに魔理沙を見つめていた。


 次の瞬間には、その目玉がすぐ目の前にあった。低い体勢で突っ込んできたそれは、右腕を大きく後ろに逸し、一気に振り上げた。


「クッ!!」


 間一髪の所で体を後ろに逸し、その攻撃を避けた魔理沙だったが、左腕に引っ掻き傷が残った。鋭利なナイフで切り付けた様に、真直ぐ一線の傷である。幸い、左腕はまだ機能する。


「なんだいきなり!!」


 息を荒げて叫ぶ魔理沙。腕から血が流れ、右腕で必死に庇う。


「あれ? 左腕は落したつもりだったんだけど?」


 また人影が首をかしげる。


「ふざけるな!!」


 乱暴にポケットをまさぐる魔理沙。幸運にも、八卦炉は入れたままだった。


魔理沙は、八卦炉を両手で支える様に前に突出した。


『恋符・マスタースパーク!!』


 スペルを唱えた瞬間、八卦炉から眩いばかりの光が放たれ、一直線の光の線となり、ルーミアに直進した。それは、人一人を飲み込む程の大きさだった。


 暗かった周りも、スペルを放ったほんの数秒だけ照らされた。そこでやっとルーミアの顔を認識することができた。


 その顔は今まで見た事のないほどに妖怪じみた物だった。口は広く裂け、目も、直接発光しているのではないかと思うほどに赤く妖艶に光っていた。


 それ以上に恐怖を覚えたのが、マスタースパークの攻撃を目の前にして微動だにせず、その顔には笑みが含まれていた事だ。


 生温い笑顔でない。目は細くなり、白目はほとんど見えない。口はつり上がり、口からのぞく鋭利な白い歯は、見ただけでその切り口を想像させる。それは、恐怖を与えるためにこしらえたと言えるほどに、恐怖その物だった。


 マスタースパークがルーミアを襲うまでのほんの一瞬の光景であったが、魔理沙は、目の前にいるルーミアは自分が知っているルーミアとは違うという事を理解した。それと同時に、体中を、恐怖という電流が駆け巡る。


 何の抵抗もなく、ルーミアは光の線の中に飲まれていった。魔理沙は執拗にマスタースパークを放ち続けた。スペルカードルールで言えば、既に魔理沙の勝利である。しかし、恐怖がその攻撃を止める事を許さない。


 八卦炉の燃料が切れたのは、マスタースパークを放ってから数十秒後の事だった。


 魔理沙は肩で息をしている。頬には汗がつたう。


 ルーミアの安否は不明だった。マスタースパークによって巻き上げられた砂煙が、ただでさえ暗闇で落ちている視界を遮る。


「もおぉ、眩しいなぁ」


 砂塵を切り裂く様に腕を横に振って現われたのは、ほぼ“無傷”のルーミアだった。魔理沙は目をむき、目の前の光景を疑う。


「綺麗だったけど、あんまり痛くないね。手加減してる?」


 光が失われ、また黒い影となっているルーミアが首をかしげている。


 絶望に苛まれた魔理沙は、崩れ落ちる様に膝をついた。スペルカードルールを破棄された今、妖怪と対等に戦う術は、魔理沙には残されていたなかった。その上、逃げるためのほうきも手元にない。


 黒い影は魔理沙にゆっくりと近付いた。すぐ目の前まで来て、頭を下げている魔理沙を見下ろす形になる。


「どうしたの? 諦めた?」


 魔理沙は動かない。いや、小刻みに震えていた。地面についた膝辺りのスカートを両手ともに強く握り、小刻みに震えている。


 頭を下げたままで表情は見えないが、その顔の下から、一滴のしずくが、そのスカートを握り締める手に落ちた。


 ルーミアは動かないのを見て、“餌”は生きる事を諦めたと判断した様だ。ルーミアは大きく右腕を振りかざし、何のためらいもなく、魔理沙へと振り下ろした。

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