プロローグ
「何で私が貴女の探し物の手伝いをしないといけないのよ」
薄暗い大きな部屋。巨大な本棚で埋められたこの部屋には、ほとんど光がない。いくつかおきの本棚に設置されたロウソクも、かなり高い位置にあるためか、地面をほとんど照らしていなく、歩行の気休めにもならない。
「そんな事言ってもな、この図書館で目的の本を探すとなると、人間の寿命じゃ足りないんだよ」
本棚と本棚の間の暗闇に、二つの光が揺らめいていた。声もこの光から聞こえてくるようだ。
「貴女はいつも自分で本を見つけて勝手に盗んで行くじゃない」
「あれは、たまたま目に入ったものを選んでるだけだ、探し出してるわけじゃない。それと、盗んでるわけでもない。借りてるだけだ」
「返ってこないなら同じことよ」
暗闇から浮かび上がったのは二人の人影だった。霧雨 魔理沙とパチュリー・ノーレッジ。二人はそれぞれ手にランプを持っていた。しかし、そのランプをもってしても、本棚の最上部までは照らし切らなかった。それほどまでに本棚が高い。
本棚の間を進んでいた二つの光が一つの本棚の前で止まった。
「あそこよ。この本棚の上から2段目、右から25冊目」
魔理沙は、パチュリーが目で示す方へランプを差し出したが、全く目的の場所を照らすことができない。
「高いねぇ」
魔理沙はゆっくりとパチュリーの方へと視線をずらす。しばし見つめ合う二人。
先に折れたのはパチュリーの方だった。ため息とともに、パチュリーは宙に浮かび、本棚の高方へとゆっくりと昇って行く。迷わず一冊の本を手に取ると、また同じ場所に着地した。
「何でまたこんな本に興味を持ったわけ? レミィはあまり良い気がしないと思うわよ?」
本を手渡しながら尋ねるパチュリー。手渡された本はズッシリ重く、片手で持つのがギリギリといったところだった。表紙の色や文字のフォントから古めかしさを感じるが、決して保存状態が悪いわけではなく、むしろ、この図書館の保管能力の高さを、この一冊の本からだけでも感じ取ることができた。
パチュリーの質問に、魔理沙は首をかしげる。
「あいつの事だ。逆に言いふらしたい程あるんじゃないか?」
「レミィにとってあまり思い出したくない過去が書かれてるの。貴女の過去と同じよ。貴女、前は……」
「ああ、分かった! みなまで言うな!」
魔理沙は慌ててパチュリーの言葉を遮る。
「まぁ安心しろ。悪用はしないから。単純な好奇心さ」
「無邪気な好奇心程、周りに迷惑をかける事はないわ」
「いちいち棘がある言葉だこと」
「事実を述べてるだけよ。特に貴女に当てはまると思ってね」
肩をすくめて見せる魔理沙。
「ま、そんな事は置いといて、この本借りてくぜ」
パチュリーに背を向け、元来た方向へと歩を進める魔理沙。
「ちゃんと返しなさいよ。今まで持って行った本も含めてね」
魔理沙は振り返らずに、右手をヒラヒラさせて答える。
パチュリーは魔理沙の後ろ姿を見たままため息をこぼすと、手に持っていたランプを消す。そして、魔理沙に背を向け、図書館の奥の闇へと消えて行った。図書館の主にとって、光は不要だった様だ。