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怪物女と血まみれ男 和雅View

話が思いついたので。

和雅視点の方がはっちゃけられてやりやすかったです。


25歳にしま……した。

一部表現がおかしいので修正しました。

「はーい、今日は肉じゃがとカレーを作ります」


 家庭科の教師が手をパンパンと叩いて注目させる。

 俺達生徒は複数の班に分かれて肉じゃがかカレーを作る事となった。しかし、両方ともほとんど同じ材料ではないのだろうか。

 そんなどうでもいいことを考えていると、視線を感じた。


「じとーー……」


 桃那が詰まらなそうに他の班の台からこちらを見ていた。

 桃那とは別の班になったため、それでいつものどちらが作るかと料理合戦出来なくて不服なのだろう。自分の隣をちらりと見るとそちらには東山がいる。しかし、こう見ると付き合いが心配になるぐらいに良く、料理などもこなせる東山は意外と良いお嫁になるのではないだろうか。

 ふと桃那の方からミシシッと異音が聞こえたが、一人だけ仲間はずれにされて拗ねているのだろう。半ば強制的に決められたのだ。許してほしい。


「和雅くんはジャガイモの皮お願いしていい?」

「ああ、わかった」


 東山から頼まれたので普段から料理している俺は、軽くジャガイモの皮をむいていく。東山も俺が料理が出来る事を知っているので、気軽に仕事を与えてくれる。


「うん、ありがと。……なんかほんと手馴れてるし、和雅くんって良い旦那さんになりそうだよね」

「料理が上手ければ良い旦那って訳じゃないだろ」

「それもそっか」


「兄さんと二人っきり……羨ましいっ羨ましいっ」


 ―ミシッメキメキメキッ!

 どこからともなく異音が聞こえてくるが、俺と東山は特に気にせず調理を続行している。桃那の班をちらりと見ると、何故か全員が真っ青になっているが何かあったのだろうか。

 そんな間にもジャガイモどころかありとあらゆる食材の皮をむき終わっていた。気付けば全て俺一人でやっていたため、東山も「凄いね」と言いつつ苦笑いだった。

 そして俺や桃那とは全く別の班では――。


「いたっ! あ、指切っちゃった……」


 どうやら他の班の女子が包丁で指を切ってしまったようだ。確か名前は……野口 雛莉(のぐち ひなり)だっただろうか。

 傷口と言っても怪我はそこまで酷くないようだ。


「わっ。遠藤さん、大丈夫!?」

「へ、平気平気。そんなに痛くないし」


 ……遠藤だったか。もしかすると今声を掛けたのが野口だったかもしれない。そう思うことにしよう。


「おっとそこの女子。ちょっと待った! それは軽く見すぎなんじゃないか?」


 遠藤と同じ班にして、男子Aが吼えた。


「何よ、男子A?」

「ちょっ何その名前!? そうじゃなくて、こういう調理場ってのは雑菌だらけなんだよ。だから、傷を甘く見ていたらそこからばい菌が大量に繁殖して最悪死に至るんだ!」

「酷いっ……私がちゃんと毎日放課後消毒してるのに……」


 男子Aの叫びの声を聞いたクラスメイトの大半は呆気に取られていた。そして教師は激しく落ち込んでいた。

 つまり先ほどの話とは、要約すればここでの怪我は命に関わると言うことだ。

 ということはだ。皮むきを全て俺にやらせるとは東山は俺の命を……いや違う。この調理室に居る者たちは命を掛けてこの場に立っている。つまりは俺が全ての皮むきをしてしまった結果、命を掛けてこの場に立った東山の気持ちをも無碍にしてしまったのか。


「東山……余計なことをしてしまって、済まない!」

「はへ!? えっとむしろやってくれて、ありがとう?」

「くっ……優しすぎるだろお前はっ」

「和雅くん!? それ布巾だから顔拭かない方がいいよ?」


 布で涙を拭く素振りを見せたが、この場には布巾しかなかった。

 しかし知らなかったとはいえ、男子Aには深く感謝しよう。クラス中から白い目で見られているが俺はお前のことはしっかり見ているぞ。

 先ほどのことを考えると桃那の命も危険に晒されていると言う事だ。ちらりと視線を向けるが、ずっとこちらを睨み付けているようで料理の欠片もしていない。

 妹よ、班員が困っているぞ……。

 そして、俺がちらりと余所見をしている間に更なる悲劇が起きてしまったのだ。


「――いたっ。」


 隣から声が聞こえた。隣を見ると東山もどうやらやってしまったらしい。

 その綺麗な指にはぱっくりと切り傷が出来ており、そこから赤く血がにじみ出ていた。

 ―ドクンッ。俺の心臓が嫌な音を立てながら跳ね上がる。桃那の親友である東山が怪我をしてしまった。もしかするとこのまま死に至るかもしれない。そしたら桃那が悲しむだろう。その前になんとしてでも助けねば。

 どうしたら助けられるのだろうかと俺は必死に考える。


「なぁぁっ!?」

「な、何? 和雅くん?」


 桃那と東山が同時に声を出した。俺が東山の怪我をした方の手を取ったからだ。

 しかし俺は東山の命を救う方法を考えることに夢中で気付くことはない。


「確か――傷口から雑菌が入って繁殖して死に至るんだったな。ならばっ……あむっ」

「ああああああぁぁぁぁーーーっっっ!!!」「ひっ!!」


 桃那から絶叫と東山から怯えたような声が出た。

 ――そんなに心配しなくても大丈夫だ二人とも。コイツの命は俺が必ず救う。

 俺は一気にチュウウウッ。と音が出るぐらい思いっきり吸い上げた。


「あ、あ……」

「(東山が青い顔をして震えている。まさか手遅れだったのか!? だが、俺は最後まで見捨てないぞ)」

「ひ、ひひっ……ぶくぶくぶくっ」


 東山はガクンと泡を吐きながらも倒れた。泡を吐いて倒れる人間なんて生まれて初めて見るぐらいだ。それぐらい危険域に達してしまったのだろう。今から保健室に行っても完全に手遅れだ。

 気絶しながらも、東山はガクガクと震えていた。

 いつしか東山だけでなく調理室自体揺れていることに俺は気付く。


「うわーー、じ、地震か!?」

「えっ、嘘!? 大きいよこれっ!?」

「みみみみんなおちおちお落ち着いて! ガス栓をとと止めるように!」

「先生がまず落ち着いてよ!」

「ヒィィィッ!」


 ガタガタガタガタと地震が強くなり、調理中だったみんなはパニックを起こしている。その間も俺は常に東山の傷口を吸い上げていた。

 ――ガタガタッガシャーンッッバンッガシャガシャーーン!!

 調理室の皿などが一気に飛び出してきて、大惨事となった。しかし未だ地震が収まる気配もない。


『ただいま大きな地震が発生しております。危険なので飛び出さずに一度地震が収まるまで待ってから、各自グラウンドに集合してください。繰り返します――』


 校内放送まで流れ始めるものの、悲鳴や落下物の音にかき消されていて何を言っているのかも分からない。

 そういえば桃那は大丈夫だろうかと姿を探すが、調理場には一人の人間以外全員蹲っていた。

 俺はその人間に視線を向けた。

 見ると――いや、人の形をした"何か"であった。


「ウラヤマシイウラヤマシイ。ワタシモニイサントチュウチュウスルノォォ!!!」


 その人の形をした"何か"からは地から響いてくるような声を発せられた。とてもじゃないが人語とは思えないその言葉に、皆恐怖色に染まる。しかも、この悲鳴と騒音の中でもしっかりと声が聞こえるため、この場に居る全員が更なる恐怖を感じた。

 ぎゅっと服を引っ張られたので東山の方を見ると、いつの間にか起きたようだった。どうやら5分間に渡る決死の治療活動が役に立ったようだ。

 しかし東山の様子がおかしく、今にも死にそうなほど真っ青な顔をしていた。


「わ、私殺されちゃう殺されちゃうっっ」

「おい、東山? 大丈夫か!?」


 東山は俺にしがみ付くとガタガタと震えて、そのうち命乞いまでするようになった。しかし今の姿を他人から見ると俺は東山から抱きつかれてるようにしか見えない。

 そしてそれが状況を更に悪化させたのは言うまでも無いだろう。


「キシャァァァアァァァァッッッ!!」


 物凄い声量の奇声が発しられたと思ったら、俺はいつの間にか廊下まで吹っ飛んでいた。俺だけではなくクラスの大半が廊下まで吹き飛ばされていたのだ。


「なっ、ぐはっ」


 遅れて俺の体には激痛が駆け巡った。

 痛みに耐えつつ調理室を見ると壁どころか台すらも吹き飛んでいて、中にあの化け物の姿をした"何か"がいる。

 その"何か"は明らかに俺に目線を向けると、こちらへゆっくり近づいてくる。このままでは俺も、ついでに東山も奴にやられてしまう。

 そしてその時。

 ―パラパラッ……バキッガンッ!


「キャウッッ!!」


 先ほどの地震で脆くなっていた天井から、大きな破片が落ちてきてその"何か"の頭に直撃した。

 そして"何か"が気絶したのか、今までの死の恐怖までもを感じるプレッシャーと地震が収まった。


「いったい、なんなんだ……――あれは!? 桃那ぁぁっ!!」


 先ほどの"何か"の近くに居たのであろう桃那が倒れていた。俺は腰に巻きついてる東山を無視して急いで桃那に駆けつける。

 何か怪我をしていないか念入りにチェックするものの特に外傷はない。


「桃那大丈夫か!? しっかりするんだ」

「あ……兄さん……? いたっっ」


 俺に桃那が気付いて動こうとした時、桃那は痛みを感じて蹲った。どうやら足を怪我したらしい。どうして足を怪我したのかと思ったら桃那が居たところには包丁が上を向いて地面に刺さっていたのだ。


「まさか怪我をしたのか、見せろっ」

「ちょ、ええっ。兄さん!?」


 俺は桃那のスカートをめくって怪我のチェックをすると、どうやら膝裏より少し上の辺りを怪我していた。

 そして俺は先ほどの男子Aの話を思い出す。

『こういう調理場ってのは雑菌だらけなんだよ。だから、傷を甘く見ていたらそこからばい菌が大量に繁殖して最悪死に至るんだ!』


 ――桃那が死ぬ……?

 俺の心臓はドクンドクンと、東山の時よりも強く鳴り響いていた。まるで心臓を鷲掴みにされた上に握りつぶされそうなぐらいに、鳴り響いていた。


「はぁはぁはぁっ……桃那ダメだ」

「え? え? も、もしかして兄さんが、兄さんが私に興奮してくれてる!? んっっ」


 俺は桃那の傷口に吸い付いた。

 周囲の人間は誰一人正気に戻っていないので後々問題にもならなかったが、今の俺の姿はと言うと双子の妹のスカートに頭を突っ込んであまつさえ、太ももにむさぼり付くというとても変質的なことをしている。誰が見ても「あー! 柿椿くんが変態なことしてるー!」と、指で指しながら言ってしまうだろう。

 俺はそんな恥辱を耐えつつ、数分に渡り治療行為を続けていた。


「兄さんっ、兄さんっっ」

「? どうした桃――」


 桃那の様子がおかしくて、俺は傷口とスカートからも口を離して桃那を見上げた瞬間。

 ――ブブフゥッッッ。

 俺の目の前が一瞬で真っ赤になった。全てが真っ赤で何も見えない。

 もしかすると"何か"がまだ生きていて、何かされたのかもしれない。しかし、そんな俺の心配なんか不要と言わんばかりにすぐに視界が戻った。視界が戻ると同時に俺は直に桃那を探した。

 すると桃那は鼻から血を出しながら床に倒れていた。


「うぇへへ……にいぃさあぁーん」

「も……桃那ぁぁぁぁッ!!!」


 俺はガッとだらしなくニヤケ顔で失神している桃那と俺から離れない東山を抱えると走り出した。


「(俺は、少しでも良い! 少しでも早く保健室に行かねばならん!)」


 しかし地震が収まったせいか、俺のことをあざ笑っているかのようにそこらに生徒が徘徊して邪魔をしていた。


「くそっええい、邪魔だどけーー!!」

「はぁ? ってうわああああぁぁぁ!! 血だらけの男がーー!!」

「きゃあああああーーーっち、ち、血だらけの男が女子二人を連れ去ってる!!」

「殺される逃げろーーー!!! うわああああーーー!!」


 俺の姿を見るや否や、通行の邪魔をしていた生徒達は教室の中へと逃げ出した。まさに阿鼻叫喚。おかげで保健室まで直にたどり着けた。

 ――ガララララッズバンッッ!!

 物凄い勢いで保健室のドアを開き、中へと流れ込む。


「先生っ、急患です!!」

「放送聴いてなかったの? それと、怪我人ならグラウンドに避難してから――ヒッ、キャアアアアアーッッ」


 養護教諭、宮下 さえ(25)は俺を見ると悲鳴を上げて怯えた。普段は男勝りで意外と姉御肌なのだが、桃那の大変な状態を見てしまってつい可愛い悲鳴を上げてしまったのだろう。

 俺はしっかりと二人を支えながら、宮下先生へと近づく。


「先生、早く桃那を見てください」

「ヒィィィ! 殺さないで。せめて処女を卒業させてから殺してーー!」


 宮下先生の無駄な情報を得てしまった。しかしこの事は墓場まで持っていこう。


「そうではなく、早く治療してください。お願いします」

「わ、分かったからあなたのこと治療するから何でもするから、命ばかりは助けてよぉ」

「いや俺じゃなくて、俺のはただの返り血を浴びてるだけです。さあ、見てもらうのはこっちです」

「返り血ってキャアアアアーッッやっぱり人殺し!?」


 その後も取り乱す宮下先生をなんとな宥め、桃那を診察してもらったところただの貧血だった。



   * * *



「えへへへ、にいさーん。スンスン」

「桃那、暴れるんじゃない」


 その帰り、俺は足の治療を終えた桃那の要望でおんぶして帰宅していた。本当は触れてはいけないのだが、貧血の妹を置き去りにすることなど絶対に出来なかった。

 それに「兄さんのおんぶじゃなくちゃ、かーえーれーなーい!」と可愛く言われたら兄としても断る訳にはいかないのだ。


「久しぶりだよね。こういうのって……クンカクンカ」

「そういえばそうだな。ところでさっきから何してるんだ?」

「何っておんぶされてるだけだよ。クンカスンハスーハスーハ」

「…………」


 桃那とは不触宣言をしてから、こうやって普通に一緒に帰った事は無かったな。

 それよりもだ。先ほどから気のせいかと思っていたのだが、ずっと臭いを嗅がれてる気がする。


「なあ……俺って臭うのか?」

「うんっ兄さんの匂いって凄い。ズーハーズーハー」

「ぐっ、そ、そうなのか……(帰ったら即風呂だな)」


 こうしてこの日は桃那と二人きりでゆっくり帰宅した。

 帰宅直後桃那を部屋まで連れて行った後は、必死に体を洗った。

 その結果、肌が荒れた。



 そして翌日の新聞記事にはこのような事が書かれていた。


 『私立風凰学園に大地震と更に謎の怪物と血まみれの誘拐犯が現れる!! 謎の局地的大地震は怪物の仕業か!?』


 ――昨日、私立風凰学園で局地的大地震が観測された。地震による震源地は当学園の調理室らしく、調理室周辺では酷く崩壊していたとの話。そしてそれだけではなく、現地に居た学生の話に寄ると「とても生き物とは思えない凶悪な化け物が居た」「女子二人を脇に抱えながら逃走する、真っ赤に血で染まった男が居た」などと、にわかにとても信じられない話が浮き上がっている。当学園の養護教諭にも話を伺ったところ「最初は怖かったけど、とても優しくしてくれた」と意味深な発言をされており、面白おかしくでっち上げた作り話の類ではないかと疑問視する者も居るだろう。けれども、この怪奇現象は大人数の目撃証言があり、事実私立風凰学園に建物的な大損害を与えたことが何よりの証拠となっていた。謎に謎を呼び警察も捜査が進んでいない。



やっぱ学園物は周囲を巻き込んでからこそのものですね。

一文とは言え、新聞記事とか書くの苦手です。


怪物女については誰一人直視出来ないほどの恐ろしい化け物なので、その正体はおろか性別すら誰も知りません。

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