とある体育日和 桃那View
帰還宣言したので久しぶりの執筆です。
頑張って色々と計3作ほど執筆したのですが、どれもしっくり来ませんでした。
この話はその中でもギリギリ妥協点取れそうだったので投稿しました。
とある日の体育の授業……。
私は親友である亜美と一緒に着替え、体育館へ向かっていた。とはいえ周囲には他のクラスメイト等も居て、二人っきりではない。
そんな中、周囲のクラスメイトの話声が私に届いた。
「今日、男子と混同なんだよねー。最悪」
次の体育の授業では男子と女子の混同で体育館を使用する。男子は女子の姿を下心のある目で見てくるので、その事を愚痴っていたようだった。
「男子がバスケで、女子がバレーだっけ? でも柿椿くん居るじゃない」
「柿椿くんだけならいいんだけどねー……って、やばっ!」
私に気がつくとクラスメイトの2名はそそくさと逃げるようにいち早く体育館へ向かっていった。柿椿とは私、あるいは兄さんのことだけど「柿椿くん」と言われていたので兄さんのこととなる。
「あ、あのーね、桃那? 飯塚さんと山村さんも悪気があって言った訳じゃないんだから、お仕置きとかはー……」
「? 亜美は何を言ってるの?」
「へっ!? 桃那のことだからてっきりお兄さん絡みの事だから何かするんじゃないかって……」
「お義兄さんって……亜美ったら死にたいの?」
「字が違うよ!? 和雅くんのことだからってこと!」
私の声のトーンが1段どころか一気に飛び降りたぐらい下がったので、亜美が慌てている。確かに私もあの二人が兄さんに"直接"絡んでたら――してたかもしれない。ただ言うだけなら別にどうともない。
でも一応名前だけは覚えておこう。あの二人の名前は飯塚と山村……ね。桃那覚えた。
そんな私に気付いたのか、亜美が憂鬱そうにしている。
「ああ……今日も大変な事が絶対起きそうだよ……」
「亜美ー? 体育館早く行かないの?」
「あ、待ってー」
亜美は足を止めて不安そうな顔をしながらため息をついていたが、私が亜美のことを呼ぶとすぐに駆けつけてきた。
その姿はまるでわんこ。
「今日から亜美のことをわんこって呼んでいい?」
「唐突に私のあだ名が決まった!?」
結局、私は亜美のことをわんことは呼ばなかった。
* * *
――ズバアアアンッッドガッ!
「えっ、きゃあああっ! へぶっっ!」
バレーの時間今しがた山村と言う女の顎下に、私のスパイクによって飛び跳ねたボールを直撃したところだ。その前の先ほども飯塚と言う女にも顔面からスパイクをかましてあげたっけ。
別に当てるつもりはなかったのだけれども……ほんの少ししか。
「も、ももも桃那ー!? 気にしてなかったんじゃないの!?」
「でもちゃんと加減はしてあげたし」
「加減ってやっぱり当てる気まんまんじゃないの!」
亜美が私に慌てて駆けつけてくる。やっぱりわんこみたいな姿にしか見えない。
亜美は先ほどの事を私が気にしていて、このような報復に及んだと思っているようだった。わざとじゃないから、としれっとした顔で返すものの亜美は信じてくれなかった。
――と、そんなことはどうでもいいから。
亜美を軽くあしらった後に、ちらりと隣半分を使用している男子達を見る。バスケの試合に参加していない残りの男子達は女子側ギリギリに居て、さらにはそれが壁になって兄さんの姿が良く見えない。
必死になって兄さんの姿を探すと、私と同じように今は試合中だった。
―シュッ……パスッ!
兄さんが今華麗にシュートを決めて点数が入った。
凄くかっこよかった。今すぐ駆けつけて抱きしめてそのまま保健室のベッドまで連れて行って!
そんな妄想をしてクネクネと体を捩らせる。もちろんバレーの試合もまだ終わってなくて、完全棒立ちの私のせいで点数が入れられている。だけども兄さんの姿から私は目を離せられなかった。
しかし、男子の壁が遮ってやはり良く見えない。
「桃那さっきからどうしたの? ほら、バレーの試合試合!」
「あーほんと、邪魔……」
「私って邪魔!? って、さっきから何を見て……って、桃那ボールボール!!」
さっきから亜美が隣でうるさい。
そして少し上を見ると、私の頭上にボールが落ちてくるのが目に入った。このまままっすぐ落ちれば私の顔一直線だっただろう。
普通ならボールを顔面からぶつかって、兄さんに介抱される――なんてことも頭を過ぎったが、私の矛先は違った。
「でええええーーーい!!!」
――ズバアアァァッッン!!
物凄い勢いで体を捻ると、ボールを思いっきり叩きつけた。
そのボールはスピードが落ちることもなく、そして地面に落ちることもなくまっすぐへ飛んだ。
壁になっていた男子1人に向かって――。
「えっ、ぎゃああああーーー!!」
――バァァンッッ!!
男子は避けることも出来ずに顔面からそのボールを喰らって吹っ飛んだ。
見事当てた私は思わずガッツポーズ。もちろん私側のチームは失点だったがそんなことは細か過ぎる問題。
「よしっ。まず1人」
「桃那ーー!? ってまず1人って何!?」
ボールが当たった男子は大げさにも担架で運ばれていった。しっかり狙って当てたと言うのに、失点だったからか私のチームの空気は不穏に満ちていた。
仕方ないので今度はちゃんと得点に――。
――ズダダダ、ズサァァッッ!
バレーの相手側も空気を読んだせいか、私が居る正反対にボールを入れてきた。けれども、驚くようなスピードですぐさま反対側まで駆けつける。
――ズバアアアアーーンッッ!バッコーーン!
再び思いっきり叩き付けた。そして男子の退場者が2名に増えた。
こうやって地道に男子を減らせば、最終的には兄さん1人になっていくらでも見放題になる。
運動する女子の姿を見たいと言う数居る男子の下心なんかよりも、私の下心の方がずっと勝っていた。
* * *
「はぁはぁ……っくぅ!」
先ほどとは打って変わり、状況が悪化していた。
今の今までずっと順調に男子の数を減らしてきた。きっと今頃保健室は満員どころか溢れ返ってるだろう。そして私は少しでも減らさなくてはいけないため、長引かせるように試合をも操作していた。
「(どうして……いったいどうしてなの!
――兄さん!!)」
私の視線の先には立ち塞がる壁――兄さんの姿があった。
兄さんの方の試合が終わったと思うかと、すぐさま兄さんはあろうことか男子の壁の前に立ち塞がって男子を庇っていた。そして私から他の男子の姿も確認できず狙いまで定まらなかった。
私はそれでもと、必死に狙いをつけて打ちつけた。
としても――。
「はぁっ、喰らえええっっ!!」
「ふっん、とぅ!!」
――ズバアアーーン!! ガッ、バシンッッ!
こうやって、しかも兄さんはこちらの方を一切向かずに私のシュートをはじくのだ。その状態がずっと続いている。私は度重なる疲労のため汗だくになりながらも、諦めることを選ばなかった。
「桃那、もうやめなよ! それと汗で透けて凄いことになってるよ!」
「亜美邪魔しないで! もう……これは引けない戦いなのよ!!」
「た、戦い!? もう……和雅くんもなんとか言ってよー!」
亜美がそう兄さんに声をかけると、こちらを向かずに兄さんは答えた。
「今の(桃那の)姿を誰にも見せる訳にはいかない! 俺が守るんだぁぁ!!」
……でもそれって……。
また亜美のことを独り占めってこと?
「また、亜美の姿を独り占めしたいってわけね……あぁぁみぃぃいぃっっ!?」
「ち、違うよ!? それ絶対違うよね!?」
物凄い形相をしながら汗をだらだらと流す私の姿に恐怖を覚えたのか、既に壁際なのにそれよりも後ろへ下がろうと必死に足を動かしてる亜美。
そこへまたボールが飛んできた。もう少しで亜美に手が届くところだったのに。
「はぁはぁっっ、じ、じゃまぁぁーっ!!」
「あまいっ! とう!」
――ズバアアンッバシンッ!
もう既に当初の目的をも忘れ、必死に打ちつけるが完全に塞がれた。やはりこのままじゃ私が兄さんに勝てる可能性なんて全くない。
そもそもなんで後ろ向きでも反応出来るのかが不思議でたまらない。
「(も、もうこうなったら……)」
「……えっ……えええっっ!!」
ボールなんかじゃ兄さんに敵うわけが……ならそうより重いものを投げつけるまで!
私は亜美を見ながらそう思うとバレーのボールが詰まっていた籠付き台車に亜美を乗せた。そして亜美の背中側に立ち、しっかりと籠を掴む。
「あ、あのこれ何する……の?」
「ふふ、うふふふふふっ」
「桃那!? 桃那ぁぁ!?」
「いっけぇぇぇぇっっっ」
「ちょちょ、いやあああああああーーー」
――ガガガガガガッッズシャアアアーーーッッ!!
台車に乗った亜美は物凄いスピードを出しながらで兄さんに向かって走り出した。いくら兄さんでもこの亜美車を簡単に止めることなんて出来ない。
「た、助けてぇぇぇーーー!!」
亜美は自分の絶叫と共に吹っ飛んでいく。本当に私と亜美って親友なのだろうか疑ってしまう瞬間だった。
きっともう亜美も長くない。
――だけれどもそんな時、奇跡が起きた。
「お、俺たちが東山さんを守る!!」
ボールをぶつけられたものの、軽症で済んで隅っこに退避してた男子達が一斉に立ち上がった。そして集まりだしたかと思うと壁を作った。まさに何が来ても受け止める体制となった。
兄さんはそんな中、男子全員の視界を遮り「お前たち……済まない!! 任せたぞ」と声をかけていた。
そして兄さんは目を瞑りながらこちらを振り向いてそのまま、亜美車へ向かって走り出した。いくら兄さんであっても、あれを止めるには無傷で済むわけが無い。
「に、兄さぁぁぁぁーーん!!」
体育館に私の声が響き渡る。
――――。
――。
私にはその全てがスローモーションに感じられた。
ペタリと座り込んだ私の視線の先には、衝突寸前の亜美車とこちらに走り向かっている兄さんの姿が映る。
ぶつかる少し前に、突如兄さんは消え――いや、兄さんはしゃがんだ。スライディングの構えだった。
――ガシャアアンッッ!!
亜美車に兄さんがスライディングをかまし、台車はいずこかへ吹き飛ばされた。吹き飛んだのは台車だけで、亜美はそのまま宙へ弾き飛ばされて壁になっていた男子達のところへ吹っ飛んだ。ぎりぎりのところで、もみくちゃにされながらも亜美は男子達に受け止められていた。
――パサッ。
気付けば兄さんは既に私の傍にいて、私の肩には兄さんの上着が掛けられていた。
「桃那、女の子がそんな格好していたらダメだろ」
「兄さん……兄さぁぁぁーーん!!」
「おっと、危ないな」
「に、兄さん!?」
私は感極まってたまらず抱きついたが、軽く兄さんに躱された。なんで? ここって普通抱きしめあうパターンのはずだよね。
恨めしそうに上目遣いで兄さんをにらみつけるが、兄さんはこちらではなく亜美の方向を見ていた。
私も釣られて見るとそこで亜美はとんでもない事になっていた。
「わっしょい! わっしょい!」
男子達の声が聞こえ、その真ん中でピョンピョン飛び上がってるものが見える。それは男子達に亜美が胴上げされていた姿だった。
「いやぁぁぁ!! みんな何してるの!? って、今私のお尻触ったーー!!」
亜美はいろんな体勢になりながらも、胴上げされ続けていた。あれじゃお尻だけじゃ済まなそう。
「あー……教室に戻るか桃那」
「うん、そうだね兄さん」
気付けば授業なんてとっくに終わっていたのを今更になって気付いた私達だった。
収拾がつかない。
後日、桃那さんは亜美さんに泣き付かれました。
本当になんで親友で居られるんだろ。まさかドM……。




