今日の占いコーナー 和雅View
相変わらず破壊神の桃那さん。
「はい、兄さん。あーん!」
「やめろ。それと、もう腕は治っただろう」
あれから、まだ一週間ほどしか経ってないが俺は気合で腕を回復させた。医者からはまるで化け物でも見たかのように驚かれたが仕方の無い事情があったのだ。
あの日から何度も何度もあーんをされたり、背中を流そうと乱入してきたりと大変だったのだ。もちろんすべて未遂で終わるよう留めているので一線を越えた事は一度も無い。
「じゃあ、また兄さんの腕をポキッとやっちゃおうか。今度は両腕とも」
「笑顔で恐ろしいことを言うな。それにそこまで行ったら入院することになるだけだ」
「そっか、残念」とボソッと呟く桃那を他所に、俺は登校前の俺が何とか作り上げた朝ご飯を食べる。我が家の朝食時はテレビを付けながら、桃那と2人きりで食べることも結構ある。両親共に仕事が忙しいのだ。
主に俺らが家を破壊するため、金銭的に厳しいのかもしれない。社会に出たら援助して親孝行しないといけないな。
ふと、気づくと桃那はテレビに集中していた。この時間には毎朝、星座占いがやっているからだ。ちなみに巷でもその星座占いはとても有名かつ人気で、突拍子も無い内容なのに何故か一部の人間に対して狙い済ませたかのような的中率らしい。
もちろん俺たちは今まで、その標的になったことは無かったのだが、今日は違ったのだ……。
『第一位は、天秤座のあなたです』
「え、やた! 私一位だよ! 兄さん!」
桃那が大はしゃぎして喜んだ。ちなみに俺と桃那は星座が実は違う。俺は9月22日に生まれた乙女座で、桃那は同月23日に生まれた天秤座なのだ。
『第一位のあなたはきっと大好きな人と結ばれるかもしれません。ラッキーワードは吊り橋効果! 是非お試しあれ!』
「うそうそっ!? じゃ、じゃあ私も……」
何故か桃那がこちらを見つめる。どうせ例の如く当たるわけもないのだが、しかし桃那に好きな人がいるだと……?
ふつふつと俺は怒りが湧いてきた。だめだ! 兄さんが絶対に許しません。俺は桃那には穢れる事無く、一生恋とは無縁の生活を送らせたいのだ。
朝食中なので玉子焼きに箸を進ませる。上手く出来ているのでとてもおいしい。しかし桃那の箸は完全に止まっていた。
「兄さん、吊り橋効果って何?」
「知らないのか? 恐怖による感情を恋愛による感情と勘違いさせることだ」
「ええと、つまり兄さんに恐怖を味わせればいいのね?」
「ああ、更に相手と見つめる必要があるかもしれないな。ん? 俺……?」
―ガタッ。
桃那が突然立ち上がった。そして桃那はキッチンへ向かって行った。醤油でも取りに行ったのかもしれない。
そのままなんとなくテレビを見続けていたが、第9位でも乙女座はまだ発表されない。
そして第10位が発表されたが、獅子座だったので乙女座ではない。もぐもぐと俺はそのままご飯を食べていた。
―ズドンッ! ビィィンッ
おかずを取ろうと思い、箸をおかずに伸ばしたところに包丁が突き刺さった。俺の箸は真っ二つに切り落とされて、指はかろうじて付いたままだったが、あと少しで危なかった。
飛んできた方向を見ると桃那が立っており、両手の全ての指と指の間には8本の包丁が挟まれていた。
『第11位は山羊座のあなたです!』
場違いにもテレビの占いが結果が発表されている。乙女座は今まで出ていないと言う事は12位で間違いないだろう。
そんなことよりも今は桃那の事だ。どうしたのだと言うのだ。
「兄さん。怖くなった?」
「い、いや……。驚いただけだが、どうしたんだ?」
「そうなんだ? じゃあもっと激しくしないとダメかぁ……」
「激しく? その前にお前いったいどうして……」
―スッ。
包丁が俺に向けられている。明らかに俺を狙っているかのようだ。
そして待望の12位が発表された。
『第12位は――』
「兄さん……」
『残念ながら乙女座のあなたです!』
「な、なんだ? 桃那」
『今日の乙女座の運勢は』
「もっと激しくするから覚悟してね……?」
『――身内から命を狙われることでしょう』
* * *
―バアンッッ!!
大きな音と共に、玄関のドアを破壊して、誰かが外へ飛び出して来た。
「くそっ!!」
占いが終わった途端に、俺は家を飛び出したのだ。朝飯の途中だったので、ちゃんと朝食とカバンを持ちながら走って逃げる。
「待ちなさーーい!!」
―ズダンッッ!!
そして俺を追うのは包丁を7本振りかざす桃那だ。1本減っているがその1本は俺の目の前の壁に、俺の髪の毛数本の犠牲と共に突き刺さっていた。
どうやら本気で殺すつもりで掛かってきているらしい。
「兄さん! 怖くなった!?」
「いや、とりあえずやめてくれ! 飯が食えんっ!」
「怖くないなら止められない!!」
俺は左手で持った皿から玉子焼きを半分の長さになった箸で掴んで口に運び、もぐもぐと食べながら走った。
とても味わう余裕が無いのはなぜだろうか。
「兄さん待ちなさい! このぉ!!」
―ズダンッ!
足を狙ってくると俺は先に読んでいたので、コサックダンスをする要領で回避する。
腕を損傷した程度では俺を押さえ込めることが出来ないことは前回で既に知ったはずだ。そのため、俺を捕まえるにはどうしても足を狙わなければならないのだから当然だろう。
もぐもぐと、ご飯を短くなった箸で救って食べる。実に食べづらい。
そしてその隙を狙って桃那が第3投を繰り出した。
―ズダンッ!スッ――ガシャアンッ!
同時に2本放ってきたようだ。だが俺は目の前にあった塀を利用して、右手だけで華麗にトカチェフを決めて回避。
1本はその塀に、そしてもう1本は俺の脇を通り抜けて、他所様の家の窓に直撃していた。誰も居なかったので無事を確認した俺はそのまま立ち去った。
しかし、その俺の華麗な技が仇となり、食べかけていたご飯が喉に詰まる。
「ごほっ、げほっ」
「あっ! チャーーンス!!」
咳き込む俺に対して、桃那はそれをチャンスとみて、攻撃が激しくなる。
俺は咳き込みながら必死に走るが、かなりスピードは落ちてるため、桃那には簡単に補足される。とは言え、桃那が所持してる包丁は後4本だ。後4本回避すればっ!!
強引に玉子焼きを口に全て放り込むと、かなりむせた。とてつもなく喉がやばいことになっている。
すぐさま後ろを振り向くと、桃那は再び2本投げる構え。そして投げ出された。
―ヒュンッガキンッ! ドスドスッ!!
桃那が2本の包丁を投げた瞬間、俺は玉子焼きが乗っていた皿を掴んで、投げられた包丁へ向かって投げた。
皿は包丁と正面から当たって砕け散ったが、2本の包丁は地面に打ち落とされた。
「兄さんっ。まだ怖くないの!?」
「むぐっむむっごほっ!」
玉子焼きで口の中をいっぱいにしている俺がしゃべられることもなく、桃那は再び俺を狙っている。
逃げ回る俺達の周囲にはもちろん、俺たち以外の登校中の者も居るが、皆一斉に目をそらしている。きっと見たくないものでもあったのだろう。
しかし、その中で1人だけこちらを見ているものがいる。その手にはとあるものが――。
俺は今朝の占い結果を思い出していた。あの時はすぐに逃げ出してしまったので、最後まではちゃんと聞けなかったのだが……。
『――乙女座の今日のラッキーアイテムは、知人の持っているオレンジジュース入りのペットボトル』
確かに占いで、そう言っていた気がする。そして、こちらを見ていた知人――東山の手には、ペットボトル飲料水が握られていた。
―ササッバッ!!
「えっ、きゃああっ!!」
俺は東山に近寄ると、その飲料水を奪い取った。奪い取ったものの中身はオレンジジュースと断定。特徴的な青い皮膚に赤いほっぺな間抜け面のマスコットキャラが書かれている。低果汁だとしても立派なオレンジジュースだ。
喉も詰まってることだし、少しご相伴に預かろう。封も開いてることだしな。
「なっ!! に、にににっ、兄さーーーん!!!」
それを見ていた桃那が鬼気迫った顔で叫んだ。正直ここまできたら恐怖そのものだ。右手には2本の包丁がまだ握られている。
俺はジュースの蓋を開け、飲もうとした瞬間――。
―ヒュッズバッッ! ドガアアアーンッッ!!
次の瞬間に俺はオレンジジュースまみれになっていた。
ありのまま、今起きたことを話すとしよう。
ジュースの蓋を開けた瞬間、音速を超えたような速度で何かが飛んできて、俺の持っていたペットボトルがはじけとんだ。そしてその飛んできたものは俺の後ろにあった、塀を粉々に全て粉砕し、そのまま地面に突き刺さると小規模なクレーターを発生させた。そしてクレーターの中心には粉々に粉砕してしまった2本分の包丁と思えるものが残っていた。
その光景を唖然と見ていたら、背後に気配を感じた。そうだ、桃那だ。
「兄さん……? 今、亜美と間接キスしようとしたよね……?」
「ごほっ、もぐぐっげほっ」
まだ食べ物が喉に詰まっていることも忘れ、俺は必死に弁解しようとしたが、当然無理だった。
俺の口からは砕けた玉子焼きが飛び散り、桃那の顔が玉子焼きまみれになっていたが、それを異とも思わずに、むしろペロリと美味しく頂いていた。その姿にはもはや恐怖しか感じられない。
「兄さん、怖かった?」
俺はこくこくと喉に詰まったせいで涙目になりながらコクコクと、頷くしかなかった。
それを見て桃那は満足すると東山を捕縛して、登校途中にある公園に備えられているトイレに向かって行った。
その後、東山がどうなったのかは俺は知らないが、今後あの占いは注意して見ておくべきだろうな……。
亜美さんはお仕置きされてないのでご安心ください。
ただ、恐喝と言う名の尋問を行われただけです。




