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謎の怪物現る 和雅View

和雅Viewは破壊活動がデフォです。

『身体測定のお知らせ』


 俺の手にある紙にはそう書かれていた。何度も何度も繰り返し確認したり、折りたたんでから開きなおしても書かれている文字が変わることはない。

 逆の手でシャーペンを握っていた俺の手が震えた。そして、

―パアアアアッッ!

 某ガン○ムのアニメのような紫色の種が粉砕するかの如く、俺が握り締めていたシャーペンが粉砕した。

 身体測定とは――男子または女子の、至る所までの身体的な情報を数値化する行為だ。

 つまり、桃那の身体的な情報漏洩にも繋がりかねないので、俺がなんとかしなければいけないわけだ。

 だが、敵は外側にも内側にも居るのだ。そう、男達はもちろんのこと、妹のデータを売るバカな女なども存在する。即ち俺は全ての敵から妹を守らねばならないのだ。

 去年は養護教諭の喉を潰し、声を出なさせての執筆でのやり取りをさせた。あれはいい作戦だったが毎度使える訳でもない。下手すると養護教諭の喉が完全に使えなくなってしまう。――それでもいいや。と少し思ったことは秘密である。

 では行動に移そう。まずは詳しい情報を得るために東山を捕獲する所からだ。

 以前説明したように東山 亜美(ひがしやま あみ)は桃那の友人で、見た目も能力も『無難』と言う文字で正に書き表した感じの子だ。黒のショートボブのくりくりっとした目。身長も150後半と言った所だろう。スタイルはあまり述べない方がいいかもしれないが、可も無く不可もなくと言った所だ。こう言った所が男にモテても不思議ではないのだが、知れずとそう言った話も聞かない。

 そして東山は俺の左前の席で、桃那の前の席でもある。

 つまりはだ。俺が東山と接触すれば、桃那に確実に知れ渡ると言うわけだ。

 ちらりと、隣の席の桃那を見ると、この身体測定のお知らせの紙を掴みながらため息を吐いている。

 そして桃那が目を瞑った。その瞬間、俺はその隙を狙い一気に東山を捕らえる。


「えっ……? きゃぁっな、なになに何!?」


―ガタンッズサーッスチャッ。

 流れるような捌きで俺は席を立ち、東山の隣に立つといきなり抱きかかえた。言わずもがな。お姫様抱っこと言うものだ。

 突然のことで東山は軽くパニックを起こしているが、生きてれば問題無い。すぐに俺は立ち去らねばならないのだ。

―ズサササーッガラララッ!

 抱きかかえたまま教室のドアまで駆ける。もうすぐ授業だなんて知ったことではない。

 が――。

―ダアアアアンッッ!!

 突然、俺の前で開かれたドアが一気に閉まった。閉まったってもんじゃない。そのままドアは壁に吸い込まれるようにドアが砕け散った。


「兄さん? 何しているの……?」


 ゆらり、ゆらりと黒いオーラを周囲に纏った桃那が目の前に居た。一瞬で廊下まで移動したらしい。何故かよく分からないが、とてつもなく怒っているようだ。

 強敵に遭遇した緊張で俺は腕の中に居る東山をギュッと強く抱きしめると、桃那の眉毛がギリッと更に鋭くなった。


「桃那。これは情報収集のため必要なことだ」

「ふ、ふふ、ふぅーん? ……兄さんってもしかして、(亜美の)身体測定の情報が欲しいの?」

「もちろんだ。全ては(桃那の)データが漏れないようにするためだ!」

「データが漏れないようにって、そんなに(亜美の事を)独り占めしたかったの!?」

「独り占めするつもりはない! だが、安心しろ。必ず(桃那のデータを)守ってみせる!」

「ふ、ふふふふ……。(亜美を)守るですって……?」

「あわわわわ……」


―ゴゴゴゴッ!

 負に満ちた黒いオーラが辺りに立ち込める。桃那がとてつもなく憤怒しているようだ。

 東山はそれを見て俺の腕の中で狼狽しているようだが、必ず情報漏洩させないために東山の命だけは俺が守ってみせる。


「あああーっ! もう!! 兄さんをヤ(犯)って、私も死ぬ!!」

「(情報収集のために)東山と2人きりになるまで、俺はまだヤ(殺)られる訳にはいかない!!」

「あぁぁーー、みぃぃーーー!!?」

「ヒギャアアーーッ!! こ、殺されちゃうよぉぉ!!」


 そこで東山が怖がって、ギュッと俺にしがみ付いたことも一因となり、更に桃那が暴走し始めた。

 これでは、もはや一刻の猶予もない。もしも捕まれば東山が確実にSATHUGAIされてしまう。

 戦うほかに選択肢はないが、東山を抱きかかえたままでは攻撃も出来ないだろう。

―ビュンッ!!

 突然風が突き抜けたと思うと、遠山の首元に可愛く結ばれたリボンが弾けた。

 軽く弾けたなんて優しいものではない。本当にパンッ、と風船が割れたのかと思うぐらいに布状のリボンが弾け飛んだのだ。


「ひ、ひぃぃぃぃ!!」

「亜美……。覚悟してよね?」

「な、何で私!? 私は何もしてないよね!?」

「どの口が『何もしてない』だってぇ!!!」

「あ、あああ……」


 涙で顔がくしゃくしゃになる東山。だが生きていれば問題ない。

 しかし、このままでは戦えないと思った俺は、すぐに反転して後ろのドアから廊下へ出る。

―ズガァァァンッ!!

 廊下へ無事に出た後に後ろを振り返って俺の教室を見ると、教室と廊下を隔てた壁が完全に粉々になっていた。もはやドアすらいらないほどの開放感だ。

 崩壊した時の埃のせいで、上手く奥が見えないが、目を赤く光らせた桃那が口から白い息を吐き出しながらこちらを見ていた。

―ダダダッダーンッッ!!

 走りながら一気に飛び上がって3階へ登る。目指すは"あの部屋"だ。

 かなり距離が開いて、桃那の姿が確認できないが、後ろから「うわああああーー!!」「きゃあああああーー!!」などの悲鳴が聞こえるので大体位置が分かる。かなりのスピードでこっちに向かっているようだ。

 俺はすぐに"あの部屋"へ向かおうと駆け出したところ――。

―ズガガーーンッ!!

 3階へ到着した所で床が崩壊した。崩れる廊下の床の隙間から下の階を見ると、化け物じみた何かがそこに居た。

 俺は崩れる床を踏みながら前に進んだが。

―ガッ!!ドゴッズダンッッ!

 物凄い力で足を捕まれた。その瞬間一気に崩れかけの床も巻き込んで俺は下の階へ吸い込まれた。


「ぐっ、しまったっ!!」


 俺は桃那に捕らえられてしまった。目の前には仁王立ちをする桃那が俺と東山を見ている。

 しかし、東山はいつの間にか気絶しており、意識がない。

―ガッ!

 桃那の手が東山の首に吸い込まれるように突き出された。

―ガシッゴキッ! メキメキメキッ!!

 俺は間に右腕を入れて回避する。首を絞めるような力ではなかった。むしろ引きちぎるかの勢いだ。俺の腕は数日の間、使えなくなってしまっただろう。


「に、兄さん……、なんで? ソイツ殺せないから退いて!!」


 目の前にはボロボロと泣き始める桃那。俺の腕を掴む桃那の力がだいぶ落ちた。

 俺も桃那を泣かせるつもりまでは無かったので、素直に全てを白状することにした。これで泣かせてしまった桃那への詫びになればいいのだが。


「全ては桃那のためなんだ! 分かってくれ!」

「私の……? なんで私のために亜美と付き合うのよ!! なら私と付き合えばいいでしょ!!」

「付き合うって、何の事だ?」

「えっ…? ええ……?」


 お互い言っていることがよく分からず混乱しているようだ。

 ちなみに周囲にはいつもの野次も居ない。

 全員避難してただいまグラウンドに大勢の生徒がいる。外からは『謎の怪物が現れたので、全生徒は速やかにグラウンドへ避難してください!!』と聞こえる。あまりの恐ろしさに誰も直視できなくて、正体が誰だかばれていないようだ。

 そして、俺はスゥーと息を吸って、東山を攫った理由を桃那に伝えた。


「――と言うわけなんだ」

「え……? わ、私のため…??」

「ああ、そうだ。桃那のデータを漏れないようにするために情報をな」

「嬉しいよぉ! 兄さんが私のこと独り占めしたかったなんて!」

「ひ、独り占め……? 何のことを、うわっ!?」


 今度は嬉し泣きをしながら、桃那は俺に飛び込んできた。間には東山が居るのだが、完全に眼中にないらしい。それでも友人なのだろうか?

 いつまでも泣き止まないので、頭を撫でてやったら嬉しそうに泣き止んだ。本来は触れてはいけないが、いつまでも泣かせたままにしておくよりはずっと良い。

 しかし、もしも今の状況を誰かが見ていたら口を揃えてこう言ったのではないだろうか。


『兄妹喧嘩に周囲を巻き込むな!』と……。



  * * *



――病院へ行き、そのまま俺と桃那は帰宅した。


「はい兄さん。あーん、して」

「いらん。左腕で食べられる」

「ほら、あーーーん! あーーーーん!」


 謎の怪物にやられて、右腕を負傷した俺は病院で治療を受けた。全治2週間の大怪我だった。

 被害は右腕だけなので、そこまで支障は出ないが、しばらくは片手だろう。

 そして怪我を負わせた桃那はその責任と言いたいのか、ここぞとばかりに嬉しそうに俺の節介を焼こうとしている訳だ。


「ねね、兄さん? 背中流してあげる!」

「やめろ。それだけは本当に止めてくれ」

「いいから、いいから!」

「こら、離せ! しかも、まだ飯食い終わって――だから離せ!!」


 ちなみにこの後に1時間程の口論を風呂の中でも続けた結果、俺と桃那は熱を出した。そして身体測定は2人とも、熱が下がった後日に再測定したので情報は漏洩せずに済んだのだった。




亜美さんを抱き抱えた瞬間、声出てますから。気付かれないように逃げるなんて無理ですよねー。

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