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平穏から一番遠い日常 亜美View(挿絵有)

10話毎に特別な話を今度からやろうかな。と思った結果、挿絵を書いてました。

色々と体調不良も酷く重なり5日も掛かってしまいました。ごめんなさい。

今回は11話になってしまいましたが、次は20話を予定してます。

挿絵は、ガンバリマス。


と言うことで今回は東山亜美ちゃんの視点となります。


そして、いつもより倍のボリュームです。

途中百合シーンがあります。アレルギーの方は注意してネ。

 とある平日の朝……と言うには少し早い時間。

 まだ太陽が顔を覗かせるかどうかの時間に私のこと東山 亜美(ひがしやま あみ)が夢から目覚めた。今日が特別に早いと言うわけではなく、日ごろから早起きをしている。

 もちろんこんなに朝早く起きたところで特別することがあるわけではない。

 ちらり、と視線を向けるとそこには私の携帯が充電器に差し込まれているが、今日に限って通知を知らせる点灯が光っていなかった。


「あれ? 珍しい。桃那になんかあったのかな」


 普段はこの時間に朝ご飯対決の勝敗を知らせるメールが届くのだ。しかも無視すると何度も送ってくるため、放っておく事も出来なかった。

 もちろんその始まりの頃は起きることも出来なくて、迷惑とも思っていた。

 ―ピッピッと、私の指が携帯を操作する。


『朝早くごめんね。でも亜美には知って欲しかったから』


 それ以降、私も頑張って桃那の期待に答えたくて早起きするようになった。

 未だにそのメールを取っておくのはちゃんとした健全な理由。

 桃那は私にとって初めての友達だった。

 そして友達になって数年間、今まで桃那からお願いされることはこのメールが送られてくるまでに一度すらも無かった。

 つまり私にとって桃那が私のことを友達だと初めて認めてくれたように感じられたのだ。だから今になっても削除することが出来ず取っておいてる。

 でも今日はメールが来ていないことに逆に不安を感じてしまう。


「ふふふ……」


 つい私はおかしく感じて笑いが込み上がった。

 いつもメールが来るたびに「ああ、今日も何をしてるんだか」って心配になるのに、連絡がないとそれ以上に心配になるなんて私にとって思いもよらなかった。

 携帯を閉じて充電器に差し込もうとする時、その携帯が震えて音を奏でた。

 桃那からメールが来たのだ。

 いつもよりちょっと遅い時間であるものの、いつもどおりと言うわけだ。

 安心したような若干不安を感じるような、ドキドキを胸に再び携帯を開いた。


「え゛っ!? えぇぇぇぇぇ!?」


 メールを見た私は、その内容にびっくりしてしまう。そもそもメールは桃那のからでもなかった。

 こんな時間だと言うのに大声を出してしまったが、そんなことを正常に考える事も出来なかった。

 急いで私は制服に着替えて髪を軽く梳かすと、携帯を握り締めたまま自分の部屋から――自宅から飛び出した。


 メールの一文にはこう書かれていた。


『ついに兄さんの体を手に入れたどーー!』


 と言う、和雅の携帯で桃那から送られてきたメールだったのだ。



   * * *



 ――バァァンッッ! 私はこんな明け方近くの時間から近所の柿椿家にまで走ってきて、ピンポン連打の後に鍵が開いたと同時にそのままの勢いで家の中に入る。


「桃那ー! 和雅くんの体を手に入れたってどういう事!? ま、まさか……は、早まっちゃダメーー!!」


 ゼエゼエと荒い息を吐きながら、玄関先から中を覗くと桃那と和雅くんの二人ともがその場に居た。無事が確認できると共にメールに対する疑問が一気に浮上してくる。

 桃那は一体どう、和雅くんの体を手に入れたのだろうか。どう見ても何も起きてない。もしかして嵌められたのだろうかとも一瞬そんな考えも過ぎった。

 そんな私を心配するかのように和雅くんが私に近寄ってきた。


「亜美? そんなに慌ててどうかした?」

「どうかするよ! 和雅くんの携帯からこんな内容が来たんだもん! ついに桃那が力任せで押し倒したり、拉致監禁に手を出したのかと思って慌ててきたんだからっ」


 和雅くんが私に近づいてきたので、私が心配したことを矢継ぎ早に浴びせた。

 私の剣幕で和雅くんが若干押され気味なものの、今までに見たことの無いような表情をしてるけれど……。

 あれ……。


「い、今。和雅くんが私のこと亜美って呼ばなかった?」

「いや、俺は東山の名前すらまだ呼んでないが?」

「へっ!? 桃那……?」


 先ほど私のことを「亜美?」と呼んだのは和雅くんであった。そしてそれを指摘すると何故か桃那が代わりに答えた。

 そして先ほどからあった違和感がどんどんと膨れ上がってきた。

 今思って冷静に二人を見てみると難しそうな顔をする桃那と、苦笑いする和雅くん。

 ……二人とも普段はそんな顔を絶対にしない。

 桃那なんて難しそうな顔なんて本当に滅多にしないし(凄みのある邪笑とかは頻繁にあるけれど)和雅くんに限っては苦笑いであっても愛想笑いは絶対にしない。天地がひっくり返っても笑ったりしないって断言できる。

 呆然とする私に向かって、桃那が近づいてきた。


「混乱するのも無理は無い。俺が和雅だ。で、そっちが桃那だ」

「はろー亜美亜美」

「うぇっ!?」


 桃那が和雅くんと名乗り、その和雅くんに呼ばれ笑顔で手を振る和雅くんのこと桃那。

 私が和雅くんに指を指しながら「桃那?」と尋ねると、和雅くんである桃那がこくんと返事し。今度は桃那に対して「和雅くん?」と尋ねると、桃那である和雅くんが「ああ」と返事した。

 つまり二人の体は入れ替わってしまったのだ。


「え゛っ!? えぇぇぇぇぇ!?」


 私の絶叫が本日二度目響き渡ったのだ。




「そ、そういうことだったんだ……」


 私は桃那になってしまった和雅くんから事の次第を教えてもらった。

 今朝いつもどおり朝ご飯合戦をしていたところに桃那が真っ暗になっていた階段で転び、桃那が落ちてくるのを和雅くんが受け止めようとしたら頭からぶつかった。その結果入れ替わってしまったらしい。


挿絵(By みてみん)


 桃那が和雅くんの体を手に入れたって言うのは入れ替わった影響で、自分の体が和雅くんの体になってしまったと言う物理的(?)な意味だったのだ。


「はぁー……桃那。どうするの? って桃那何をしようとしてるの!?」

「ん? 桃那が……って、何をするつもりだ!」


 突然に既に制服に着替えていた和雅くんの体で、何故か桃那はベルトを外そうとしていた。

 それに気付くと私と和雅くんの二人でいっせいに止めに入った。


「えー、せっかく兄さんの体なんだから隅々まで見ようかと」

「どうして隅々まで見ようとするのかって思ったことよりも、下半身から見ようとしてるの!?」

「そんな事も分かんないの?そこ以外は全部見たことあるからに決まってるでしょー」

「分かるわけないよ! それに決まってるの!?」


 相変わらずいつもどおりのマイペースで私を巻き込む桃那。だけれど今は和雅くんの体で凄くやりづらい。

 そんな和雅くんも私に対して「疲れないのか?」と聞いてきたけれど、疲れるよ!すっごく疲れてるよ!

 でもこんな状態の桃那も放ってはおけない。


「桃那だって、和雅くんに裸見られたら嫌でしょ? ね? だからやめよ?」

「え? 私は別に兄さんに見られたって……」

「嫌でしょ!? ねえ! い・や・で・しょ!!」

「だから見られたって、むしろ見て――」

「ダメなんだってばーー!!」


 ベルトを外そうとする桃那を必死に説得するが、全く応じてくれない。そもそも普段から桃那はそうだった。

 それならばと私は和雅くんの方を見る。

 しかし和雅くんの姿は見つからなかった。


「っていなーーっ! 和雅くんはどこ行ったの!? こんな桃那を放置しないでよ!」

「東山ーあまり大声を出すな。ほら朝食の時間だからお前も食っていくか?」

「今朝ご飯なんて食べてる余裕なんて無いよね!? 私がそっち行ったら確実に桃那脱いじゃうの分かってるよね!?」

「えー亜美も一緒に見たいの? 私一人で見たかったのになぁ」

「誰がそんな事言ったー!? 和雅くんも助けてよーー!!」


 私が和雅くんに呼びかけると、和雅くんはのんきにご飯を食べていた。その間も私は必死に桃那の下半身にしがみ付いて脱がせまいとしていた。

 その後、和雅くんに必死に呼びかけるものの朝ご飯を食べるのに夢中になっていた。

 もうやだこの双子……。


 私の叫びが通じた――いや、あれだけ叫べば誰だって聞こえる。そして、桃那の母親の(さくら)おばさんが私達の前に顔を出した。


「あら、亜美ちゃん。何、和雅にしがみ付いて叫んでるの? あっ良かったら一緒にご飯食べていく?」

「お、おばさん……ご飯は食べたいけど桃那が――えーーと、和雅くんがベルト外して下半身露出しようとしていてですね!」


 桜おばさんが声をかけてくれるものの、会話からして二人が入れ替わったことには気付いていない。そしてそんな桜おばさんにちゃんとした説明も出来ず、和雅くんが露出狂扱いになってしまった。

 露出扱いされても何の反応も返さない和雅くんはそのまま黙々と朝ご飯を味わっている。

 桜おばさんは私を助けに来たわけではなく、いつになってもダイニングに来ない桃那を呼びに来ただけだった。


「ほら、和雅も早くご飯食べちゃいなさい」

「はーい。でもおっかちゃん。脱いでからね~」

「何それ!? 桃那はもしかして和雅くんの真似なのそれ!?」

「うむ、たまに食べる母上の料理もいいものだな」

「和雅くんはそれで桃那のつもりなの!? もう二人とも真似する気もないのね!? ってか助けてよー!!」

「あ、ベルト外れた。レッツオーップーーン!」

「にゃあああーーーー! だ、だめええええええーーー!!」


 これ以上脱がさせまいと下着の上から桃那の下半身に顔をうずめる形になって、これでは私がただの変態だ。

 しかし、周りに助けてくれるような人が誰も居ない。

 恥と世間体の全てを捨てながらも最後の望みを求めるべく、桜おばさんに助けを求めた。


「おばさん助けてーーー! この二人頭がおかしくなっちゃってるの!!」


 桜おばさんに助けを求めたいがどう説明すれば伝わるか分からず、めちゃくちゃなことを言ってしまう。

 私はもういっぱいいっぱいになっていた。


 そして私の言葉を受け取った桜おばさんは――。


「その二人がおかしいのはいつものことでしょ? それでご飯どうするの?」

「……あ、はい……そう、ですね。 ご飯ください……」


 私は全てを諦……受け入れ、桃那から離れると朝ご飯を頂いた。



   * * *



「桃那いい? 和雅くんも!」

「「はいはい」」

「本当に大丈夫かなぁ……」


 あの後、桃那の阻止を諦めた私はご飯を頂いた。

 そして一度私は家に帰った後、今三人で学校へ登校中だった。

 外の天気は雲も見つからないほど鮮やかに晴れ渡っているが、だけど私の心は晴れることがなかった。


「二人が入れ替わってるなんて普通は信じてもらえないんだから、二人ともお互いの振りをしっかりしてよ!」


 本当は休ませたかったが、二人とも「桃那(兄さん)に学校を休ませるなんてとんでもない!」と言って譲らないのだ。

 私に迷惑かけることもとんでもないって思ってくれ……無いよね。

 それに二人とも肝心なことを何も考えていない。


「ね。ちゃんと元に戻るかも分からないんだよ? 本当に大丈夫なの?」


 そう、私が心配してることはそれ。

 二人が元の体に戻る補償なんてどこにもないのだ。

 もしものことがあれば、二人はずっと体が入れ替わったまま生活を送らなくちゃいけない。


「そしたらそしたらかなー。まぁ大丈夫! 兄さんの体は一生誰にも触らせないよ!」

「そうだな。俺も桃那の体は一生守りぬく。汚れの無い無垢なままを維持してみせる」

「…………(それって一生童貞と処女のままってことだよね。別にいいんだけどさ)」


 もちろんそれ以外にも「私は和雅くんの体にさっき触れたよ」とかにも気付いてるけれど、敢えて指摘したりはしない。桃那にそれを教えてしまうと二度と桃那に触れることも出来ない。それはとても悲しいことだったから。

 そんな事を考えてるうちにもうすぐ学校の位置までやってきた。ここからは他生徒がたくさんいる。

 本当に大丈夫なのか心配になる。

 心配になってふと隣を見るともう二人ともいなくなっていて、私だけがぽつんと立っていた。

 ぶわっと私の体から嫌な汗が吹き出た。


「(あの二人だから問題起こす! 絶対にだ!!)」


 とても複雑な確信を持ちながら必死に私は二人の姿を探した。

 すると直にその姿を見つける。

 桃那――和雅くんが尻餅をついた女生徒の手を握りながらそこに居た。


「あの、柿椿さん? ありがとう……」


 どうやら女生徒Aが道端のバナナの皮に転んでしまって、それを見た和雅くんが手を引いて起き上がらせていた。


「って、なんで道端にバナナの皮!?」


 思わずつっこんでしまうものの、私も心配だったので直に駆け寄った。

 普段朴念仁の和雅くんもこういうときはとても紳士的になるのでそこまで不安に感じることもなかった。


「大丈夫か? ほら、ここ汚れてるからじっとしてるんだ」

「えっ、あ、あの。あ、ありがとう……」


 頬を赤く染めながら、ぽーっとした表情で和雅くんを見つめる女生徒A。

 でも和雅くんは今、桃那の体になっているってことちゃんと分かっているのだろうか。

 何を思ったのか、和雅くんはそのまま見つめる女生徒Aの頭を軽く撫でる。

 更にその子の顔が赤くなるのが、少し離れていた私からでもはっきりと分かる。

 ――これはまずい!


「あ、あの。よか――」

「えーっとごめんね! 桃那は用事あるから! ほら早く行く!」

「東山? どうしたんだ?」

「いいから来て! 早く迅速的に可及的速やかに!」

「え? え? ええええ!?」


 私は二人の会話途中に割り込むと、和雅くんの手を掴むと引っ張りながら駆け出した。

 呆気に取られてる女生徒Aはそのまま呆然とした顔で私達を見送ることしか出来なかった。

 そしてフラグ成立と言う窮地から脱出した私は次に桃那を発見した。

 とても嫌な予感しかしなかった。

 なぜならと言うと和雅くんの姿である桃那が、更にまた他の女生徒と二人きりで居たからだ。


「あの、柿椿くん。この間のお礼なんだけど……」


 女生徒Bは和雅くんの姿の桃那にこの間のお礼(といっても思い当たることが多すぎるので省略)として、クッキーを渡そうとする。

 でも今中身は桃那なんだよ! それ死亡フラグだよね!?


「ふぅーん……あ、ちょっと来てくれるかな?」

「うん? いいよ」

「じゃあこっちに……」

「うん」


 桃那は悪魔的な笑顔を浮かべながら女生徒Bの手を取り、人気の無いところへ移動する。


「って、ちょっとまってーーー!!!」


 私は桃那が何をするかに気付き、慌てて二人に駆け寄った。

 女生徒Bは女の私に対して嫌な顔をしたが、全てはあなたを守るためなんだからね?


「ん? 亜美、どうかした? 邪魔するならいくら亜美でも――」


 私だって普段は怖くて邪魔に入ったりはしない。

 でも今は、今だけは。


「桃那! 何をするつもりだったの……?」

「何って……オシオキ?」

「オシオキってあれだよね!? 今和雅くんなんだよ!? 和雅くんの姿でやったら完全にアウトだよね!?」


 桃那のオシオキを思い出すと私はゾッとした。

 桃那が和雅くんに気を持った女の子に対して、影では人には言えないようなオシオキをしてる事は知っている。私も何度か一緒に見たこともある。

 でもそれは、桃那が女の子だからまだ許されたわけで……。


「今、男の姿でそれやったら完全にアウトだから!!」

「何~この子? 邪魔しないで欲しいんだけど」

「いいからあなたは黙ってて!! ほら桃那もいくよ!!」


 私は女生徒Bを黙らせると、今度は桃那の手を引いて一気に駆け出した。

 先ほどの和雅くんと同じ様に、女生徒Bは呆然としながら私達を見送った。


 そういえば和雅くんはどこに……。


「今度からは一人で無茶したりするんじゃない。次からは声をかけてくれたらいつでも手伝ってやるから」

「ありがとう……柿椿さん。好き!」

「ぎにゃーーーー!! なにやってんのーー!?」


 あまりもの次から次と事件が舞い降りて私はもういつ倒れてもおかしくない。

 和雅くんを女生徒Cから引き剥がそうとして、私は和雅くんに向かって一気に駆け寄った。


 そして、その時私は足を躓いた。

 桃那を掴んでいた手はいつの間にか手を離してしまっていたので、支えになるものは何もなかった。


「東山っ!」


 躓いた事にすぐに気付いた和雅くんは私を受け止めるために駆けつけようとする。

 このまま真っ直ぐ行ったら転ばずに和雅くんに抱き留めてもらうはずだった。

 その時――。


「させるかぁぁぁ! ふんなーっ」

「えっ? きゃあああああっっ!!」


 突然桃那の声が横から聞こえて、一気に私は肩を押された。

 こんな時でも桃那は桃那だった。


 ―ガアアアアンッッ。と私の耳に聞こえた瞬間私は気を失った。



   * * *



「あ、あれ……私は……どうしたっけ」


 目が覚めると、ベッドに寝かされていた。

 どうやら、保健室のベッドに寝かされていたようだ。

 すぐ傍には俯いて今にも泣きそうな桃那も居た。


「あ、桃那。一緒にいてくれたんだ」

「良かった! 目が覚めてくれて本当に良かった!」


 目が覚めた私が桃那に声をかけると、先ほどの光景が嘘のようにパッと花を咲かすように元気になった。

 とても心配をかけてしまったようだ。


「あれからどうなったの?」


 痛む頭を抑えながらも桃那に質問した。

 何が起こったのか本当に分からなかったが、酷く頭が痛むことだけは分かった。


「あれから兄さんと亜美が頭からぶつかって、二人とも起きなくなっちゃったし凄く心配だったんだよー!」


 半ば泣きながら和雅くんの姿の桃那が私に抱きついてきた。

 もしかすると本当に危険な状態だったのかもしれない。

 親友の生還を喜んでくれる桃那に私は優しく頭を撫でた。


「もしかしてって、大切な人が無くなりそうって凄く心配で……」

「うん。ありがとう桃那。私もとても大切に思ってるよ」

「本当に私のこと大切?」


 私に抱きつく桃那の力がぎゅっと強まる。少し痛いけれど、これが親友を心配させた罰と同時に親友の存在を感じることが出来た。

 そして不安がってる桃那に対してもちろん私はちゃんと答えた。


「もちろん桃那のこと大切だって思ってるよ?」

「ほんとにほんと? なら、私のこと好き?」

「え? えーと、うん。好きだよ」


 どうしたらこういう流れになるのか一瞬悩んだけれど、私は嘘偽り無く答えた。もちろん友達としての感情だった。

 対して桃那は、よほど嬉しかったのか「えへへへへ」と、私に蹲りながらも笑っている。

 そして。


「私も好き。大好き」

「う、うん? ありがと」


 桃那が顔を上げると、真っ直ぐに見つめてきてそう言われた。

 しかし私はなにか違和感を感じるようになった。


「じゃ、じゃあキスとかもしてくれる?」

「えっ!? き、キス……?」


 桃那がじーっと、私の顔を見つめるとそのまま目を瞑った。いったい何が起こっているのだろうか。

 しばらくじっとしてても、桃那が目を開けることはなかった。


「(ど、どうしよ!? これって、した方がいいの!?)」


 かなりの時間戸惑ったが、未だに目が開かれることはなかった。

 私は意を決してキスをすることに踏み出した。

 きっと女の子同士だから大丈夫だって思って。


「んっ、これで両思いだね!」


 嬉しそうに言う桃那に私は何も言えなかった。

 桃那は和雅くんのことが好きだって知っていたはずだけど私のことも好きだったんだなと、ぼーっと初めて味わったキスの余韻に浸りながら考えていた。


 ――しかし、私はとんでもない勘違いをしていたのだ。


「じゃあ、これ以上のこともしようか……兄さん」

「これ以上って……へっ兄さん!? ちょっ!!」


 桃那が私ごとベットに跨ってきた。

 その前に桃那ははっきりと私に対して兄さんと口走った。

 私はハッとなり、保健室にある鏡の方へ視線を向ける。


 【そこには桃那の姿になっていた私がいた】



 つまり先ほどの事故によって私と和雅くんは更に入れ替わってしまったのだ。

 先ほどのことも桃那の反応も全て私にではなく、和雅くんに対してだったのだ。


「ま、待って桃那……私、亜美!! 私は東山亜美なの! また入れ替わっちゃったの!」


 私の服に手をかけていた桃那へ必死に説得する。

 一度入れ替わったことがある桃那なら、きっと直に分かってくれるに違いない。

 しかし、そんな私の願いが届くわけもなく。


「またまたー。今度は亜美の真似? 全然似てないよ?」

「真似じゃない! しかも似てないとかじゃなくて私、本人だよ!?」

「兄さんったらー。そんな棒演技じゃ騙されないって、ほら一つになろ?」

「演技でもないし! これが演技だったら普段の私をどう見てるのよ!!」

「えーと亜美のことだよね? ただのドM」

「私は、ドMじゃなーーい!!」


 会話の最中でも桃那の手が止まらなかったため、私は叫びながらも必死に抵抗した。とてもじゃないけどこんな初体験は嫌だ。

 相手が誰とかじゃなくて、勘違いされるなんて持っての他だ。

 入れ替わった影響か、とても力が湧いてくる。だから、いつも非凡的な怪力を見せる桃那に対しても対等に立ち向かう事が出来た。


「もう、いい加減にしてーーー!!!」


 私は全力で桃那を押した。

 ―ドガアアアアアンッッ!! すると桃那はもの凄い勢いで壁まで吹き飛んで、壁ごと粉砕していた。

 全力で吹き飛ばしたせいか、私はベッドのスプリングによって強く跳ね除けられて宙に浮いていた。

 そして落下する。


「ヒャアアッ!」


 そのまま私は床に顔面から着地した。



   * * *



「むぎゅっ」


 顔から床に着地した私を待っていたのは、自分の部屋の床だった。

 そして私はベッドからずり落ちて顔から床に落ちていたと言うわけだった。それはとても痛かった。

 そしていつもどおりに携帯のメールが届き、着信音が鳴っていた。きっと桃那からのメールだろう。

 起き上がった私は頭を軽く振って先ほどのことを思い出すが、夢の中に居た時とは違って記憶が霧散していくので思い出すことが上手く出来ない。


「はぁーー……変な夢見た……」


 夢だと分かると、安心感も出てきた。

 酷く汗を掻いているので、今日はシャワーを浴びないとダメそうだ。

 私はそんなことを考えながら、今日はどんなメールが来ているのかと確認した。


 そんな私に待っているのは――。

 平穏な日々とは程遠い日常。


『ついに兄さんの体を手に入れたどーー!』


「…………え゛っ!? えぇぇぇぇぇ!?」



 ……正夢にならないことだけを願います。



双子の二人とは違い、あまり暴走させられなかったのがきつかったです。

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