伝説の生まれた瞬間 桃那View
話は既に出来上がったのですが絵の練習をしていたため書き上げる時間が無く、3日程投稿が遅れてすみませんでした。
はい、半ば病んでる入ってるの桃那視点です。
『気になるあの人の落とし方』
教室で一限目終わりの休憩時間中、情報誌を読んでいると私の目に止まった。
「この雑誌に書いてあること、いくらやっても実を結ばないなら無駄」と言うことで今まで買うのを止めていた情報誌を、あの日占い事件以来は再びまた購入し続けるようになった。
なぜなら他のと比べてもこの情報誌の占いが一番運勢が良い――じゃなくて、的中率が高いので毎週購入している。
そして他の情報ページも何気なく読んでいたところ、先ほどのところでページを捲る手が止まったのだ。
「気になるあの人の落とし方? へー……」
いつの間にか隣から覗き込んでいた亜美が声を出した。
亜美はそのまま情報誌の内容に興味津々とばかり読み上げていく。
しかし私はその内容に一切興味が持てなかった。
「あれ、桃那ってこういうの興味ありそうだと思ったんだけど」
「もう全部試して全部失敗したから、別にどうでもいい」
「そうなん――って、全部!?」
以前は私がこういう情報誌を買ってくるのはさほど珍しくなかった。
しかし、以前購入した時「占いなんて当たらないしうさんくさい」と言った理由で占いコーナーに関しては飛ばして読んでいた。
"兄さんの落とし方"目的でいつも買っていたが、効き目が無くてしばらく買うこともなくなってきた。亜美も私が久しぶりに読んでいるのを見かけて、珍しさあまりに寄ってきたのだろう。
「失敗しても『初心忘るべからず』ねー……ってこれ失敗するのが前提で書かれてるの!?」
情報誌から心が離れた私を置いて、亜美が情報誌を熟読している。
初心を忘れない――始めた頃の当初のような真剣さを持ち続けていかなければならない。と言った意味。
私はそこではっと身を起こす。私の頭が亜美に当たったがそんなことよりも、今の私の状態はどうなんだろう。兄さんを好きになった当初ぐらい真剣さを持っているのだろうか。
私は兄さんが好きになった時を思い出す――あれは生まれて間もない頃……まだ自我の芽生えてない私に判断できるわけもなく、自我が芽吹く頃には好きになっていた。
「――じゃなくって!」
「わっ。桃那、さっきからどうしたの?」
「うるさい。ちょっと黙ってろ」
「え゛っええっ!?」
そうではなく、兄さんとニャンニャンして懇ろになりたいと思い始めた頃の方のことだ。あの時は何度失敗してもどんなに叶わなくても、絶対に諦めないと繰り返し真剣に取り組んでいた。
――そうだ。どうして私は忘れていたのだろう。
ガタッと音を立てて勢いよく私は立ち上がった。
「そうだ! 食パンを買って来よう!」
「何がいったいどうして、そうなったの!?」
「じゃ、行って来るね」
「今から買ってくるの!? もうすぐ授業だよ!」
私は亜美の制止を(物理的に)踏み越えて教室から出る。
今頃亜美は盛大に転んでいて教室中に痴態を晒している事だろう。亜美の悲鳴が響く教室を後にして、私は一気に駆け下りる。
だが――。
「柿椿! もうすぐ授業だ。今すぐ教室に戻れ」
私の前に立ち塞がったのは次の歴史授業の大戸 航先生だった。
「先生。私には今すぐやらなくてはいけないことがあるんです」
「ほほう。俺の授業より大切なことか……言ってみろ」
「それは、ずばり"食パン"です」
「え? しょ、食パンって、あの食パンでいいんだよな? 朝飯食ってこなかったのか? それより早く教室に……」
そのまま大戸先生は私の邪魔をするかのように、立ち塞がり続けている。だけれど対して私は、初心に返って何事に対してももう引かないって決めたんだ。
「先生。まだ邪魔するなら(物理的に)踏み越えます」
「あ? ふんっやれるものならやってみろ」
私の言葉が嘘偽りで無い事を空気で感じ取った大戸先生は腰を低く構える。あれは何事に対しても反応できる構えのようだ。
「言っておくが柿椿。俺は学生の時には既に柔道三段で黒帯を持っていた。だからお前も俺に手加っ――どぶぐはあぁああっ」
―ドゴスッ! と音と共に、大戸先生は悶絶した。
「さて、コンビニへ行こう!」
悶絶して蹲っている先生を(物理的に)踏み超えて、コンビニまで食パンを買いに行った。
その間、特に問題と言う問題も無く無事に食パンを手に入れた。そのまま教室まで戻っても遅刻にならなかった。
それどころか大戸先生が教室まで来なかったので自習時間になった。
――その頃保健室では。
「女生徒が食パンにワンパンで……」
「あの大戸先生? 授業はいいんですか?」
自分に自信のあった大戸先生は女生徒に(しかもたった一撃で)倒されたのが原因でプライドが大層傷つけられ、保健室で一日中泣いていたと言う……。
* * *
今は二限目の休憩時間中に無事に手に入った食パンを開けて、私は一枚だけ取り出した。
そんな様子を見て、亜美が心配になったようで寄ってきた。
どうやらパンを取り出した時、凄みのある顔で笑っていたから気になったようだ。
「よしっ、ではまずはこの食パンを……」
「えっとさ桃那。その食パンで何をするつもりなの……?」
「ふふ、ほへへひいはんふぁふぁふぁひほほほ(ふふ、これで兄さんは私の物)」
「何言ってるか分からないよ!? ってそのまま出掛けちゃうの!?」
私は食パンを自分の口で咥えて、亜美を完全無視して私は教室から飛び出した。
「うわっ、な、なん――あっぷろばあてぃーっ」
教室の外に出た時にぶつかった男子生徒を軽く蹴り飛ばし、そのまま駆け出す。
その男子生徒は壁に頭からめり込ませて、そのオーバーリアクションの様で周囲の人を驚かせている。とても芸に身を捧げたような人だった。
ところで、私が教室から飛び出した理由とはもちろん兄さんだ。兄さんは二限目の休憩時間中外出していたのだ。そのため兄さんを今も捜索中だ。
ズドンッバシンッと、廊下に出ていた生徒達をなぎ倒し、私はひたすらに兄さんの姿だけを捜し歩いた。
この時兄さんはただのトイレ休憩だったため、私の位置は既にトイレから過ぎているため入れ違いになっていた。
―ピクッ!と、私の対兄さん用センサー(兄さんの匂いを感じ取った鼻)が反応する。
急いで駆けつけると、角から兄さんが飛び出す寸前のところを発見した。
偶然的に、タイミング的にも角度的にも完璧な位置だった。
私はクラウチングスタートの構えを取って、一気に駆け出した。
―ビォウゥンッ! 私が駆け出したと共に私が風を切る音が鳴り響く。周囲にももちろん人が居たが、何か見えない壁に押し付けられているのかみんなこぞって吹き飛ばされている。
―ゴォォッ!! 物凄い音と共にどんどんと兄さんとの距離が狭まる。このまま行けば完全に、兄さんとの衝突コースだ。
だがそれが目的だ。
すなわち『食パンを咥えて、曲がり角でぶつかる』作戦。
本来は登校中ではなくてはならないのだが、兄さんと一緒に登校したいのでそれは嫌だ。そんな自分勝手な理由で、休憩時間を利用して実行に移している。
「(兄さん待っててね、今すぐ飛び込んであげるから!)」
その瞬間が訪れる、そして恋が実る。
そう完全に思い込んでいた私に予期せぬ事態が訪れる。
「あっ和雅くん。ちょっと――」
あろうことか、亜美が兄さんに話しかけてしまったせいで兄さんの歩みが止まる。
そして残り数歩のところで飛び出した私はすれ違い、壁に激突する。
―ズガァァァァッッン!! 私と激突した脆い壁は跡形も無く吹き飛び、崩壊した。
「うわああああっ壁が崩壊した!?」
「何!? 室内にトラック!? 交通事故!?」
「なんでこんなところに食パンが!? まさか食パンが壁を壊したのか!?」
崩壊したせいで、辺りは埃によって視界が封じられていた。そのせいで壊れた壁の内側の教室がパニック状態になっている。
そして私はのっそりと廊下へ出て姿を現す。
そこには唖然と立っている兄さんと亜美の姿があった。
普段穏和でとても優しい私の心は(桃那は自分で自分のことをそう思っている)今この時に限り、怒りで満ちていた。
「あぁぁぁみぃぃぃっっっ!」
「えっええ!? わ、私じゃないよ!? 壁壊したの私じゃないよ!!」
「ゆーるーさーなーい……」
「ひっ、いやあああああーーー!!」
「待てーーー!!!」
その後私は亜美を追い掛け回して、いつものあの場所へ連行した。
そして兄さんは私たちに置いてかれ、崩壊した壁の下敷きになっている人を救助したりしていた。
私の知らないところでまた兄さんの株が上がっていたのであった。
「どうして、失敗したんだろう。確かに亜美も原因だけど」
「ご、ごめんなさいごめんなさーい」
女子トイレの中で泣きながらスカートを脱がされている亜美にも目を向けず、一人考え事をしていた。
「うぅ、お尻痛い……」
「――ジロリ」
「ひっ、ごめんなさいごめんなさい」
先ほど亜美にはお仕置きをしたと言っても、お尻を叩いただけだ。
亜美は自分のお尻を撫でながらスカートを穿き直すと私のことをちらちらと見ている。
しかし、私は知らん顔をしながら考え続けていた。
「(転校生がパンを咥えて登校中に曲がり角で、だっけ……王道パターンって書かれてたのは。でもぶつかろうとしても兄さん相手だと(命の危険性があるため)どんな奇襲でも絶対に避けるから、だから私は失敗し続けてた)」
ぶつぶつ、と呟きながらトイレ内をうろうろと歩く。その間亜美は捨てられた犬ような瞳で私のことをじっと見上げていた。
立ち止まってからもう一度落ち着いて考えると、そこで一つ閃いた。
「そうだ! 最初から私は間違ってたんだ!」
「え、え? ど、どうしたの……?」
そのまま亜美を放置して、トイレから出ると私は一目散に次の授業――国語の教師葉山 哲朗先生を探す。
この時間に居ると思われるのは当たり前のことだけれど職員室だ。
―ガラリッ。 と私は職員室の扉をいきなり開けると、職員が私に視線を向けた。
「(えーと、葉山先生はっと――)」
そのまま職員室の中に入り、いつも冴えないながらも頑張っている葉山先生を見つけると、私はそのまま真っ直ぐ葉山先生の机に向かった。
「か、柿椿……か? ななな、何かあったのか?」
何かあったのは葉山先生の方ではないのか、と言うぐらい尋常なほどに怯えている。
葉山先生に対しては今まで少しも関わりすら持ったこと無いため、ここまで怯えられるのは心外だった。
ふと職員室に張られている鏡を見ると、人でも殺した後にしか見えない私の顔が映っていた。原因はこれか。
このままではとても怪しまれるため、作り笑顔100%の顔になって先生に向かい合う。
「こんにちは、葉山先生」
「あ、あれ!? さっきのいかにもヒットマン的な顔は!? あ、いや、俺が夢を見てたんだろう……きっとな、ははは」
勝手に自己完結してしまった葉山先生を放っておいて、用件だけを伝える。
「えっと、葉山先生……ちょっといいでしょうか?」
「うわヒィィィィッッ」
あ、顔が元に戻ってた。
* * *
「その、授業を始める前に……みんなに言っておく事がある」
国語の授業が始まる前、葉山先生は私のクラスに向かって話をする。
「あーなんだ、俺ももう意味が分からなくてどうしたら良いから困っているんだが……」
明らかに様子がおかしい葉山先生にざわざわと騒ぎ出すクラスメイト達。
―先生、良いから早くしろ。
「て、転入生を紹介する……」
「せんせー。転校生って、四限目の今からですか?」
「ああ、今からだ……ほら、入って来い」
―ガラリ。 と教室の扉が開かれ、入ってきたのは――。
「どうも初めまして、転入生の柿椿桃那と言います」
にっこりと、兄さんに向けて笑顔で挨拶をする私だった。
クラス中はシーンと静まり返っていて、何故かみんなの顔に『そんな事は知っている』と書いてあるような表情をしている。
一人一人ちらりと視線を合わせると、視線の合ったクラスメイトは慌てて視線を外して苦虫を潰したような顔になっていた。
静まり返ったところで私はそのまま、それを強引に力技で押しのけるように自分の自己紹介を続けた。
「風凰学園には今までもずっと通っていて慣れてはいますが、これからもよろしくお願いします」
再びにっこりと、笑顔で挨拶をすると葉山先生も「ほ、ほらみんなよろしくやってくれ」と声をかけるが誰一人声に答える者はいなかった。
しかし、ここまでは私の予測範囲内のことなので問題無い。
それと大事なのはこの後のことだ。
「えっと趣味はーとても大好きな人と過ごすことで、特技はその人が出来る事全てを習得できることです」
――そして、私はついにここで宣言するのだ。その人とは柿椿和雅……つまり兄さんのことで、兄さん愛してます付き合ってください。と……。
その瞬間が近づいてくるせいか、笑いが止まらなくなっていた。
ついにいよいよ……。
「そして、その人とは柿つば――」
「ちょ、ちょっと桃那ー!? 何してるの!!」
自己紹介中だと言うのに亜美が割り込んできた。
あまりにも突然のことでずっと今までフリーズしていたが、今解け出したのだ。
私は自己紹介を中断させられ亜美は授業中だと言うのに席を立ち、私の元へ歩いてくる。
その間に「東山さんって凄いね」や「亜美たん天使」や「ペロペロしたい」などと、クラスメイト達が私とは全然違う態度を取っていた。
「桃那? 何をしたいのかわかんないけど、先生とか巻き込んだらダメだよ!」
亜美が私にそう言いつけると私の手を取って、私の今の席まで誘導される。
このまま私が席に座っては、第二の作戦が失敗してしまう。
第二の作戦とは……。
『あーと、転校生の席は――』
『あっせんせー! 私あそこがいいんですぅ(兄さんの隣の席を指差す)』
『いやそこは東山の席で……』
『先生、私は大丈夫なので柿椿さんが使ってください』
『ありがとー♪ 誰だか知らないけどドMさん』
と言う隙が無い完璧かつ究極の作戦だった。
亜美が今手を引き連れて私を行く席は残念ながら旧・私の席で、新・私の席(兄さんの隣)とは離れている。
このままではいけない――。
「えっと、私の席――」
「桃那の席はここでしょ。ほら座って? 先生ごめんなさい。授業初めてください」
そうして私は自分の席に座らされた。
先生も「あ、ああ……」と、戸惑った声を出しながらも授業を再開してしまった。
つまり作戦は完全に失敗してしまったと言うわけだ。
* * *
――その日の夜、柿椿家の桃那の自室にて。
「うわああああーーー、亜美め!! 亜美めぇぇ!!」
私はボスンボスンと、原型をもはや留めてない枕へパンチを繰り返す。
――あの後も、幾度とも無く亜美によって妨害し続けられた。
昼休みに兄さんと二人っきりで食事に誘うものの、亜美に割り込まれて失敗。
五限目の体育の着替えの時、もうなりふりかまわず下着姿で兄さんに会いに行こうとするところ失敗。もし他人に見られても網膜に信号が届く前に目潰しするから平気と言ったのにも関わらずに失敗。
六限目や放課後は「これ以上、桃那が何をしでかすか分からない」と言われ亜美に粘着されて何も出来ず、兄さんの部屋に忍び込む事も出来ず全て失敗に終わった。
「はぁー……」
ごろんごろん、と転がりながらちらりと横目で私の部屋にあるノートパソコンへ目を向けた。
そうだ、いつも慰め――もとい、研究のために見ている姓名相性占いのページを立ち上げる。
このサイトはちまたで有名なのだが、今までで相性100%は存在していないと言う変わった占いサイトだ。
ちなみに私と兄さんの結果と言うと――。
「ふふふっ私と兄さんの相性は99%!」
その数字に私は笑みがこぼれる。半端な数字ではあるものの、事実上最大の相性だ。
つまり私と兄さんは姓名占いですら相性抜群で相思相愛だと言ってるのに違いない。
私はそのままそのページに浸りながら、今日の傷を癒し続けてながら今日のことを思い出していた。
「(そういえば亜美って今日やたらと邪魔してきたような……)」
本当は偶然が重なっただけなのだが、私から見ると亜美が邪魔してきたようにしか思えなかった。
いつもいつもギリギリのタイミングで邪魔に入ってきたため、どう考えても故意に妨害しているようにしか思えなかったのだ。
「うーん、もしかして。ねぇ……えーと、ひがしやま、あーみと」
ポチポチと、私は勝手に友人の名前を入れていく。
もちろん友人の相手の名前は兄さんの名前だ。
「(あんなに邪魔してくるなんて、亜美はもしかして兄さんのことを!?)」
そのことを考えてみると否定できなかった。兄さんも遠からず亜美のことを思っているようでもある。
不確実的なものの、否定材料の無い私は占いなんかに頼ってしまったのだ。
そしてその結果――。
「相性73%……恋人としてはギリギリ。友人としてはよき友人? ふーん、なんだ」
恋人の相性としてはギリギリであるものの、そこまで高くない数字に対して思わずほっとする。
なら、亜美もなんで妨害してくるのだろうか。
「あはは、もしかして私が狙いだったりして」
冗談のつもりで笑いながら、私の名前と亜美の名前を入力して再び姓名占いしてみた。
―ピピッ!
「あ、あははははー……まっさかねー。えーと、何々……二人の相性は100パ――」
この姓名占いで今まで一度たりとも誰もが遭遇できなかった伝説が、ついにここで生まれた瞬間なのであった。
ドSとドMで相性100%?
桃那視点では、段々方向性が百合に……あれ?
ちなみに二限目の休憩時間中の出来事。
亜美さんが和雅くんを呼び止めてますが、桃那の様子がおかしいから和雅に聞こうと思っただけです。
あれ? 結局桃那の……えっま、まさか本当に!?
ではまたー。




