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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ロゥランの路

鷹も知らない路

作者: 七鏡

幾千、幾万の星の下、人は争う。

ある弓使いの放った矢がすべてを変えた。複数の部族を束ねたカリスマ的指導者の暗殺。

均衡が崩れた時、その国は内乱に陥った。泥沼の戦争に、民は疲弊し、その火種は周辺諸国も巻き込むものとなった。

後に「百年戦争」と呼ばれる大戦の始まりである。


彼は弓矢の手入れをしていた。神木から作り出された弓。それはこの戦争をもたらした弓使いの使った、忌むべきものであった。

「出ろ、鷹よ」

鷹と呼ばれた青年はゆっくりと振り向く。そして、笑って言った。

「で、今度の獲物は?」


戦争末期、国内全土で「死神」が目撃されているという。黒い髪と、深紅に輝く瞳を持つ緑色の衣の男。

その男の前に、軍勢は破れた。生存者もほとんどいなく、その存在は眉唾物といってもいい。

しかし、死神は実在する。生き残ったものの中に、貴族がいた。それもかなりの大物の。彼の呼び掛けにより、死神の討伐が実現することとなった。各陣営も死神の討伐隊を組み、戦争は一時休戦状態となった。

それほどまでに死神による損害は大きかった。

「鷹よ、その目で敵を刻め。神童と言われた貴様の力を見せてみよ」

鷹は薄ら笑っていた。そして、自身の弓にささやきかけた。

「さあて、神の首をとってみるか、相棒」

その瞳は狩人のそれであった。


鷹は戦場にいた。しかし、戦いというには余りにもかけ離れた光景だった。

一方的な虐殺。それをもたらすのは件の「死神」だった。

「はは、ここまでとはね」

それでも笑っていられるのは、鷹の精神がもはや常人のそれではないからか。

鷹は遠く離れた標的を見る。

「ここまでなら、奴も黙視できまい。ここは俺の距離だ」

弓を張る。矢を番える。矢としては最高品質。これで貫けぬなら、そのときは逃げよう。鷹はそう思って呼吸を整える。

「風向きよし、いくとするか」

極限までひかれた弓は、まっすぐ敵に向かっていく。やった。鷹は確信した。だが、その時。

「!!」

死神が鷹を見た。その真紅と黄金の瞳で。

「だが」

遅い。矢はもはや目前、どうすることもできない。数秒後には、その首が戦場に舞う筈であった。


だが、驚異の速度で死神は避けた。

「くっそ!」

続けて二射、三射する。先の一撃に勝るとも劣らぬそれをまたしても、死神は避ける。

「なんてやつ!」

毒を吐き、その場を移動する鷹。そして先ほどいた場所に鮮やかな光の剣が落ちた。死神が放った一撃。

目で見ることはかなわない。

まさか、ここまでとは。鷹は諦めの境地にいた。矢はまだある。しかし、移動しながら射たすべてを死神は払った。勝ち目があるとは思えない。

「だが、悪足掻きはしてやる」

最後の覚悟とともに弓矢を構える鷹。そして息を吸って、大声で叫ぶ。

「おい、死神ロゥラン!俺の名はアルケリウス!弓の名手にして鷹の異名を持つ戦士だ!そして、貴様の首をとる男だ」

精一杯の強がりを、死神は顔色一つ変えずに聞いた。そして、ゆっくりと歩いてくる。

射れ。本能が告げる。だが、鷹は矢を放たない。正しい、だが、正しくない。

死神は迫る。もはや、走ってくることができるほどの距離に。もはや、鷹の距離ではない。

あと数歩の位置に迫る死神。だが、まだ手は離れない。腕が震えだす。

そして、死神が迫ってきた。剣を振られれば、首が飛ぶ位置に。

死を覚悟する。目は限界に見開かれたまま、死神を見た。


だが、死は訪れなかった。振り向くと、死神は歩いて鷹から遠ざかっていく。ただ、歩みを止めることなく、ゆっくりと着実に。

そしてわかった。

己が助かったことに。


しばしの時をそこで過ごした。腕は弛緩している。何気なく、弓を持ち、矢を番える。そして、それを引いた。

夜の幾万の星の中にその屋は飲み込まれた。その矢の辿った軌道みちすらわからない。


その後間もなく、戦争は終結した。死神の姿はその後、見かけられることはなかった。

誰も、彼の行く道を知らない。






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