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違うんだって!

「ここが剣道場」


前川先輩が開けた引き戸の先には、

まだ新しい、艶のある板が敷き詰められた道場が広がっていた。

俺らは一礼して、道場の真ん中に歩いていく。

先輩が言ってた通り、改装したばっかりみたいで、

壁に目立ったシミや傷がない。

上座には小さな神棚があり、その下には

紫の布地に白で書かれた、「不動心」という横断幕が飾られていた。


「浜中の道場より、ずっと立派でしょ」


先輩が得意そうに言う。

浜中っていうのは、俺らが通ってた浜ヶ谷中学校のこと。

いや、周りに海は全然なかったんだけどね。


まぁそれは置いといて。

確かに先輩の言うとおり、道場は浜中に比べるとずっと立派だった。

広さは同じくらいだけど、神棚もちゃんとあるし、

賞状とかトロフィーがたくさん飾られてる。

あと道場の雰囲気が、

ピンッてしてるっていうか、ピリッとしてるいうか、

剣道をするにはすごく合ってる気がする。


「そーっすね。つか、先輩がここで稽古すると浮きません?」


「お前、それどういう意味だよ!」


先輩が殴る真似をしてきたから、俺は竹刀袋でその手をよける。

先輩とのこういうやりとりは、

相変わらず中学の時から変わってないなぁ・・・



なんてしみじみ思っていたら、



「ちわっす」



道場に一人の男子生徒が入ってきた。

多分、先輩だよな。


「こんにちは!」


一応、軽くお辞儀をして挨拶をした。

すると、前川先輩が耳元で


「あれは2年生の長谷部だよ」


と教えてくれた。

すると、道場の隅にある部屋に入ろうとしていた長谷部先輩が

俺らの方に歩み寄ってきて、前川先輩に

「新入部員?」と聞くような表情を向けた。


「そう!俺と同じ中学出身の栗原だよ。

 ほら、前にも話したじゃん」


前川先輩が説明してくれる。

でも先輩、俺、入部希望者じゃないんだけど・・・


「ほら、お前も自分で自己紹介しろ」


前川先輩にぽんと背中を叩かれる。


「あっはい、えと・・・浜ヶ谷中から来ました、栗原勇吾です。

 よろしくお願いします」


「俺は2年の長谷部良介って言います。

 浜ヶ谷っていうと、去年県大会でベスト8だったとこだよな?」


「はい、そうです」


そうかそうかと頷きながら、

長谷部先輩は先程入ろうとしていた部屋へ戻っていった。

えぇ~~・・・

こんな自己紹介までしちゃって、

俺、絶対入部すると思われてるよ!

やばい、早く誤解を解かないと・・・



「栗原!ここが部室だから、防具とかこっちに持ってきて」


長谷部先輩が、例の部屋の中から声をかけてきた。

やっぱ、あれが部室だったのか。


「はい!」


返事をして防具袋と竹刀袋を持つ。

俺も持つよ、と横から前川先輩が声をかけてくれて、

竹刀袋を持ってくれた。


・・・あれ?

よく見たら長谷部先輩って、部活動紹介で

イケメン部員役やってた人じゃん!!

さっき間近で見たけど・・・うん、イケメンだった(笑)

色白で目が切れ長で、雰囲気もクールだったし・・・



あっ、違う違う!

こんなこと考えてる場合じゃない!

早いうちに入部しないってことを言わないと・・・

いや、単刀直入に言わないとしても、

入部しないかもしれないってことを示唆しないと・・・


部室に入ると、隅っこで俺は

うじうじと考えていた。


「栗原ってどこの道場出身?」


「清明館です」


「清明かぁ~、あそこ厳しいよな」


「そうですね、割と・・・」


・・・って、

長谷部先輩からの質問に答えてる場合じゃない!

早く本当のこと言わないと・・・

・・・。

・・・臭っ。

さっきから気になってたけど、この部室は異様な匂いがする。

汗とか防具とかいう、剣道チックな臭いじゃない。

むしろ、そういった臭いには俺は十分慣れてる。

違うんだ。

この部室は、制汗剤の甘ったるい匂いと、食べ散らかしたお菓子の匂い、

そこらじゅうに転がっているペットボトルから放たれる、

腐敗臭とかが混じった匂いがする。

やばい、頭が痛くなってきた

なんで先輩達は、あんなに平気な顔していられるんだ!?


「中学はポジションどこだった?」


「大将です」


だぁかぁら~!

先輩の質問に答えてる場合じゃないんだって!

つか、どうせ質問するなら

「この部室、臭くない?」とかにして欲しい。

あ~・・・窓開けてもいいかな?

・・・じゃなくて!

早く先輩に本当のことを・・・




「ちわ~」



その時、体格のいい男子生徒が1人、部室に入ってきた。


「おぅ小野、新入部員の栗原だよ」


ちょっ!前川先輩!


「おっ!まじで!?

 防具があるってことは、今日から一緒に稽古するんだな?」


・・・ますます本当のことが言えなくなっちゃった。



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