武道館前にて
「はぁ・・・」
武道館の玄関前で、俺は小さくため息をついた。
それから携帯を開く。
『明日、剣道部の見学に来いよ!できれば防具も持ってきて(^0^)』
昨日の夜、桜崎高校剣道部の
前川翔太郎先輩から届いたメールだ。
「俺、何回も断ってるのに・・・」
凝りねーなぁ、とつぶやいて携帯を閉じる。
俺、栗原勇吾は今年桜崎高校に入学した1年生。
入学から4日が経った今日は、
委員会紹介・部活動紹介が体育館で行われた。
前川先輩とは中学校が同じで、一緒に剣道部に入っていた。
それで、俺が桜崎高校に入学したって言ったら
一度部活見学に来てみないかって誘ってきたんだ。
ぶっちゃけメアドなんて教えたくなかったんだよなぁ~
いや、部活見学に誘われるのが嫌なんじゃなくて、
前川先輩にメアドを教えること自体が嫌なんだ。
まぁめんどくさいんだ、あの先輩は色々と・・・(笑)
そうそう、剣道部の部活動紹介は結構、ウケ狙いのやつだった。
自称イケメンだっていう部員が出てきて
1人の女子部員を取り合い、他の男子部員と剣道で勝負するっていう内容。
まぁ、案の定イケメンさんが最後に勝って
女子部員にプロポーズするんだけど、
プロポーズの後に女子部員の父親が出てきて
「わしに剣道で勝ったら娘をやる!」っていう、なんか昭和臭い話になって・・・
んで、まぁ無事イケメンが勝負に勝ち、
めでたしめでたし・・・っていうオチ。
ありがちな設定だったけど、おもしろかったな。
前川先輩がイケメン部員にコテンパンにやられるところなんか、ほんとウケたし。
ざまぁ見ろ前川先輩!(笑)
でもさすがに最後の
「俺は君を愛してる。そして、それ以上に剣道を愛している。
さぁ、みんなも竹刀を握ってみないか?」
っていうイケメン部員のセリフにはひいたけど・・・(笑)
なんてことを考えてたら
「お~!来たか!」
・・・聞き覚えのある声が背後で聞こえた。
振り向くと、ぼさぼさの頭に左右非対称的な顔(これは言い過ぎだけど)
超目障りな金色のエナメルバックを背負った男子生徒・・・
そう、前川先輩が立っていた。
「防具持ってきた?」
「はい」
「んじゃ、とりあえず中に入ろうか~」
先輩が武道館の扉を開ける。
中に入るとすぐに階段があり、先輩に続いてその階段を上っていく。
―それにしても、先輩のエナメルはあいかわらず奇抜な色だな~
中学ん時は蛍光黄緑のエナメルだったよなぁ・・・
しかも、エナメルになんかキモい象のぬいぐるみ付けてるし!
ん?これって某おむつ会社のキャラクターに似てるなぁ~
最初に言っておく。
この先輩はツッコミどころ満載だ。
「1階は柔道場で、剣道場は2階なんだ。
4年前に改装したばっかだから、まだ新しいよ」
「へぇ~そうなんすか」
適当に相づちをうっておく。
どんな道場なのかも気になるけど、
やっぱり部員がどんな人なのかが気になるな。
竹刀袋を持つ手に力が入った。




