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怒った聖女は『王子、ハゲろ』と書いた~反省しています!婚約破棄された翌日の私と、国中がふさふさになった件~

作者: しぃ太郎
掲載日:2026/06/14

後書きに王子のSSを置いています。

気になる方はぜひどうぞ。

【追記 6/15】 ご好評につき、アラン視点SSと『アランの秘密の辞書』を追加しました。


リアクション、ブックマーク、評価が本当に励みになっています。 一つひとつの反応に力をいただいています。



「聖女ユウ!そなたとの婚約は破棄させてもらう!」

「……え」


 その男性は、神殿の大階段の上からキラキラしい金髪を靡かせて声を上げた。


 ――くそ王子め。


 何度言っても、名前すら覚えてくれない。

 私は『ユイ』だ!


 私にだって言い分はある。

 大体、あんたなんか願い下げなのよね。


 ある日突然、この世界の都合で召喚された私の身になれって話だ。

 いきなり足元が輝き、気づいた時には異世界だった。

 大勢のおじさん達にまじまじと観察され、『聖女様!』と呼ばれた日を思い出す。


 しかも、いきなり王子の婚約者にされたのだ。

 シンデレラストーリー?

 まさか。

 私が、この顔だけ男にどれだけの表情筋を使い、笑顔を作ってきたことか。


 今だってそうだ。

 我慢しようとしても、勝手に顔に出てしまう。

 作り笑いは苦手なのよ。


 ひくひくと、口元が引き攣る。

 反論したいのをぐっと堪え、拳を握った。


 しかし、王子はさらに続けるつもりらしい。


「おい、聞いているのか!?返事くらいしたらどうなのだ」


 まずは、階段から降りてこい。

 人と話すときは、目線を合わせるのがマナーだ。


 突然、騎士たちが神殿に押しかけ、取り囲まれたのだ。

 そして王子だけが、階段の上から登場した。

 演出か。


 私の周りの神官さんたちが、動揺しすぎて視線を泳がせている。

 なかには、倒れそうなおじいちゃんもいるじゃないか。

 真っ昼間の神殿で、何をやらかしてくれるんだ、まったく。

 五分前までの、平和な午後を返してほしい。

 神殿を訪れた一般人にも注目されてしまっている。


「聞けば、本来の世界ではただの平民だったらしいじゃないか。そんな女を王族に迎えるなんて言語道断だ!しかも年齢不詳だ!何故いつもはぐらかすんだ!」


(22歳で『聖女様』って呼ばれるのが恥ずかしいからよ!しかもあんたより年上だしね!)


 この野郎。私の世界の99%の人間を馬鹿にしやがった。

 平民で悪いか、ちくしょう!


「わかりました。婚約破棄を受け入れます。……そこの貴方たち!誰でもいいわ。ペンを持ってる?」


 近くに立っている神官さんたちに声をかける。


「え……はい。持っておりますが……」


 その中の一人が、少し戸惑った様子で答えてくれた。

 それを聞いて、声の主が誰かわかった。


(あ、アランさんか……)


 怒りでちょっと我を忘れてしまっていた。

 くそぅ!好きでもない男に、なぜ振られなきゃいけないんだ!


 アランさんの方がよっぽどいい!

 彼は、私がこっちの生活に早く慣れるように、よく声をかけてくれるんだ。

 比べるまでもないだろーー!


「紙は?」

「両方あります……。しかし、ユイ様、そんな場合では……」


 ――うっ!ごめんアランさん。


 彼は、神殿でも偉い立場のイケメンなのに。

 困ったように目尻を下げさせてしまった。

 心配してくれてありがとう。


「おい聖女!貴様、承諾したならさっさと退場するのが筋だろう!」


 王子が、私を指さして喚き散らしている。

 ふん。知るもんか。

 庶民を怒らせたら王様だって後悔するんだから。

 そして、私は普段から神殿にいるんだから、退場するなら王子の方だ。


 理不尽すぎる。


「いえ。最後に殿下に祝福を……と思いまして。これも聖女の務めですし」

「ふん。殊勝な心がけだな」


 受け取った紙に、ペン先を落とす。


 ――『王子、ハゲろ』。


 その文字を、丁寧にゆっくりと書いた。

 うん、上出来だ。

 我ながら綺麗に書けた。


 なぜ私がペンを要求したのか、わかるでしょうか。

 それは、なぜか私の文字には、神聖力が宿るからだ。

 それを利用して、“日本語”で好き勝手しているのは秘密だ。


 出来上がった渾身作を、そのまま王子の取り巻きに押し付ける。

 その人は、目を見開いてその紙を見た。

 神聖力を感じ取ったからだろう。


「捨ててくださっても構いません。……では失礼します」


 私の能力は浄化だから、何を書いても発動する効果は同じだ。

 なら、『王子、ハゲろ』を持っていると想像したほうが楽しいわ。

 ふふふ。そう考えるとシュールでいいわね!


「では、殿下のご多幸をお祈りします」


 ◇◇◇



 ――1年前――



 それは、会社から家に帰る途中の出来事だった。


 私は、謎の力で地面に引っ張られ、尻もちをついた。

 お尻を強くぶつけ、痛みに顔を顰める。


「あいたた……」


 足元にはよくある魔法陣……みたいなものが光り輝いている。


「え??」


 そして――。


 一瞬で、別の場所へ移動していた。

 見間違いかと思って目を擦ったが無駄だった。


「……はぁーー!?」


 驚きのあまり、声が裏返ったのは仕方がないと思う。


 私が周囲を見回すと、かなり大きな空間だと気づいた。

 天井が高い!

 これ、ステンドグラス!?え、教会!?


「聖女様!聖女様のご降臨だ!」


 私を囲み、大げさに手を合わせる人たち。

 いや、なにこの状況?


 何の理解もできないまま、私はその日から「聖女様」になってしまった。


 昔から私は、書道を習っていて字は上手いほうだった。


 ――しかし、まさか。


「さすが聖女様が書いた、聖なるお言葉!」


 またしても皆が感激する。

 日本語が、呪文のように見えるらしい。


 ちなみに、今書いたのは「豚汁が飲みたい」だった。

 聖女はこの世界の穢れを浄化し、ちょっとした加護を与えられるらしい。


(しかし……豚汁でもやはり効果はあるみたいだなぁ)


 こうして私は王子と婚約させられ、黙々と適当な日本語を書く毎日を過ごすことになった。


 さっき婚約破棄されたけどね。


 ◇◇◇


「聖女様、聞きましたよ!大丈夫ですか!?あの馬鹿なボンボン王子がまたやらかしたんですって!?なんて不敬なんでしょう……!」 


 翌日、見習い神官服を着た女性が部屋に走り込んできた。

 この世界での初めての友人、ベティだ。

 アランさん同様、彼女もまた私によくしてくれる。


 いや本当、ベティの言うとおりなんだけれど……。

 ボンボンじゃない王子は存在するのかな?


「それよりも……さっそく天罰が当たったみたいですよ。これ見てください!今朝の新聞です」


 ベティが差し出してくるが、まだ私の読解力は小学生並みだ。

 小難しい新聞をスラスラとは読めない。


「うーん。まだ複雑な言い回しとか、読めない単語も多くてさ。ベティ、ちょっと読み聞かせてくれる?」

「あ……!私としたことが!え~とですね……」



 ――『以下、某使用人の証言です。』――


『で、殿下……。あの、あれ?え!?』

『なんだ、先程からジロジロ見て。無礼だぞ』

『……いえ。あ、急に腹痛が……!失礼します、では!』

『は?なんだあれは』


 侍従が扉を閉めた瞬間。

 声が響き渡ったという。


『うわあああぁ!?なんだこれはーーーーー!!!』


 ――以下略。



「って書いてありますね」


 ベティが新聞から顔を上げた。

 その瞬間、私はスッと目を逸らした。

 やばいやばい……いや、やばい!


 さすがに20歳前の王子様の髪が……というのは忍びない。

 というか、え、私?

 私のせい?『王子、ハゲろ』って書いたから!?


「ベティ!紙とペンをお願い!」


 きっと今の私の顔色は真っ青なはずだ。

 私の様子に気づいたベティは、すぐにペンと紙を渡してくれた……が。

 ぼそり、と彼女の呟きが聞こえた。


「天罰ですよぉ。今度会ったときに笑ってやればいいと思いますけど」

「………。」


 それはさすがに気まずいわ。

 ベティの言葉は聞こえなかったふりをして、ペンを走らせる。


 ――『毛根が復活しますように』。


 書き上がった瞬間に、神聖力が宿ったのがわかる。

 いや、なんで?

 今までどんなことを書いても、現実に影響はなかったのに!


 何かしらの条件があるのかもしれない……。

 しかし、やれる事はやったはずだ。

 あとは続報を待つしかない。


「でも、これで神官長もアラン様も大喜びですね!」

「へ!?なんで?」


 アランさんの名前が出て、さっきとは違う意味で心臓が跳ねた。

 いやいや、だって。

 歳上で優しくて、気遣いもできて、頼りになるんだよ!

 そりゃ、私なんかがーー!とは思うけれど。

 惚れ……惚れても仕方ないじゃない!


「神官長はアレですけど。……アラン様は――」

「ベティ」


 突然、低い男性の声がベティの言葉を遮る。


「アランさん!」


 白い神官服に、サラサラの銀髪。

 一見すると近寄りがたい雰囲気だが、その穏やかそうな目元が印象を和らげている。

 毎回見惚れてしまうのは内緒だ。


「ユイ様、おはようございます。……ご加減はいかがですか?昨日は相当なショックを受けたのでは……」


 アランさんは心配そうに眉尻を下げて、私の手を取った。

 あれ……。

 いつもより距離が近い。

 珍しい事態に驚いて、顔に熱が溜まっていく。


(なんで!?近い近い!美形が近いよ……!)


「……あ、う。ううん。全然!むしろ、お互いにこれで良かったと思う。王子とは話も性格も合わなかったしね」

「……そうですか。良かった。いえ、決して昨日のことではなく――」


 なぜか、先ほどよりもしっかりと手を握られる。

 駄目だ。

 私には刺激が強すぎる……!

 ベティ、助けて!

 アランさんのひんやりとした指先とか、意外と男性らしい節だった指とか。

 すべてダイレクトに伝わるんですが!


「ああああの、アランさん!?今日の業務!そう、今日の業務を始めましょう!すぐに!」

「……もう少しゆっくりでも大丈夫ですよ?」


 おい私、噛みまくりじゃん。

 ちょっと落ち着け。


 一瞬だけ、アランさんは目を丸くした。

 そして、その直後に首を傾げて微笑んだ。


「やはりユイ様は勤勉で素敵な方です。だからこそ昨日のような事は許せない。……あのボンクラが」


 私への過剰な褒め言葉のあとに、何か聞こえた気がする。

 でも、低く呟かれた言葉は聞き取れなかった。


「いえ!褒められるようなことじゃないんです!文字を書いて落ち着きたいというか……!心の叫びを神様に受け止めてもらいたいというか……!」


 意味がわからない言い訳しか出てこない。

 私の脳みそめ!さらにポンコツになっているじゃないか。

 ベティの深い溜め息が聞こえてくる。


「……聖女様、落ち着いてください。……とりあえずお支度するのでアラン様は出ていってください、ほらほら!」


 ベティがパンパンと手を叩いて、場を仕切り直し、アランさんを追い出しにかかった。

 アランさんは名残惜しそうに、何度もこちらへ視線を寄越す。

 勘違いしてしまいそう。


 この二人は、仲がいい。

 なんでも幼馴染みで、ずっと神殿で一緒に過ごしてきたらしい。

 ……やっぱりお似合いだわ。


 ベティは可愛いし、優しい。

 私ならベティを選ぶ。


 だから、アランさんが私にだけ優しいなんて思っちゃ駄目なのに。

 さっきみたいなことをされると、つい期待してしまう。


 少しだけ冷静さを取り戻した私は、複雑な聖女服をベティに着せてもらった。

 うん。やっぱりベティはいい子だ。


 ちくりと胸を刺す痛みを無視して、私は執務室の机でペンを取った。








 聖女の仕事とは、一日二十枚〜三十枚の“浄化と守りの言葉”を書くこと。

 実に簡単だ。

 でも、やはり神聖力を使うと、体力が削られる。

 それからは隣でアランさんが補助につくようになったのだ。


(王子なんて、気軽に何枚も書かせようとしてきてたしね)


 それを阻止してくれたのが、アランさんだ。

 アランさんがいなかったら、きっと私はもっと早く使い潰されていたかもしれない。

 ちょっと怖い話だけれど。

 一番に『私』を心配して、守ってくれた人。


 そして……この世界の人は「ユイ」と発音するのが難しいみたいだ。

 アランさんだけが呼んでくれる。


 それから、私にとって『アランさんは特別』になってしまった。


 今日の業務もここまで――というところで、アランさんが声をかけてきた。


「ユイ様……あの……ご相談があるのですが」

「あれ……アランさん、どうしました?」


 珍しい。

 アランさんはいつも、自分の机で黙々と仕事をしている。

 仕事中にあまり私語をしないのもそうだけれど。


 様子がおかしい。

 目元と耳が微かに赤い。

 驚くことに、指を何度も組み替えて、もじもじしているように見える。


「あの……。もしよろしければ、私にもユイ様の世界の言葉を教えてもらえないでしょうか……」


 かなり控えめな声だった。

 今日は、本当にどうしたんだろう。


「構いませんけど、神聖力は私だけが使えるみたいですよ?」

「いいんです。お願いします」


 アランさんは必死に頼んできた。

 お世話になっている人には、恩返しをしたくなるものだ。

 私は少し嬉しくなって答えた。


「わかりました。なにか、書きたい言葉はあります?」

「はい。あの……愛、あいしてる、と」


 それを聞いた時に胸に痛みが走った。

 まるで、針で刺されたみたいだ。

 どろりとした嫌な感情が溢れ出そうになって、私はそっと目を逸らした。

 笑顔でペンを取る。


「じゃあ、書きますね……」


 そう言って私は、アランさんの要望通りにお手本として書いてあげた。

 彼は嬉しそうにそれを手に取って微笑んだ。


「ありがとうございます。きちんと練習しますね」


 いや。感謝はしなくてもいい。


 ただの私の愚痴を書いただけだから。

 彼に渡したのは……。


 ――『イケメンのばかやろう!期待させるな!』。


 そんな嫉妬まみれの言葉なんだもの。

 彼がそれに見入っている間に、別の紙にさっと書きつける。

 今度は違う文字だった。


(……ごめんなさい、アランさん。でも浄化は込めておいたから)


 私は、たった今『愛しています』と書いた紙を、そっとポケットにしまった。自分用だ。

 なぜか持っておきたくなったのだ。

 くそぅ。

 わかりきっていた失恋でも胸が痛いな!




「ユイ様、あの……。これを渡してもいいでしょうか」


 翌日、アランさんから、1枚の紙を渡された。

 一生懸命練習したのだろうが、線がよれて読みにくかった。


 それは――。

『イケメンのばかやろう!期待させるな!』と書かれていた。


「アランさん、これ……」


 私が驚いてその紙を握りしめると、彼は目元を赤くして答えた。


「ユイ様に渡したくて、練習しました……。しかし、あまりにも不出来で……。ですが、これが私の気持ちです」


 後に知ったことだけれど、彼は一晩中練習したらしい。

 この世界にはない日本語で、私に伝えたかった――そう語ってくれた。


 思わず、目頭が熱くなる。

 こんな純粋な想いに対して、私はなんて意地悪をしてしまったんだろう。

 だから……。

 私も正直になることにした。


「違うのよ!それは……アランさんが他の人に渡すのかと思って嫉妬したのよ。意味が違うの」

「……嫉妬してくれたんですか?」


 私の言い訳に対して、アランさんはなぜか嬉しそうに顔を上げた。

 釣り合わないとか、もうそんなのどうでもいいじゃないか。

 こんな表情で、こんなにも甘い熱を孕んだ瞳で見てくれる人を疑うほうが無理だ。


「うん。本当はこうなの」


 私はことさら丁寧に、ゆっくりと書いていく。


 ――『愛しています』。


 それを見たアランさんは、感心したように息をついた。


「難しいですね……。ですが、これが本当なんですね……」


 確かに『愛』は難しい。


「うん。だから、一緒に書いてみようか。ほら、ペンを持ってここに座って」

「そ、それは……!ユイ様、近いです!」


 彼を無理やり座らせて、ペンを取らせる。


「私の世界では、こうやって教わるのよ」

「う……。ユイ様。それで、これを書いたら、受け取ってもらえるのでしょうか」


 アランさんが上目遣いで聞いてくる。

 いや、私が座らせたから仕方がないけれど、威力が凄い。

 もう。完敗だ。


「もちろん。アランさんが書いてくれたなら一生大切にします」


 その日の彼の笑顔と文字は、私だけの宝物になった。



 ――後日談――


「なんだか、このところ神官長の髪が50%増量してない?」

「あ〜、それはですね……」


 私とベティの目の前では、ファッサーと髪をかき上げる高齢の神官長の姿があった。

 心なしか、若返って見える。


「国中でも、同じような現象が起こっているらしいです。今では聖女様に感謝をして、熱心に祈りを捧げる中高年の男性が多いとか……」


 ベティが興奮した様子で教えてくれた。

 いやマジか。

 謎の波及効果が国中に及んでいたらしい。


 ――でも、良かった。


 人が喜んでくれるなら、それが一番いい。


「そっか!まぁ、結果オーライで良かったわ!」


 しかし、王子の髪は元に戻らず……。

 それによって、女性からの人気も暴落したらしい。

 イケメンの髪の毛は大切だ。


 好感度のせいかな?私には一生わからない問題だ。


(アランさんがもしそうなっても、私はずっと好きだしね!)


 そんなことを考えて彼の輝く銀髪を見つめていると、目尻を下げて微笑み返してくれた。


 うん。今日も私は、紙とペンを持って頑張ります。



 

神→紙→髪


 ☆王子SSです。


「父上……。最近、髪の艶が……量が増えてませんか……?」


 ゲフンゲフン!

 隣で宰相が咳き込んだ。

 わずかに肩が震えている気がする。

 王は、ふさふさの金髪を耳にかけながらそっと視線を逸らした。


「……あ〜。お前は……輝き方が……いい気がするぞ……」


 ゲフンゲフン!

 宰相……お前も若返っていないか……?


 ――後に聞いた話。


 この面談の後、宰相の咳払いがしばらく止まらなかったという。

 ※王様、宰相、神官長の髪は増えました。

 ※王子は増えませんでした。

 おわり。


 ☆アラン視点SS  〜愛に試練はつきものだ〜


(ユイ様は鈍……じゃなく、純粋な方だ。あまり追い詰めると逃げられてしまう……)


 ユイ様が書いたお手本をそっと指でなぞった。

 少しあからさまだったかもしれない。

 あれでは、告白も同然だ。

 だからといって、やはり彼女の生まれた場所の文字で伝えたい。


「しかし難しいな……。前半は簡単だが……後半の『期待』、ここの部分が複雑だ。棒が多すぎる……」


 だが、愛に試練はつきものだ。

 私は、もう一度ペンを手に取って『イケメン』の簡単な部分から書き始めた。

 これを一晩中繰り返し、黙々と練習したのだった。



 〜アランの秘密の辞書〜


「ユイ様?“いけめん”は私に向けた文字では?それをなぜあの男に?」

「え!?いや……ほら、芸術は人類で共有するべきだし……」

「意味がわかりません!ユイ様はあの男が気に入ったってことですか?」 

「違うーー!違うけど……ほら、アイドル的な……」

「ユイ様。その、『あいどる』も教えてください」

「え……!また分厚い日記を出してくるのやめてーー!」


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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聖女をバカにしたからカミのご加護が消えましたか~(笑)
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