君は私のヒーロー
どうしても心残りがあって衣装部屋に向かっていた足を再びホールに向けると、楽器の片付けを進めようとしていた演奏者達に無理を言って、しばらく残ってもらうことにした。
その後、コンサバトリーで食器をまとめていたフレッドを連れて二人で踊った。どうしても舞踏会で助けてもらった事も含めて感謝を伝えたかったのだ。
そもそも今日こうして踊る事が出来たのはフレッドがダンスを丁寧に教えてくれたから、令嬢としての立ち振る舞いを一から教えてくれたからだ。だからこそ、せっかくなら二人でもう一度、練習とは違った形で踊りたかったのだ。
フレッドとのダンスは演奏の終わりと共に終わりを迎えた。本当にあっという間だった。
フレッドと見つめ合っていると、余韻に浸る前にどこからか拍手が聞こえる。正面に立つフレッドは驚いたように目を見張る。二人で拍手が聞こえてきた方に視線を向けると階段上にお母様が立っていた。
「申し訳ありません。私のような者がアンリ様と踊ってしまい…」
慌てたようにフレッドはアンリから離れると、頭を下げて謝る。すぐに弁解しようとアンリも口を開こうとしたが、その前にお母様が「良いのよ」と言った。
「良いのよ。私は貴方の事をただの使用人と思ったことは一度も無いわ。きっとお父様もアンリだって、そう思っているわ」
お母様のその言葉にアンリは全力で頷く。アンリはお母様の言う通り、フレッドの事をただの執事だと思ったことは一度も無い。アンリを身近で必死に支えようとしてくれる大切な友達。そう言った方がシックリくる。
全力で頷くアンリが必死すぎて可笑しかったのかお母様はアンリに視線を向け微笑んだ後、再びフレッドに向き直る。
「貴方は家族同然なのだから、もっと自由にして良いのよ」




