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探していた答え

 三日間、無断で留守にしていた為、怒られる事を覚悟で旦那様と奥様の部屋に向かった。


 「どうぞ」という返事の後、扉を開けると予想もしていなかっただろうフレッドの登場にお二人して一瞬固まる。それでも理解が追いついてくると、奥様は座っていた椅子から慌てて立ち上がると駆け寄ってくる。

 正直殴られても良い、そんな覚悟をしていると奥様は予想外のことにフレッドの事を抱き寄せる。


「良かった。戻ってきてくれて、本当に良かった…」


 そう呟く奥様は涙声だ。奥様の予想外の行動に戸惑いながらも、そんな二人に謝罪すると「気にしなくていい」「ただ無事で居てくれただけで良い」とお咎めも無しに許してくれた。


「この三日間、一体どこに行っていたんだい?」


 そう聞かれることは、想像が付いていた。だから嘘も偽りない事実を正直に話す。


「火事に遭った屋敷跡を見に行って来ました。そして母上と父上の墓参りにも…」

「そうか…」


 十年前のまだ幼かった頃のぼんやりとした記憶を頼りに屋敷のあった場所に向かうと、そこは既に更地になっていて、火事に遭った痕跡の一つすら残されていなかった。だが、そんな地で周囲の風景を見てみても、父上や母上と過ごしていた日々を思い出すことは何も無かった。


 しばらくした後、町の小さな花屋で花束を作って貰うと墓地に向かった。

 父上や母上に実際に会ってみれば、何か答えが貰えるかもしれない。そんな微かな期待を抱いていた。だがやはりいくら墓石の前で想いを馳せても、容姿すらほとんど思い出せない二人が悩みに答えてくれる事はなかった。


 墓地を出れば他に行く場所なんて思いつかない。結局何の収穫も無いまま、お屋敷まで帰ってきた。

 

 なんと言おう、なんて謝ろうと思案し重たい玄関の扉を開けると、目の前にアンリが座り込んでいた。目の下には黒いクマ、そしてまともに食事を取っていなかったのか体が幾分か細くなった彼女はフレッドを見ると途端に涙を浮かべた。


 そしてアンリの「なによりフレッドが爵位を継いで学園に通ってこそ、出来る事だってあるでしょう?」の一言でそれまで思考を埋め尽くしていた不安や悩みを全て打ち消す程の衝撃が走った。三日間、こんなにも悩んで答えが出なかったのに、まさかこんな近くに答えがあったなんて。


 一通りの経緯やこれからの事を話し終え部屋を後にしようとすると「フレッド」と旦那様に呼ばれる。そんな声に振り返ると「おかえり」と微笑んでくれる。その言葉にどこかくすぐったい気持ちになりながらも「ただ今帰りました」と返し部屋を出ていく。


 その足のままフレッドは急いでアンリの部屋に向かうと、アンリはどこか緊張した面持ちで座っていた。それでも浮かべていた表情から何かを察したのか、すぐに満面の笑みを向けてくれる。


「アンリ様、私は爵位を継ぐことにしました」

「そっか、良かった」

「昔から旦那様には爵位を放棄すると宣言していたので、手続きが大変になってしまうかと思ったのですが、どうやら旦那様は爵位を放棄せずにいてくれた様で、難しい手続きも無く穏便に済みそうです」

「お父様達はきっとフレッドの事をずっと信じていたんだよ。でも、今はそれよりも…」


 そう言うとアンリはなにやら嬉しそうに近づいてくる。


「フレッドは爵位を継ぐんでしょう?つまり私の執事じゃ無くなる。そうだよね?」

「はい、そういう事になりますね」

「って事は私とフレッドの間に主従関係なんて無くなる。だからさ、フレッドが私に無理に敬語を使う必要も無くなるって事だよね」

「私は別に無理に敬語を使っているわけではありませんよ」

「でもこれで、フレッドが私と敬語を使わないで喋っていても誰にも文句は言われないよ」

「そうですね。…ですが、私もこうして話すことに慣れていますし」

「あ、そっか。でも来年からは一緒に学園に通うんだし、いつか敬語を使わないで自然とお喋り出来るようになったら良いよね」

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