第七話 風と共に・・・
外へ出るとコレアの匂いが漂っていた。
いかにも除草薬だと見え見えの匂いだった。
最後くらい、このカルムや村の匂いを嗅いで出て行きたかったな・・・・
心残りはそれだけだった。
周りの村人はソールを見ていた。
「これから俺が風を起こします、多分今晩は外に出られなくなるで注意してください、もし万が一吹き飛ばされてしまったら命はないかもしれません」
俺は笛を咥えた。
吹く前に母さんにもう一つ言いたいことがあった。
「母さん」
「・・・・何?」
「リューンには愛情をたっぷり注いでくれよ、そうしないと俺みたいになっちゃうから」
「・・・・・」
母さんはなにも言わなかった。
まぁいいか・・・・もうここともおさらばだしな・・・・
俺は笛に息を吹き込んだ。
辺りの木が揺れてき始めた。
「さぁ、早く家の中に入ってください」
村人たちは口々に“ありがとう”“今度お礼をしに行きます”などと言って行った。
こんなに感謝されたのは初めてだ。
感謝されるってのも悪くはないな・・・
俺はふいに頬が緩んだ。
こんなふうになったことは今までなかった。
いつも恨みと苦しみと悲しみを抱えた少年にはしたことのないことだった。
俺は家に向かった。
二階に上がって、クリーム色のショルダーバックに荷物を詰めた。
父さんからもらった短剣は腰にかけておいた。
一階に降りるとリューンがいた。
涙の跡はあったけど、もう泣いていなかった。
「兄ちゃん・・・・」
「・・・・」
俺はリューンと顔を見た。
「僕・・・兄ちゃんみたいになりたい」
「やめとけ」
「どうして?僕は兄ちゃんと血がつながっていなくても兄ちゃんは兄ちゃんだもん」
「・・・・」
リューンはこっちへ寄ってきた。
「これ持っていって」
小さい手から大きい手へ渡されたのは小さな、小さな透明な石・・・・クリスタルだとすぐにわかった、それにチェーンがついていた。
「これは・・・・?」
リューンはにこっとほほ笑んだ。
「兄ちゃんのために作ったんだ」
俺は首にかけた。
少しチェーンが短くてきつかったけど俺は心があたたかった。
「んじゃ、もらっとく」
こんな言い方しかできなかったけど、俺は嬉しかった。
「それじゃ、もう行くから」
「・・・・うん」
リューンはまた泣きそうになった。
俺はしゃがんでリューンの目線に合わせた。
「泣きたくなったら歯をくいしばれ、辛くなったらいつだって泣いていいんだ」
「・・・・うんッ」
リューンはあふれ出る涙をこらえて、手をちぎれんばかりにふった。
母さんは見当たらなかったからほっといた。
どうせ会ったって、何も言われないだろうと思ったから。
風が吹く・・・・
これからどこへ行けばいいのかわからなかったけどただ、風に身を任せた。
さようなら、俺の故郷・・・・・
さようなら、父さん・・・・・
さようなら、さようなら、さようなら・・・・・
俺は風と共に歩いて行った。