第二話 悲しみ
粗末なテーブルの上にのせられた白い皿には、シチューがたっぷりと盛りつけられていた。
決して料理が上手とはお世辞でもいえない母さんの“カブのシチュー”はリューンも嫌いだが、俺も好きとは言えなかった。
母さんの作る料理は焦げたりはしてなくて、見た目は全然大丈夫なのに味はけっこうすごい・・・
なにがすごいかって・・・スープを作れば甘くなるし、たまに苦かったりする。
アルマとかホットケーキでも作らせた日には、次の日外に出られないからだ。(腹痛とかで・・・)
母さんの作る料理ははっきり言って・・・・
嫌いだ。
俺はスプーンでシチューをすくって口にいれた。
あまり噛まないように・・・・だけど噛まないと喉につっかえるから、味を感じないように噛む!
これがコツだ。
シチューと戦ってる間、母さんがたまに質問をはさんだ。
「今日、魚は釣れた?」
「普通釣れたらすぐ出さないと魚ダメになる」
「・・・・それは、釣れなかったって事?」
「そうだけど」
「そう・・・・」
俺と母さんの会話はいつもこんなもん。
リューンとは・・・・
「おかーさん!おかーさん!兄ちゃんね、お腹すいたって言っても話きーてくれないんだよ」
「そうなの?ソール、ちゃんとリューンの話も聞いてちょうだいね」
「・・・・」
まだ言ってなかったけど俺の名前は“ソール”。
「ソール、返事は?」
「俺はリューンの話はちゃんと聞いてた、相槌もしてた、だから何も言う事はない」
「ソール!そんな言い方ないでしょう!リューンはそう言ってるのよ」
「じゃあ母さんは俺が嘘ついてるって言うのか?」
「それは・・・・」
「誤魔化さないでちゃんと言えよ」
「そんな口の聞き方はやめなさい!!
・・・・まったく、お父さんに悪いところばかり似て困るわ」
ブチッ!
なにかが切れる音がした。
「なんだって?もう一度言ってみろよ!!」
母さんは今までにない剣幕にたじろいだ。
きっと俺が今までこんな言い方をしたことがなかったからだったのだろう。
だが、これで負ける母さんではなかった。
「あなたのお父さんに悪いところだけ似た、と言ったのよ」
俺はもう回りのことなんて見えていなかった。
「ふざけんなッ!父さんのことを悪く言うなッッ!!」
俺はシチューをひっくり返した。
皿はガシャンと音を立てて割れて、シチューは床にぶちまけた。
俺の向かい合わせに座っていたリューンは脅えきった表情で怒りをあらわにしている兄をただ呆然と見ていた。
俺は泣きたくなった。
いつものことだった。
俺の目の前の母さんが嫌でも無くて、不味いシチューが嫌でも無くて、弟が嫌なんでも無くて・・・・
いつも決まった時になぜか泣きたい衝動が押し寄せてくるのが、発作みたいにくる事がいつもあった。
「・・・・・っくそ!」
ドアを乱暴に開けて外へ飛び出した。
トルナ湖に向けて走っていた
ただ闇雲に走りぬけた。
回りの景色も夕暮れと違っていた。
空には一番星が輝いていた。
走りながら、泣いていた。
父さん、父さん!どうして死んじまったんだよ・・・・どうしてッ!!
俺を残して・・・・どうしてッ!!
「どうして死んじまったんだよーーーーーーーーーーー!!!!」
俺はトルナ湖のほとりで一人泣いていた。
俺の胸に輝くペンダントの緑の石だけは、輝きを絶やさずに光っていた。