第一話 夕暮れ
トルナ湖に夕日が沈んでいく・・・
ここから、あの夕陽をリューンと二人で見るのは初めてだったかもしれない。
本当は夕陽を見ていちいち感動したり、涙を流したりするようなタイプじゃないけど、今日はいつもと違う夕陽だった。
今自分は腹が減っている、そう実感できる時だった。
これは父さんと修行していた時から何一つ変わっていない。
変わってしまったのは、母さんの態度と、父さんが死んだ事と、そして・・・弟ができたことだった。
そういえば今日は弟、リューンと釣りに来ていたんだった。
するとリューンが半分べそかいた顔で俺の服の裾を引っ張ってきた。
「兄ちゃん・・・お腹すいたよぉ」
「さっきも同じこと言ってたよな?」
ついつい冷たい口調になってしまう。
「だってぇ・・・兄ちゃんだって同じこと言ってるよぉ・・・」
我慢できなくなったのか、とうとう泣き出して近くの水バケツを転がすと、水をバシャバシャし始めた。
こうなると止まらないのを知っているから、手早く釣り竿を片づけるとリューンの近くに歩いていった。
「わかったからもうやめろ、それ以上服を汚すなよ」
と言ってリューンに背を向けてしゃがんだ。
「ほら、乗れよ」
リューンは渋々俺の背中に上ってきた。
俺は夕陽を背にして帰路をすたすたと歩いていった。
俺の歳は16歳。
リューンは6才だった。
歳が離れているうえに顔も似ていないので、俺はリューンをあまり好きにはなれなかった。
他にも嫌いな理由もあるけど、それを言うと母さんが嫌がるからあまり言っていない。
それに母さんはなにかとリューンを俺に押し付けてくるので、母さんもあまり好きじゃなかった。
だんだんと家が見えてきた。
するとリューンが
「・・・降りる」
と言った。
リューンを背中からおろすと、汗ばんだ背中がひんやりした。
家にさらに近付くとリューンが顔をしかめた。
「どうしたんだよ?」
「今日のご飯は“カブのシチュー”だ・・・」
「あぁ・・・」
リューンがなぜ顔をしかめたのか・・・
それはリューンの嫌いな食べ物が、“カブのシチュー”だからであった。
ちなみにリューンの大好物は“アルマ”(クッキーのようなもの)だ。
「そんなこと、しかたないだろ」
「・・・・」
リューンはすねてしまったようだった。
「母さんの前でそんな顔するなよ、心配するから」
ドアの取っ手に手をかけた。
「・・・・うん」
ガチャリと音がしてドアが開くと、もあっとシチューの匂いが漂った。
「おかえりー」
「・・・・ただいま」