第五話 水に抱かれて・・・
サフィーナは急いで縄を切り始める。
もう、水が入ってくるのも時間の問題だ・・・。
ソールは息をするのも辛かった。
背中からはサフィーナの焦り、緊張、そして恐怖が痛いぐらいに感じられた。
ソールは目を静かに閉じた。
このまま縄が切れたとしても、水が入れば外に出られることはまずないだろう・・・。
だんだん水が頭上や足の下をゆっくり流れるような音が響き始めた。
「何・・・?この音は・・・。」
サフィーナが不安そうにたずねる。
「後少ししたらこの部屋にも水が入ってくるだろう。」
「えぇっ!?」
「サフィーナ。今はただ縄を切ることだけを考えろ・・・。」
サフィーナは返事は返さなかったが、縄をまた切り始めた。
「!」
水が少しずつ流れてきている。
俺達は立った。
いくらかでも長く生を保つために・・・。
膝、腰、肘・・・
水が上がってくる速度も上がりとうとう肩まで水が着てしまった。
サフィーナは俺より背が少し低いため、肩が水面から見え隠れしている状況だ。
腕を動かすとだいぶ腕が動くことから、後少しで切れそうだ。
「・・・・・・切れました!」
自由になった腕を広げて急いでフローラに教えてもらった風の魔法の構えをする。
この際どうなっても死ぬことだけは避けなければならない。
手のひらに風の精霊を集めて衝撃波を作るらしいのだがなかなか精霊が集まらない。
そうか!ここには水がありすぎて風の精霊が少ないから、魔法が使えない・・・!!
どうしたら・・・どうしたら助かる・・・
その時眩暈が起こった。
酸素が少なくなっているのに無駄に風の精霊を使ったために酸素がほぼ消費されてしまったからだった。
バシャッと水面に倒れこみ、それをサフィーナがあわてて抱き起こす。
「ソールさんっ!はぁ・・・はぁ・・・。」
俺の意識は遠のいていく。
サフィーナは目を閉じて呟いた。
「もういや・・・これ以上私の周りの人が傷つくのは!お願い、母様ッ!助けて・・・私に力を貸して・・・。」
サフィーナの周りを光が取り囲む。
俺は何かに抱かれて水の中を進んでいった。
ほとんど意識のないその瞳に映ったものは魚の尾びれの様なものだった。