最高にクレイジー
「んな……」
「ちょ……」
気づけば、僕もフィオンもほぼ戦闘不能状態に陥っていた。
速、すぎる。ブレスを吐きながら回転して爆発しつつ再加速。見えてなかったら、この一撃で死んでいた。
ただ、フィオンを庇ったせいで、右側が、持ってかれた。
すぐにヒールが飛んでくる。治療が進む中、回復しきる目に前に出た。
奴のヘイトは僕がもらう。その間に、ヒールを任せる。
この一瞬だけで完璧に理解したネミュがヒール先を、ブレスを食らって動けずにいるフィオンに向けられた。
残ったアヴィと僕で攻める。が、メテオグルスは直進と鋭角に鋭く曲がって停止、即座に攻撃するなんて馬鹿げた攻勢に出てきたせいで防戦一方になる。
「アヴィ!」
「一瞬だけで良い、止めてくれれば私が決める」
「それが難しいって話だ!」
攻撃をいなし、防ぎ、弾き続けることはできるが、完全に止められない。
奴と比べてアジリティが足りないアヴィでは、中々捉えきれない。
ジリ貧。背後からプレッシャーが追いかけてくるような嫌な感覚だ。
だが、僕には見えている。
右目が、確実に奴を捉えている。使え、この優位性を、勝ち筋を、掴み取れ。
直線的なバカ速い攻撃だけじゃなく、上下左右に曲がりつつ加速をそのまま利用して攻撃してくる。
アヴィの一撃は確実にダメージになる。僕じゃ、百回やっても無理なことを、たった一撃で、やってのけ――
「当たった」
アヴィの攻撃が、入った。合わせた? 見えたって言うならこいつ……天才が。
これに沿臆座に対応したメテオグルス。攻撃すると思わせて、僕らの前を直角に飛翔。誰も追い付けない高度まで高く舞い飛んだ。決めるつもり、か。
空に輝く、母なる白き星。ブレスを纏って星に次ぐ輝きを放つメテオグルスが、墜ちる。
尋常じゃない一撃と速さ、こんな物、避けきれない。
「……ネミュ……!」
僕らの間に、ずっとひっついていたネミュが、割って入る。
「私は、丈夫だから、大丈夫!」
盾になることしか……出来ないから。
そんな彼女の言葉が反芻される。
ふざ、けんな。そんなことじゃ、君はいつだって、一人だろうが。
ネミュの肩を引いて、僕はメテオグルスの前に立った。
弱けりゃ、狂え。
流星墜ちる。馬鹿みたいな衝撃が、体を一瞬で葬り去ろうとする。ああこれは、防ぎきれない。だから、僕じゃない、地面に、君の攻撃を肩代わりしてもらう。
剣が悲鳴を上げる。見えないかどうかは関係ない、見ようとしろ!
弱点は、いなせるポイントは、タイミングは、何でもいいから、僕に寄こせ!
見えた――
完璧なタイミングとポイント、攻撃を受け流しつつ、奴のバランスを……崩す!
メテオグルスの攻撃が地面を突き刺さり、足場が崩れる。思い出す……ホブゴブリンの時と同じ、体が浮遊して、一瞬だけ、僕と奴の間の障害がなくなった。
刃を、突き立てる。弱点を、叩きつける。
「うおおおおおおおおおおお!」
どれだけ斬っても、どれだけ挑戦しても、こいつの動きを止めることしか、出来ない。
また、壁だ。壁は、嫌いだ。クソ兄貴の背中を、思い出すから。馬鹿みたいに高い、僕を常に突っぱねる。壁が僕の見たい景色を全て、消し去るんだ。
「ありがとう、ゼル」
壁が、砕けた――
景色が開け、青々と光り輝く空が、僕の前に現れる。
一撃。ただの一撃、横からメテオグルスの腹を打ったアヴィ。これだから、天才は。
「合わせろフィオン!」
「誰に、命令してる!」
大剣を振り回し、メテオグルスに追撃。すぐに僕は、奴の潰れた目の方へスライド。
見えない場所から、闇討ちの一刀を叩きこむ。
討伐、完了だ。
「ゼル! 大丈夫!?」
見届けることなく、倒れ込んだ僕を、ネミュが支えてくれたのが最後の記憶だった。