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致命的な一撃

「ネミュは、なんで、アカデミーに?」

「あー、ウチ、貧乏で、妹もいて、私が、稼がんとって。あはは、お母さんは、危ないから止めろって言ってたんだけど、押し切って出てきちゃった……だから、頑張りたいんだ」


 だから、たとえ盾扱いされても、頑張った、のか。

 胸中に出来た違和感の穴が、少し胸の中でひりついた。僕は、何のために戦ってるんだ。

 不安に似た感情が顔に出ていたのか、ネミュはジッと僕の顔を覗き込んでいた。

 驚いて少し後ろに引くと、今度はニコッと笑った。


「綺麗な目やんね。初めて会った時から、色違いだなって思っとったけど。うん。わらっとった方がいいね、ゼルは」

「あ、ありがとう……僕はこの目が嫌いなんだ」

「え、なんで?」

「兄と、妹の目なんだ。僕の兄妹は天才で逸材で、異質で、憧れ。逆に僕は何の才能もないただのおまけなんだ。挙句の果てに、レベルは上がらないしステータスが最初は全部1の不具合。兄に殺されかけた時、何で、止めを刺さなかったんだって恨んだこともあった」

「……家庭の事情だから、何にも言えないし、お兄さんがなんでそんな子と舌かも知らない。でもたぶん、お兄さんも妹さんも、ゼルのことをおまけとか思ってない。ゼルが二人を思ってたように、かわいい弟で、憧れのお兄さんだったんじゃないかな」

「え?」

「いやあ、その、そう思ったってだけだよ! 私も、姉妹いるけど、めっちゃムカつくことも全然あるし、喧嘩もするけど……何でも話せる一番近い存在だからさ」


 何故だか分からない。ただ、ネミュと話していると、今まで避けて来た物を注視しているような気分だ。見たくない物を見ているのに、何故か、向き合えた。

 不思議だと思うのは、たぶん、ネミュも僕のように、自分の弱さと戦ったから、かな。


「あ、ゼル、起きたんだ」


 戻ってきたらしいアヴィは、背中にいまだウゾウゾと動く謎の……バカでかい虫を背負ってきていた。え、こわ。


「きゃあああああああああ! ゼル無理無理ゼル無理無理ゼル、無理! 無理これゼル!」

「落ち着け、僕が無理みたいになってる。アヴィそれ、なに?」

「……虫?」

「ああ、うん。見ればわかる。食べ、られるの?」

「まあ、虫っぽいモンスターだからいける――」

「ちょっと何今の悲鳴……何その虫! キモ! マジこっち向けんな!」

「顔は意外とかわいい」

「ちょ、ゼルさんあれ殺して! 無理もう、ここあいつの場所になっちゃう」

「マジ近づけんな! シンプルに殺すわよ!」

「やってみろ。あなたじゃ私は倒せない」

「ああ!?」

「落ち着け! ったく、そんなんだからさっき負けたんだろう」


 静まり返った。暗い森。焚火のぱちぱち火の粉が爆ぜる音と、ウゾウゾと虫みたいなモンスターが抵抗する音だけが、辺りを埋めた。


「あんたのレギュミスでしょ、さっきのは。そのステータスじゃ、レギュレーターとしての持ち味、戦場に立ち続け、戦略を最後まで描き切ることなんて到底できない」

「そ、そんな言い方……ゼルはやったことのないレギュレーターをやってくれたんだよ? グレンローゼスさんが無理やりデュエリストとして入ったから!」

「は? 何あんた。あんたもあんたよ、ビビッてサポートできなかったじゃないの」

「そ、それは……」

「止めろ。グレンローゼスの言う通り、受けた以上、僕にはレギュレーターとしてクエスト全ての責任を負う義務がある。逆にデュエリスト共、君たちにはがっかりだ。悪竜の飛翔を見上げるだけで五秒過ぎていた。まさかその間に何も出来ることがありませんでした、なんてことは言わないよな」

「……言わない」

「はっ、こいつが邪魔しなければやれてたわよ」

「負けたことを自覚しろ。次は、作戦を立てる。別に好きに動けばいい。僕は僕の仕事をする。良いな、パーティーだから従えとは言わないが、僕に何をされても文句を言うな」

「それでいい。ゼルに任せる」

「ちっ、わかったわよ」

「で、でも、実際あれをどう倒せばいいの?」

「まずはみんなの呼び方だ。指示を通しにくい。今後は、ゼル、ネミュ、アヴィ、フィオンで統一する」


 これでとりあえず、指示は通るだろう。後は特に話すことは、ない。

 僕たちのパーティーは急増な上、こんなところでミーティングを開いても効果は薄い。

 なら、僕はアヴィを信じ、フィオンを無視し、ネミュと話し合おう。

 訳の分からない虫は、ネットフェイクと呼ばれる蜘蛛に似たモンスター。見た目はキモいが、焼きと煮が美味しいらしい。捕獲時と調理時は抜群に苦痛があるが、良い。

 ご飯作って英気を養う。不思議なことに、誰も悔しがってもなければ不安もない。

 僕らは一度……僕が一度死にかけただけで、まるで問題がないとばかりの態度だ。事実、彼女たちにとっては自信しかないんだろう。デュエリストは最高だ。


「ネミュ、一つ言っておきたい約束事がある」


 寝床を賭整えていたネミュに声をかける。真剣さが知れたかどこか緊張しているように見える。


「僕から離れるな。僕はレギュレーターとしては新米だ。悪いけど後ろまでは見えない。君を信じて君を見ないから、回復に徹してくれ」

「わ、分かった。私、頑張るね!」

「ネミュ。こっち」


 話を終えたネミュに、アヴィが声をかけた。アヴィなりに、もしかして今回の失敗を気にかけて話し合いを――」


「ネミュ、臭い」


 ああ、違った。なんてこう、人に言いにくいことをズバッと……いやまあ、僕が気にならなかった方が問題か。


「……ぜ、る?」

「ごめん、僕、昔修行でモンスターに食われて腸から出たことあるから、うんちと彼の悪臭に慣れてて」

「うん……」

「ゼル、デリカシーがない。ネミュ、行こう。近くに水浴びが出来る場所を、ふぃ……フィオ何とかが見つけた」

「フィオンだ。仲良くしろとは言わないが覚えておけよ」


 ネミュをアヴィが連れて行ってしばらく、スッキリとした表情と状態で、ネミュは帰ってきた。ぼさぼさだった髪を直し、確かに臭いも落ちた。


「これ、保湿して。お肌、大事だから」

「あ、ありがとう、アヴィちゃん」


 すっかり仲良くなったらしくて僕も嬉しいよ。

 逆に、一切僕らとなれ合うつもりのないらしいフィオンは未だに見張りだ。

 別に何だっていい。勝ってくれさえすれば、これ以上、負けさえしなければ、何でも。


  †


 夜明け、朝過ぎ、昼が来る少し手前で、僕らは作戦を決行した。

 悪竜、メテオグルス。奴は明確に自分の領域を持っている。侵入すればどういうわけか飛翔して落下。大体一撃で屠って来る。僕らが狙うのはその一瞬だ。


「行け、デュエリスト共」


 ふたりがそれぞれの得意を押し付けるように展開する。

 まず、先手必勝撃滅の戦い方をするのがアヴィ。片手剣の取り回しの良さと本人のバカみたいなパワーで押し切る。

 逆にフィオンは持ち前のセンスと大剣で攻撃をまず受けるか躱すかし、反撃する必殺なカウンター使い。

 ふたりが協力して戦闘中立ち位置を変えれればいいが、そんなことはプライドが許さない。

 なら僕がするべきことは一つ――

 アヴィ、直剣で叩きつける。メテオグルスは巨腕の爪で攻撃を受け流して飛翔、すぐに戻って攻勢に出た。

 回避も追撃の方法もないアヴィに代わって僕が入る。

 メテオグルスの爪攻撃を、剣の腹で弾いて軌道をずらした。受けもせず、避けもせず、単純に小さな力で軌道を僅かにずらしてやる。

 僕は全てのステータスが足りない。だから技術を、磨いた。

 同じ要領で全ての攻撃をいなし、弾き、ずらし続けて、足元だけの局所的身体強化。

 一気に距離を取ると、真上から全力で容赦のない一撃を、フィオンが落とした。

 スイッチ。

 大ぶりの攻撃。隙を突いたはずだが、メテオグルスは見事に受けきる――

 さらに、スイッチ。

 フィオンの攻撃の延長で、剣を握る右手だけに身体強化。メテオグルスのウィークポイントを、一瞬で断定する。合ってるかどうかの、答え合わせ!

 鱗の間を剣が刺さり、ダメージが入る。十分だ。同じ要領で再度引く。


「アヴィ、横側を狙えるか。フィオン、態勢が整ったら受けつつ反撃しろ」

「わかった」

「命令すんな!」

「ネミュ! タイミング、任せる!」

「はい!」


 動き出す、僕らのパーティーが。僕の仕事は一つだけ。全員が、同じ方向に向くよう、正解へ暗躍(シャドウディレクション)するだけだ。

 アヴィが前に出る瞬間、僕はアヴィの横に併せて走り、強制的にコンビネーションを形成。

 同じタイミングで来ていたフィオンとの衝突を防ぐ。離脱後、フィオンの周りを跳んで、メテオグルスに問いかけた。

 僕とこいつ、どっちを相手取る?

 さすがはネームドモンスター。悩む様子もなく僕を選択。進撃と同時に地面を蹴って宙を半回転。僕の背後を取って、斜め上から爪を叩きつける。

 残念だ、悪竜。その軌道、その場所には、フィオンがいる。

 爪を大剣で受けると同時に、器用に持ち手を置変えて、馬鹿力で一気に吹き飛ばす。


「ふわふわとびやがって、やっと、良いの入った!」


 それでいい。

 僕らを強敵と認識したメテオグルスは高々と飛翔……する隙を、アヴィが逃がさない。

 いつの間にか山肌を登って、多少高い位置から、アヴィは飛翔途中のメテオグルスの横腹を突いた。

 こいつは上昇時も下降時も横は隙がある。しかも普通人間は飛べやしないから油断する。

 良い狙いだ。あれだけの指示で、良く答えを導き出した。

 強烈な一撃、片手直剣の威力ではない攻撃を受け、メテオグルスが地面に落ちる。

 さあ、フィオン。もう一度、やってやれ。


「ご苦労、さん!」


 顔面をぶち抜く一撃をもらい、メテオグルスは深手を負いながらも、跳びきりやがった。

 どっちも必死か。この一撃で、決ま――

 閃光が、僕の安易な考えを、消し飛ばした。


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