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強敵との邂逅

 このクエストを受けた頃の僕を、可能ならばぶん殴って殺してやりたい。

 独眼の悪竜、メテオグルス。その棲み処はギルドから歩いて一日くらいの場所にある山。

 山頂付近を根城にしつつ、自分よりも弱いモンスターを狩り尽くしている。

 情報は十分とは言い難いが、まあまああった。勝てる算段も着けていた。それが……

 この様だ――


「状況報告!」

「私は無事」

「るさいわね。聞こえてる!」

「私も大丈夫です!」


 黒煙が、明ける。

 双翼の黒い翼。蝙蝠のような細さとしなやかさ、そして強靭さが羽ばたき一つで伝わる。

 黒色の鱗に覆われた体躯は異様に太い前足に支えられ、尾は先端が細く鞭のように細い。

 巨大な角を一本と、右耳には傷。間違いなく、こいつがネームドモンスター、独眼の悪竜、メテオグルス。

 迂闊だった。迂闊にも僕たちは、こいつの領域を既に犯していたんだ。

 山頂どころか麓に到達した途端、こいつが上から降ってきた。

 単純な高高度からの突進。地面を抉り、衝撃波だけで吹き飛ばされた。


「ぐるるがががががうるるがああああああ!」


 独眼竜が吠え、弾かれたようにデュエリスト二人が前に出る。

 バカが、ここは開けた大地。洞窟とはわけが違うんだぞ。

 突っ込む二人を嘲笑うように、メテオグルスは空を飛ぶ。追いかける術のない二人が無様に見上げると、一瞬で降下。

 速い……恐らく、マジックを使って空気の摩擦を無くして即座に上昇。落下時は障壁を張って特攻を成功させている。

 これがレベル5推奨? ふざけるな、もっと上だ。ギルドめ、適当な仕事して……。

 突然の反撃をアヴィは避け、グレンローゼスは大剣で衝撃波だけを受け流す。

 これで、グレンローゼスは即座に反撃できる権利を得た。

 対応。同時にアヴィが動く。良い連携だ。こと戦闘において純粋にセンスがいい。

 しかし、グレンローゼスは大剣を振り上げ、アヴィの進路を妨害。バランスを崩したアヴィがグレンローゼスによろけた。


「何やってんの!」

「私の邪魔をするな」


 メテオグルスは舞い込んだ好機を逃さない。赤々と燃える炎を口周辺に滾らせる。まずい、ドラゴン系モンスター固有のマジック、ブレスが来る――


「カトーレリさん! 障壁――」

「え? 何!」


 間に合わない――

 身体強化(フィジカルブースト)発動。僕の少ないマジックじゃ、これ以外は出来ない。

 幸い、僕はレギュレーターの位置としてはかなり前寄りにいたから届く!

 アヴィ、グレンローゼスの襟を掴んで一気に後ろに投げる。あまり距離が出ない。

 クソ……どこまでも邪魔をしやがる、僕の、ステータスが!

 身体強化解除。代わりに保険にもならないおまけみたいな魔障壁発動。魔障壁は物理攻撃以外、つまりマジック系の攻撃から防いでくれる。

 轟々と燃える炎が、僕の障壁をいとも簡単に貫いた。別にいい、くれてやるよ、これは、レギュレーターである、僕の責任だ。

 炎が僕を飲み込む最中、左目が、開く。喪われた目が、あの日奪われた瞳が、二度と、失われまいと、抗う。

 視えた――

 炎の中をかいくぐり、燃え尽きかけた腕を伸ばして二人を庇いながら、抜け出す!


「ぜは……カトーレ……撤退、君にしか、いけるか」

「無理、だよ、だって――」


 まずい。意識が刈り取られる……クソ、こんなところ、ふざ、けんなよ。

 ディフェンスが低すぎる。回避したが火傷のダメージでもう僕はもたない。


「君だけが、エンチャンターだ。ヒールしつつ、身体強化で僕を運んでくれ、もう、落ちる」


 運んでくれれば、彼女たち二人はほぼ無傷だから単独でも脱出できる。追撃を抑えられる。

 もし目覚めた時に全員揃ってなかったら、僕は舌を噛み切って、死んでやる。


  †


 最悪な目覚め、だった。

 目覚めだって? 待ってくれ、寝ていたのか、あの状況で、僕は。

 軽く体を起こす。全体に感覚が戻って、グッと体に現実感と言う重みがのしかかる。

 冷静さが、瞬時に体に痛みを伝播させる。動きたくないけど、ここは……森か?

 空はもう暗い。近くで煌々と燃える焚火だけがどこかの森で野営をしていることを教えてくれた。


「ぜ、ゼハードさん! よかった、無事だったんだ!」


 カトーレリさんが胸に抱えていた薪をまき散らして抱き着いて来た。

 人の温かさと、強く締め付けられて体は痛いのにここ強さが勝る妙な感覚になった。


「はっ、あ、ごめんなさい! わ、私、のお母さんが、良くしてくれてたから、つい」


 照れからなのか、焚火のせいかは分からないけど、頬が赤かった。はにかんだような笑みを浮かべて、散らばった薪を集めている。


「アヴィと、グレンローゼスさんは?」

「アヴィさんは食べ物、グレンローゼスさんは見張りをしてて、その……ごめんなさい、と、ありがとう」

「何がですか?」

「その……レギュレーターの意見を聞けずに、途中で私、固まっちゃって……助けてくれて、ありがとう、ゼハードさん」


 現実味が、帯びてきた。僕たち急造チームが遭遇した、初めての敗北の。

 ヒールを施してくれたのか、一応動ける。動けるが、掠めただけで気を失いかけた。

 やっぱり僕は――


「強いですね、ゼハードさんは」

「……は? あ、ごめんなさい、何が、ですか?」

「いや、その、私はあんまりわからん、分からないんですけど、どんなメンバーでも正解を導き出して、足りないところは動こうとして……自分の弱さを受け入れているのが、カッコイイって……ごめんなさい! 私みたいなのが、偉そう、ですよね」

「……いいや、ありがとう。それと、僕も辞めるから、喋りにくそうな敬語は止めてよ。名前も、ゼルで良いよ」


 ゼハードは、天才の兄や、逸材のユアのためにある名前。おまけの僕じゃ、恥ずかしい。


「ありがとう! 私も呼びにくいよね? ネミュの方が短いけ、そっちでいいけんね」


 にかっと笑う表情と柔らかな喋り方は、少しの間、僕から嫌な記憶を無くしてくれた。


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