仮パーティー結成
「いや、え、レベル2で250って、聞いたことない。3の平均値が300なのに」
「えへへ、昔っから、硬さだけは褒められたんです。だから、初めて誘われた時嬉しくて。硬いからって前で戦ってたら、レベルも上がって……でも、盾以外になれなくて」
確かに他のステータスは目立ってないが、ディフェンス250は異常だ。初期のクエストや遺跡程度なら死なずに帰ってくるだろう。今後の成長次第では、彼女は……いや、考えすぎか。
「そんなに硬いなら、私の攻撃を受けてみる? 私の方が強い」
「アヴィ、張り合わなくていい。ええと、カトーレリさん? 好きなポジションは?」
「あ、ええと、一応、付与術師です」
にしては、マジックが少し低い。マジックによって使える特殊技能。代表的なものとして身体強化と治癒強化。そして攻撃マジックがあるが、僕らのような普通の人間は大して使えない。
そう、例外的に……妹のユアのような、天才でもない限りは。
ステータスだけ見れば、カトーレリさんは実はデュエ向き。しかし、ステータス適正なんてことを言ってれば僕はどこも対応できないゴミクズ。本人のやる気を尊重したい。
「分かりました。とりあえず、アヴィがデュエリスト、僕がハンター。カトーレリさんがエンチャンター。あとひとり、統率者がほしいけど」
「ねえ、あんたたち、もしかして、アカデミーの入学パーティー集め中?」
声をかけてきたのは、燃えるように真紅の髪をポニーテールに結った少女。整った顔立ちに長い睫毛。黄色い双眸は珍しさもあってか思わず目が惹かれてしまう。
軽鎧に肩と足が露出した、アヴィとは反対の豪快なスタイルと……その目より、美脚より、豊満な胸より目が向く、大剣。両手剣を遥かに凌駕した代物で滅多に見ない。各国の酒場を練り歩く豪傑でも持たないぞこんなもの。
「そうですけど、あなたは?」
少女は黙ってみろとばかりに天窓を見せてくる。その様子に少しムッとしたらしく、アヴィが前に出て、カトーレリさんは僕の後ろに引いた。
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フィオン・グレンローゼス
レベル:2
パワー:100
アジリティ:95
ディフェンス:50
マジック:60
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何だこの優秀なスペックは……それに、グレンローゼスだって? バカな。
「帝国さん大貴族の一つ、ですね。グレンローゼス家」
「え、名門じゃないですか! な、なんでそんな人が」
「その通り。あなたほどの家柄の人が、アカデミーから推薦がないとは考えにくいんですけど」
問いかけに、グレンローゼスさんは溜息を惜しげもなく着いた。
腕で胸を支えるように組んで、瞳を細める。一々所作が色っぽい。
「あんた、バカか、そうでなければアホかしら」
「……はい?」
「アカデミーの推薦枠は家柄で入れるようなものじゃないわ。それこそ、そこのフロージスが体現してるでしょ?」
「ああ、あなたも性格に難あり――」
いつ抜いた?
大剣の切っ先が僕の咽喉を鋭く掠める。
遅れて、思い出したように、アヴィが片手直剣を抜いて、彼女の首にゆっくり剣を突き立てた。
「ゼルは私の共犯者。やらせはしない」
「遅い遅い! だあもう。グレンローゼスさん、非礼はお詫びします。それより、ウチを選んでくれたわけを教えてください。あなたほどの才覚なら引く手数多でしょう」
「そいつを殺したいから」
「アヴィ、話聞いてもらえない。過去に耳でも斬ったの?」
「知らない。覚えてない」
「あんたらねえ!」
ダメだ収拾がつかない。諦めて無理やり話を前に進めよう。
「グレンローゼスさんのポジションは?」
「デュエリストよ。それが何?」
「今、レギュレーターだけいなくて……」
「あんたがやりなさいよ。さっき見てたけど、あんた、ハンターでしょ? 動きで分かる。私たちが前張るから、見てなさい」
「いや、だとして従ってくれるんですか?」
「論外の質問ね。私は誰にも従わない」
「それは同感」
話にならないし、このふたりは合わせたら危険だ。恐らく前線は崩壊して、工法と距離が出来た上に各個撃破される。終わりだ、お話にならない。
「分かった――」
口から出た言葉が自分の考えた物と違いすぎて、思わず途中で口籠った。
何を、口走っているんだ僕は……どう考えても、彼女たちは――
『そうでもしないと俺に辿り着けないからだろう? ゼル』
ああ、そうだ、そうだよ、クソ兄貴……リスクを取らないと、あんたには届かない。
「分かった。じゃあ、取り敢えずこの世人でどのクエストを受けるか考えましょう」
「あんたが選びな。そこに文句は言わない」
「私も」
「わ、私も、ゼハードさんにお任せします!」
じゃあ、勝手に選んでくるとしよう。
僕たち全員は馬鹿みたいに前に偏った編成だ。だとしたら長期戦ではなく短期決戦。
やるべきは遺跡攻略ではなく、ネームドモンスターの討伐が良いだろう。
あー、ゴブリンはまともにやると厄介だし、リザードマンのネームドはかなり遠い場所。
「何迷ってんのよ。もう、これで良いじゃない」
あまり物を考えるのが得意ではないらしいグレンローゼスお嬢は一枚の紙を取り出した。
内容は把握していたから、馬鹿じゃないのかって首を振っていたら首根っこ掴まれた。
「あなたは暴力的過ぎる!」
「あんたが軟弱なだけでしょ!」
「ステータスが雑魚いのは僕のせいじゃない!」
「誰もそんなこと言ってないでしょ! あーこれだから根暗は」
「暗くありませーん! そんなこと言う方が実は暗いんですー!」
「え、殺すよ?」
なんて問答を繰り広げている中、ゆっくりと、あまりにも堂々と、アヴィは物を考えるのが得意ではない人が選んだクエストを、カウンターまで持って行った。
静かに、冷静に、クエスト受注に際して、リスク、報酬の説明を聞いて、受注を完了した。
あまりにもスムーズで、動体視力が仕事をしなかった。これは、僕のせいなのか?
「……アヴィ、何を受けた」
「独眼の悪竜、メテオグルスの討伐」
「それ、推奨レベルは」
「レベル5以上のフルパーティー」
「バカか君は」
「あなたが言った。私を、もっと強くするって。現在位置で戦ってても、成長しない」
言葉が出なかった。呆れてしまった……自分自身に。
アヴィの言う通りだ。強くなるなら、現在位置以上の相手を倒す必要がある。ああ、分かったよ。乗ってやる、馬鹿ども。
「分かりました。だけど、カトーレリさんの意見も聞かないと――」
「めっちゃ怖いです! で、でも、皆さん強いから、信じてます」
最初から自信満々のふたりは任せろとばかりに頷き、僕は苦笑した。なんだか何とか、なりそうだな。