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一番堅い子

 アヴィと僕たちは一度、近場の町に戻った。理由はあまりにも簡単で、二人じゃアカデミーの入学試験を受けられない。

 アカデミーへの入学は二種類。推薦による入学か、入学試験を突破する事。

 ちなみに後者は非常に難しい。何せ、そもそもパーティー編成、つまり四人いないとお話にならない。

 伝手もなく、情報もない状態で自分と危険な状況を潜り抜ける見方を見つける。ハッキリと正気の沙汰じゃない。

 だけど、卒業後の進路によっては、そうやって一から味方を探す必要もある。

 そこで、ここギルドだ。

 木製のテーブルに椅子。バカでかい掲示板と綺麗に整えられたカウンター。照明はやや明るめで暖かな光が心地いい。しかしそこは、喧騒の渦。多くの人でごった返していた。

 試験を受けるには、ギルドで適当なクエストを受注して、難易度が一定のラインを越えれば入学試験を受ける権利をもらえる。そこまでしないと門前払いだからやってられない。


「ゼル。当てはあるの? 私は全くない」


 何故か自信に満ちているアヴィに苦笑しつつ、ギルドをぐるっと見渡した。ギルドはクエストと呼ばれる、要は「頼まれ事」の受注を中心に困りごとはなんでも解決してくれる。既にプロとして活動している人間以外に、僕たちと同じような境遇の人間はいないか……。


「邪魔なんだよクソ女!」

「きゃ……」


 ひとりの少女が、物々しい装備をした女に突き飛ばされていた。

 すかさず、傍に駆け寄って声をかける。傍から見ても分かる。着ているローブや持っている杖がボロボロだ。本人は怪我を追負ってはいないが、短い黒髪は痛んでぼさぼさで、髪飾りは砕けて髪にへばりついている。

 倒した当の本人、他にも女メンバー二人は一切悪びれた様子もない。


「感心しないな、暴力なんて」

「は? 何あんた、マジウザいんだけど」

「こいつ、お前のダチか? しみったれたのにはしみったれた

「僕がウザいのは別に構わないけど、同じパーティーメンバーをこんな――」

「誰がパーティーって? こんなディフェンスだけ高くて汚い奴、盾に使えるかもって使ってやったけど、何の役にも立たない。マジ使えねえ。ディフェンス以下はマジゴミステータスのお荷物なんだよ、お前は」


 僕の横を抜けて、少女を蹴る女。少女は短い声を上げ、また倒れる。

 今度はしっかり抱えたが、体が震えていた。

 こいつ……いるんだよな、こういう、自分よりステータスの低い人間を人間と見ない奴が。


「待ってください……その、私は、大丈夫ですから、ごめんなさい」


 少女は弱弱しく、微笑んだ。笑う少女に、女たちは嗤っていた。

 分かってるのか? 彼女とお前たちの、笑顔の違いが、何なのか。

 この少女は、自分が弱いことを自覚している。僕と、同じだ。

 僕はレベルが上がらず、ステータスはマックスまで上げても最底辺のゴミレベル。だから、僕は自分に出来ることを死に物狂いで……兄が消えて1年、百回死にかけた。

 でも彼女は、自分の弱さを自覚して、言えるのか? 僕が逆の立場で、ごめんだなんて。


「どうして、その子を盾にする必要があるの?」


 口を開いたのは、今までまるで興味のない物を見るような瞳を向けていたアヴィだ。

 アヴィが前に出ると雰囲気に呑まれそうになる。事実、女たちはたじろいだように一歩引いた。


「はあ? だから、こいつがディフェンス高いから――」

「あなた、デュエリスト?」

「だったら何だよ」

「どうして盾がいるの? デュエリストなら、敵の攻撃が来るより前に、倒せばいい。味方を守るのは、前で戦う者の役目なんじゃないの? あなた、もしかして向いてないんじゃない?」

「んな――」

「くっく……ふふふは、アヴィ、ダメだよ、それを言ったら」

「なんで?」


 嫌味も何もない。純粋なアヴィの疑問は深く、彼女たちを突き刺した。


「んだ手前! いきなりしゃしゃってんじゃねえぞ!」

「そうだそうだ! 大体、お前らだって他に組む奴いねえんじゃないのか!」

「今度はこっちが痛いところを突かれた。まあでも、アヴィ。君の理論で言うなら、彼女をパーティーに加えても問題ないね?」

「え――」

「私は誰が入っても強いから関係ない。それに、上手く調整するのはゼルの仕事でしょ?」

「そうだね。そりゃ、そうだ。てことだから、もしよければ、一緒にどうですか?」


 唐突なお誘いに戸惑う少女に、僕は自分の天窓を見せた。


「え、ひく……あ、ごめんなさい! ちがくて、その、か、かわいい、ステータスですね」

「ありがと」

「今のも違くて!」

「ふひゃははははははは! 何このちんちくりん、盾女よりも全然弱いじゃん!」

「バチ殺しで決まりなんだけど」


 剣を構えるアヴィを手で制した。久しぶりだよ、本当に久しぶりだ。

 前に出ると、アヴィは黙って腕を組み、適当な場所に腰を預けた。見守ってくれるようだ。

 さすがに久しぶり過ぎて、思わず笑っちゃいそうだ。久々にここまでコケにされて、そうだな。せっかくだからこの女たちの言葉を借りるとしよう。

 マジ、ブチギレなんですけど。


「じゃあ、ご自由にどうぞ。三人まとめて相手します――」


 言い終わる前に、ふたりが前に出て来た。デュエリストとハンターか。

 リーダー格は大きめの両手剣。取り巻きは短剣。後は付与術師なんだろう。後ろで待機。思い切りも良ければ殺意も高い。性格さえよければ、まだ色々あっただろうに。

 リーダー格の剣を避けて、まず短剣。リーチが短いことを理解しないまま懐に来た彼女の腕を取って軽く投げ、リーダー格の背中をついでに押す。

 バランスを崩して勝手に倒れ、ふたりは哀れに僕を見上げる。


「どうしました?」

「殺す!」

「どうぞ」


 両手剣を豪快に振る。割と扱えているし、速い。ステータスは本当に悪くない。

 僅かに耳横を剣が通過。過ぎ様に腕を取って軽く捻ると、またバランスを崩して倒れ込む。

 間髪入れずにハンターが来るが、何度やっても分からないようで、間合いを間違えすぎだ。

 ほら、だから簡単に僕に剣を奪われる。

 奪うと同時に足をかけて転ばせる。後ろも前も行ったり来たり、勝手に過ぎ去っていく。


「なんだ、何なんだよお前! そんなゴミみたいなステータスで、何で避けられる!」

「数字至上主義なのは結構なことだけど、技術がおざなりですね」

「ああ!?」

「確かにアジリティが速い方がよーいドンって走れば勝つ。腕相撲をすればパワーが高い方が勝つ。パワーがディフェンスより低ければ、殴っても拳を痛めるのは殴った方。だけど、それは全部ご都合主義並みに何もかもが止まっている時の話し。あなたたちじゃ、僕はいつまでも捉えきれません」

「そんなわけが――」

「あります。それが技術です。ステータスの差を埋めるための、弱者が編み出した秘策です。さあ、何度でも、まとめてかかってきてください」


 彼女たちは戦意を喪失したらしく、床を激しくぶん殴ってその場から消えていった。

 本当に、思い切りだけは良い人たちだな。

 僕は今一度、少女の方を向き直った。少しだけ時間がかかってしまったかな。


「初めまして、ゼル・ゼハードです。こっちは」

「アヴィリア。アヴィリア・フロージス。よろしく」

「あ、え、あ、よろしくお願いします! ネミュ・カトーレリって言います!」


 深々と大きな声で頭を下げる少女は、慌てた様子で天窓を見せて来た。

 多動な人なんだね。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ネミュ・カトーレリ

レベル:2

パワー:15

アジリティ:17

ディフェンス:250

マジック:40

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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