最強のパーティー
ネミュとアヴィ。それだけいれば、十分だ。
防御は入らない。傷も怖くない。死ななきゃ、この魔族を、倒せる。
「調子に乗ってもらっちゃ困るなあ、僕は、魔族だよ!」
戦いの中で進化したダークは見えない風の刃を飛ばしつつ、砕いた瓦礫を高速で打ち出してきた。見える攻撃と見えない攻撃のシャッフル。全部見えないよりたちが悪い。
惜しかったな、今の僕は――
「ひとりじゃない」
アヴィが攻撃を正面から弾く。マジックすらも斬り割き、どんどん前へ進んでいく。
僕が入るのは、彼女の影。いつだってそうだ。僕は、アヴィと共に戦えば、どこまでも自由に動ける。
「攻撃を隠しつつ猛追だと? 勇猛果敢なことだ!」
「あなたは、臆病」
「ボクが……なんだって!?」
爆発同時に炎の渦が出現するが、これを大ぶりの人たちでアヴィが斬る。
アークは必ずこの隙を狙う。
すぐさま、しゃがんだアヴィの背中を飛び越えて、攻撃の端を剣で弾く。
アヴィのように切れないが、軌道を変えれば当たらずに済む。
「あなたは、臆病。だから、自分よりはるかに劣るステータスのゼルに、ここまで大袈裟な攻撃で煙幕を張る。どれか一つでも当たればいいから、適当に打ってる」
「ちょっとショック受けるからやめてよ、アヴィ」
「ん? ゼルは強いよ」
言葉を失うダークを前に、アヴィはゆっくりと立ちあがった。あろうことか、魔法を剣で軽く薙ぎ払いながら、歩んでいく。
強力すぎる飛び道具は僕が梅雨払いするが、分からない。何をする気だ、アヴィ。
「シンプルに、全てのマジックをパワーに振ればいい。ディフェンスでも良い。でも、しない。強力すぎるヒールを使うマジックを残して戦う。あなたはゼルを馬鹿にしているけれど、ゼルが怖いの? ああ、違う。分かった、私も今、分かった」
アヴィは攻撃の軌道を無理やり僕の傍に叩きつけると、浮いた僕の体を片腕で抱き寄せてくる。
顔が、近い。宝石のような瞳が、僕の目を射抜いた。
「うん。やっぱりそう。あの時助けてくれて、ありがとう」
「え、なに?」
「私は、忘れっぽいけど、忘れくて良かった。ダーク、あなたが恐れているのはゼルじゃなかった。ゼルの目。これを見ると、思い出しちゃうんだね、お兄さんのことを」
「黙れよ! もうさあ!」
「おしゃべり好きだったのに、どうしたんだい? ジャンヌ・ダーク!」
「舐めるな! 貴様らの攻撃程度で、ボクは――」
アヴィの斬撃が、魔法を貫いてジャンヌの首か胸に深い傷を叩きこむ。
ディフェンスを越え、咄嗟に出していた障壁を砕いた。
「く……馬鹿な……有り得ない、ボクのディフェンスは、ブーストして1000を超えている」
「ああ、そう」
アヴィは天窓を、見せる。
アヴィリア・フロージス
レベル:6
パワー:1020
アジリティ:600
ディフェンス:280
マジック:80
「バカな! さっき見た時は……速すぎる、どんなレベルで進化を……まさか、君は……余裕ぶっておきながら、ギリギリ死線をさまよっってたって言うのか! 恐怖を、克服して! ボクの魔法をかいくぐって!」
「私が、一番強い」
「この異常者が! そんな戦いが、あってたまるか!」
「剣が刺さったままじゃ、ヒールも使えないだろう!」
さらに追撃。僕の攻撃じゃ、致命傷には至らない。それでも、何度も何度も、刻み続ける。
「つ……なあ、最後のおしゃべりだ、知ってるか? 呪具を作ったのは、魔族だ」
「それがなんだって?」
「呪具に込められた暴走というシステム。アレは本来、呪具の特性を一定時間開花させるシステムなんだ。君の師匠が嬉しそうに言っていた奥義、奇しくも、暴走は奥義の失敗で起きる現象だ。だが、適切なマジックを適切な方法で流し込めば、奥義は成る!」
「まさか、まだそんな――」
「あははははははっはははははは! ボクも彷徨うよ、死線を! 呪具の開放を!」
奴が持っているのは、師匠の呪魂。呪魂が光り輝き、辺りで死んでいた魔獣が、吸い寄せられる。あまりの風に、僕もアヴィもひとまずその場を離れた。
肉と肉が重なる。死が、より濃くなる。嫌な音が響き渡る。この場にいることを、体が生理的に拒否している。
骨が折れる嫌な音、肉が弾ける不快な音と共に、ジャンヌ・ダークだったものは、巨大な……竜へと成った。
肉が削げ落ち、骨にぼろ布のような組織と皮だけの桃色の竜。顔は馬のように細いが半分が完全に削げ落ちて、顔かどうかも怪しい。被膜のない翼は指の骨格のよう。
ようやくわかった。魔獣が、どうやってできたのか、命を戦うために弄んで作られた、魔竜の酷い悪ふざけなんだろう。
「コオオオオオオオオオ」
「最早人を捨てたか、ジャンヌ・ダーク!」
「ゼル、これ、でかいし……私のステータスが、1になった」
「……僕もだ」
対象を増やした? これが呪魂、いや、魔獣、ジャンヌ・ダークの覚醒か?
指のように細長い翼の骨先から、赤い渦が出現。細長い炎が素早く吐き出された。
僕は回避できたが、アヴィは当たってしまい、足がはじけ飛ぶ。
避けられないんだ。急激なステータス下降で、まともに動けない。いつもと同じ感覚で動いているつもりなのに、全く動いていない。
さすがに苦痛に顔を歪めるアヴィをしかし、暖かな光が包み込む。ダークのような瞬間治癒とは行かないが、隙は僕が守る。だけど……
「ネミュ! やりすぎだ! こんな規模の治癒を何度も!」
「大丈夫! ステータス、戻った!」
ステータスが、戻った? どういうことだ? 対象は、二人までなのか?
いや、覚醒としては微妙過ぎる。手を抜いて遊んでいる? なんのメリットもない。
「みんな、大丈夫、逆転するよ。ゼルが、全部、ひっくり返して今ここにいるように!」
本当に、ネミュといると勇気をもらえるな。
逆転か、いい言葉だ。
どん底から僕は、ここまで来た。
一人で無理でも、君らと一緒なら、なんだって倒せるさ。
「もう、当たらない」
「ステータス1だよ。君の攻撃は当たらないし、当たってもあの規模じゃ何も感じない」
「ゼル。私は、一番、強い」
「……分かったよ。なら、戦い方を見せる。交代だ、アヴィ」
「交代?」
「僕の周りを動き回れ」
駆け出す。
巨躯との戦いは何度も経験した。何故なら、そこまで体格のない僕は全く体格のない師匠から常にデカい相手を用意されて何度も死にかけた。
やろうか、兄弟子。僕とあんた、どっちが、師匠の弟子か。
剣を地面に擦り上げて切り上げ。足への大したダメージにはならないが、気は引ける。
素早く、アヴィが飛び出して、横から攻撃――
「あれ、ステータス、戻ってる」
ダークがアヴィを向き、ボロボロの口から冷気を吐き出す。
アイスブレスを剣で弾きながら、再びアヴィは影に消える。今一瞬、ステータスが1だったし、奴がアヴィを見ている間、僕のステータスが戻っていた。
そうか……こいつ、視界か。
ダークは己の弱点に気付いたのか、体中に、眼球を出現させる。隙がない辺りは本人の性格が色濃く反映されている。
しかしこれで――
「ちっ、厄介が、過ぎるな」
僕とアヴィへの同時攻撃。魔法を使った目くらましの中、自分の組織を伸ばして腕につくと、爆発して腕を飛ばされた。
アヴィは常に前へ出る根っからのデュエリストだ。その隙を僕が埋める形で成り立っていた。だが、同時に攻撃されると、僕らの作戦はいとも簡単に破綻する。
アヴィは両足に触手のような組織がへばりつき、浸食される前に両足とも斬り落とした。
正解だ。もし別の魔法を注ぎ込まれたら、中から即死。だけど……これは、無理だ。
即座に僕とアヴィにヒールが入るが、間に合わない――
「失せろ、クソ魔族」




