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魔法

「ぬあにをふぃふぇるんだ、ネミュ」

「ネガティブ止めよ。大丈夫、みんな生きてるよ。それより、あの人を止めないと。なんか、そっちの方が凄く、怖い気がする」

「怖い気?」

「あの人、準備は終わったって言ってた。たぶん、明確な目的があるんよ。それと、明確な目的って言うんはもう、終わってるんじゃないかな」

「終わってる……なのにまだ、暴れてるっていうのかい?」

「うん。分かんないけど、この騒ぎが、目的なのかも」

「だとしたら厄介だ」


 もしもジャンヌ・ダークが逃げるつもりがないなら、本当に面倒だ。

 この国には聖騎士がいる。そんな物を全員相手にしても、かつて魔族の頂点は勝てなかった。彼一人で勝てるとは思えない。


「急ごう。目立ちたがり屋が行くのは、城じゃない」


 都の端、丘の上に皇帝の居城がある。ただ、中心はまた別の場所だ。目立つことが目的なら、あいつは絶対中心にいる。

 面倒なことを起こして……師匠のためにも、アーランドさんのためにも、仇は討つ。

 魔族だというのなら、余計に、だ。聖騎士になった兄貴を超えるって言うんなら、猶更。

 ここまでの道のりに比べてみれば、中央への道なんて何のことはない。


「おっと、思った以上に早く着いたようだね、ゼル君」


 ジャンヌ・ダーク。いつものような人懐っこい笑顔。本当に、この笑顔は嘘くさくない。今でも、何かの間違いなんじゃないかって思いたい。


「魔族なんだって? 本当に、何しに僕らに近づいた」

「ボクは基本嘘吐きだ。本当の嘘吐きってのは、嘘の中に真実を混ぜるんだ」

「何が真実だって?」

「ボクの父とボクは、君の兄に大変世話になったよ。父は死に、ボクは命からがら逃げだした。元々、ボクは戦争になんか参加するつもりなかったし、君ら人類のこともどうでもよかった。だけど、君の兄の目と来たら……ここまで、人として見られないか、って思ったよ」

「僕の知ってる兄貴像とは全く別だけど」

「じゃあ、聖騎士になって変わったんじゃないのかな? まあどうでもいい。だから今回のことを起こすにあたって、間違っても君のお兄さんが来ちゃ困るから、師匠を殺して力を手に入れた。さっき、君のお兄さんに次ぐ脅威のミュハエル・クレゼットも殺したよ! これで、ボクの役目は万事終わりだ!」


 そうか。ミュハエルさんも、こいつに……もう、なにも迷わない。


「ユアと母さんのことは礼を言う。だからせめて、苦しまず、殺す」

「別にいいよ! ほんとはボクだって死にたかなかった! だけどこうなっちまったらしょうがない、やろうよ、ボクと君とで、最高の戦争を!」


 身体強化で一気に距離を詰める。

 ネミュも後方で支援を開始。魔障壁と追加の身体強化のバフを得た。

 瞬きの瞬間、呼吸、一挙手一投足まで見ることで僕は実態より速く見える。

 しかし、相手が悪い。同じ師匠を持った者同士、技は通じない。

だからこそ、ダークは魔法を選んだ。広範囲の魔法が、目の前で爆ぜる。ダーク自身はありあまるマジックで魔障壁を展開。自分を守りつつ攻撃。

魔法が解けたところで、自身に身体強化を使って爆発的な加速で詰めてくる。

目で追えない。いや、目で追わない。近接未来を、読む。


「良く着いてくる。ステータス差はあるはずなんだけどな」

「師匠の技だ。不勉強な弟子だったようだね、あんたは」

「君の正論は、嫌いだね!」


 カランビットナイフをくるくる回して斬り降ろし。引くと同時に腰を回して掌底打。

 馬鹿みたいな近接格闘。やっぱり彼は師匠の弟子だ。

 師匠、エレアさんの全盛期は短剣二刀流。ステータス異常を抱えながらも、ネームドモンスターを何匹も討伐していた。


「まったく、魔法が効かないのは、彼女のお陰かな!」


 僕と戦闘しつつ、火球をネミュに飛ばす。

 ネミュは僕へのブーストを切って、魔障壁をピンポイントで展開。

 魔法一個に対して魔障壁一個で相殺。全面や前面に打ち出すのではなく、節約して使う。ネミュのセンスが光る見事な一手。


「大丈夫! 私は気にしないで!」

「オーケーだ!」

「だったら、彼女のステータスを奪うとしよう」


 ステータスを奪う謎の力。師匠から奪い取った、奥義。

 本当は、アーランドさんがジゼットを産む師匠を助けるために作った力。本当は、もっと家族で過ごす時間が、会ったはずなのに。


「あんたが……師匠の(それ)を使うんじゃない!」

「君に使ってもゴミみたいなステータスで意味ないからね、戦場の平均化だよ。君がこの奥義を使えば、最強だったろうにね! 師匠もだから君を育てたんだろうよ!」

「黙れ!」

「喋らせてもらう! まったく、君たち兄弟は、本当に邪魔な存在だよ、お兄ちゃんはさぞ鼻が高いだろうね、ここまで這いまわる、立派な羽虫になってさあ!」

「兄貴の話を、するな。全く、魔族ってのは本当に、おしゃべりが多いんだね」

「そうさ。少なくとも、ボクが会った奴は全員おしゃべりだよ。君のお兄ちゃんはあまりにも無口で、冷徹で、強かった。君の目を見て分かったよ。ああ、兄弟だって。ついでに、君の目も、贈り物だろう? まったく、身内には優しいお兄ちゃんだよね」

「あんたに、僕たち兄弟の何が分かる」

「特別だってことは分かってる。だからわざわざ、ボクが小間使いになって色々動いた。愛する師匠を殺して、関係ない人を殺して、今もこうして国ひとつ潰してるんだから、本当に、神様ってクソだよ!」


 攻撃、魔法に苛烈さが増す。感情を昂らせて、魔力のあらん限りを吐き出している。

 当たれば即死。外しても周りは甚大な被害を被る。刹那的でどこか自暴自棄な攻撃はしかし、僕がどうにか出来るものじゃない。

 ただ力が強いだけ。そんな単純な理屈を壊す力を、僕はもっちゃいない。

 精々、攻撃や手数が単調にならないように、戦いながら新たな戦術を組み上げる。

 だが、届かない……

 氷、炎、組み合わせて水。水の後ろから水圧が高い水の刃が飛んでくる。

 避けた先の地面から炎が噴き出し、崩れた体勢に雷が落ちる。なんでもあり。


「これでも、低ランクの魔法だよ。ただその辺の要素を魔力で倍増させて打ち出してるだけ。本当にすごい奴は奇跡だって起こせるさ。さあ、ようやく楽しい戦いが始まったんだ、簡単に死んでくれるなよ、ゼル君!」

「お生憎、僕は子供に一蹴りされても死ぬような、クソ雑魚なんだ」

「ならもう、死になよ」


 見えない、刃。

完璧な不意打ちを、師匠は僕に教えてくれた。瞬き、歩法、呼吸、人の隙を狙い、不可視の一撃を使えば、非力な僕でも各上を倒せると。

だがまさか、そんな僕の絶対的に地震がある部分を、こんな、こんなもので、破られるとは思わなかった。いや、あえて、使ったとしたら本当に性格が悪い。

恐らく、水と同じように、風邪を圧縮して、弾いた刃が、僕の腕を斬り落とした。



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