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3/33

たったひとりの共犯者

「お疲れ様」


 ぽふっと、柔らかい感触が体を埋めた。

 気づかない内に、彼女は僕の落下地点へ跳び、体で支えてくれた。

 柔らかさと、いい匂い。体を動かしたからか、蒸した熱が、僕の頬と心臓を高揚させた。

 平静さを装いつつ、彼女の目を見れない僕は明後日の方を見ながら問うた。


「すごい強いね。君ももしかして、アカデミーに?」


 彼女は目を細めて酷く不機嫌な表情になる。ベースが無表情だから顔にすぐ出るんだな。


「推薦が来なかったから、これから試験。試験はパーティーで受けるからギルドに行った」

「それで誘われたから行ってみたら、見捨てられた感じか」


 頷いて、少女は自分の天窓を見せてくれた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アヴィリア・フロージス

レベル:2

パワー:120

アジリティ:95

ディフェンス:40

マジック:8

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 レベルに応じて、各ステータスの上限が引き上げられる。つまり、レベル2でどれだけ努力しても限界値が存在しているから上を目指すにはレベルを上げるしかない。


「レベル2でパワー120って、相場は80そこらだよ」

「私は誰より強いから、関係ない」

「あ、待って、どこに行く気だ?」


 踵を返す彼女に、僕は慌てて声をかけて止める。


「次を探す。もう、何度も断られた。速く探さないと入学に間に合わない」

「見つかりそう?」

「見つける」


 言葉の強さとは裏腹に、フロージスは苦悩しているようだった。

 それもそうで、彼女の戦い方は破滅的だ。仲間のことを考えず、中央突破するスタイル。

 だけど僕は彼女を、一目見た時から惚れてしまった。


「これを見てどう思う?」


 僕の天窓を、フロージスに見せた。

 僕のレベルは何をしても上がらなかった。ただ、ステータスだけは、全ての上限値である7に到達していた。

 僕は僕を諦めた。誰もが値を馬鹿にした。ある人は、哀れみもした。

 そんな、ゴミのような人生で僕を支えてくれたのは、ただひとつの感情だった。

 だから別に、どれだけ謗られようと、大したことじゃ――


「すごいと、思うけど」

「え?」

「だから、すごいと思う」


 真面目なフロージスの表情に、僕は思わず固まった。


「そのステータスであの動きは出来ない。努力したんだなって。それが、なに?」

「……はは、面白い。僕には野望がある。そいつは僕が見た中で誰よりも強くて今の僕じゃ、絶対に倒せない」

「私にも、野望はある。私は全ての魔族を皆殺しにしたい」


 思った以上にぶっ飛んでいた。

 聖騎士でも、倒せない、成せなかった魔族の殲滅。口にすることすら憚れることを、初対面の僕に言ってのける度胸。ますます、掘れた。


「僕は雑魚だ。だけど僕なら君を、最強にさせることができる」

「私はもう最強――」

「いいや、足りない。魔族を滅ぼすには、まだだ。僕を全て君に渡す。その代り、僕の共犯者になってくれ、フロージス」


 我ならが、最悪のロケーションでのプロポーズだったが、フロージスは引くどころか、前に出て、手を差し出した。

 僕よりも僅かに背が高く、圧倒的にフィジカルの強い彼女と僕は、兄を殺すための、極めて健全で相互的な契約を結んだ。


「ゼル・ゼハード。よろしく」

「ああ。こちらこそ、アヴィリ……フロージス」

「アヴィリア、アヴィで良い。フロージスは嫌い」

「分かったよ、アヴィ」


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― 新着の感想 ―
ステータスにとらわれずその人の強さを見れるアヴィさん魅力的や
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