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初めまして皆さん、魔族です

「ゼル、攻撃は私が全部防ぐけ、戦いに集中して」

「了解だ」

「それは困るな。さすがのボクも2対1をするつもりはない。用事も済んだし」

「帰らせるわけがない!」

「そうかな?」


 ジャンヌ・ダークの右目がピンク色に光る。

 途端、ただの蹴り一撃で、障壁が崩壊し、腹を蹴られた。


「かっは――」

「これが彼女の奥義だよ」

「何、これ……私ちゃんと障壁を――」

「張ってたよ。ただ、マジック1の障壁なんて、ノックひとつで割れる。師匠が言ってたよ。攻撃を受ければ確実に死ぬだから防ぐより避けろ、って」

「バカな、マジックの量を操作した?」

「というより、ステータスを奪うんだ。極限まで弱体化させる、マジック0のあの人らしい奥義だよ。逆に、奪ったマジックを解放して――」


消え――


「こんなことも出来ちゃう」


 僕の首に熱が走る。辛うじて避けられたのは、反射だった。殺意が、圧倒的殺意が、首筋から注がれた。

 横へ跳んで首の熱を抑えるように抑えると、少しだけ血が垂れていた。


「良く避けるね。奪ったステータスはすぐに戻るから使い得。すごいだろ、弱体化させた相手を、相手のステータスで殴れば死ぬんだから。ジゼットとあの人自身はこの力で相互に生き返った。師匠のステータスをジゼットに分け与えてね。母子の絆は深い。僕が斬っちゃったけど」


 飛び跳ねるように回転、同時に斬りつける。

 胸を狙った斬撃がカランビットとぶち当たり、火花が散る。


「お前もう、喋るな」

「喋るよ、君が聞いたんだ最後まで聞くのが礼儀ってもんだろう!」


 剣を打ち合う。有り得ない、良くもそんなリーチ差で打ち込める。

 お互いに体を外に残したまま攻撃するアウトレンジの攻防。

 器用にカランビットを回して体を捻り、斬撃を置いた後僕のすぐ後ろへ移動。僕の腕を取って投げられる手前で体を反転。逆に膝を顔面に打つが、これは僕の腕を即座に離して右手で弾いた。

 互いに距離を取った瞬間、僕とダークの間に、炎の塊が落ちてくる。

 一瞬で全身が全身粟立った。これは当たれない、当たれば死ぬと確信した。

 足に身体強化。即座に逃げるための準備を済ませる。

 それでも間に合わない。火球が、爆発する。

 まばゆい光と熱波に襲われる。体が……あつ、くない。

 閉じていた目を開けると、爆円はちょうど僕を球状に避けていた。

 炎はやがて収まり、辺りが黒焦げになっていた。

 すぐに、氷の柱が上空から飛翔。いくつかは剣で弾いたが、弾いたはずの氷が剣を飲み込み、僕の腕を凍らせる。なんだ、これは。


「ごめん、氷の方は魔障壁、間に合わんかった!」

「いや、ナイスだネミュ、お陰でまだ生きてる」

「はっはっは。さすがの対応力だ。場慣れしてるね。どうかな、この力は。初めて味わうだろう?」


 爆発の中心部で、悠々と立ちながら笑うジャンヌ・ダーク。こいつには当たらない攻撃? 何かの呪具か? だとしても、複数個考えられる力が離れすぎてる。何だ?


「あはは、呪具じゃないよ。そんな物より原始的な力。これはそう、魔法だ」

「魔法だって?」

「ああそうだよ。君たちただの人類とボクたちはマジックの格が違うのさ」


 何が言いたいのか全く分からない。何をしたいのかもわからない奴の言っていることに耳を傾けることの方が、余程愚かだ。


「話を聞く気がないのは結構だが、どうせどうせ君はボクたちの名前を知ることになる。また会おう」

「逃がすわけがないだろう!」

「じゃあおいで、ボクに追いつけるかどうかはさておいて、ね。この国を終わらせに行こう」

「死ぬ気で追いつく!」


 目の前で落雷が落ちる。バチバチと弾けた伝記の塊がスパークして襲い掛かってくる。

 同時に爆発が合計五回。足が、嫌でも止まる。

 剣で爆円を切って払う。視界が戻った時はもう、ジャンヌ・ダークの姿はなかった。


「くっそ……ああ!」


 行き場のない怒りを吐いて捨てた。それはもう別にいい、切り替えだ。あいつを止めなきゃいけない。

 何が狙いか、さっぱり分からない。分からない以上、何もやらせないに越したことはない。


「落ち着いて、ゼル。とりあえず深呼吸して」

「……ああ、厄介というか、戦いにくい相手だ。アーランドさんは」

「一応逃がしたし、爆炎はその辺までだから大丈夫じゃないかな」

「良かった……あいつがどこに行ったか考えないと」


 考えようもない。彼がやりたいことは単純に呪魂を集めることと……なんで、僕の家族に近づいた。何の得があってそんなことを。

 考えても分からない。ただ、この国を終わらせるって言うのはどういう意味だ。

 いや待て……そうだ、あいつはフィオンを使ってミュハエルさんを殺そうとしていた。しかも、あの人は帝国のナンバーツー。あの人がやられるようなことがあれば……終わる。


「ネミュ、あの人が負けるとは思わないけど、すぐに都に戻ろう」

「うん! このまま放っておいていけないもんね!」


 都までの距離はまあまあ遠いが急げば、何とかなるかもしれない。

 間に合ってくれるとは思う。だって都には……僕の親友がいる。

 この足が砕けても、走り切れ。


「ゼル! 何か乗り物とか乗らない? これムリだよ!」

「無理かどうかじゃない、やるしかない!」


 †


「うん。片付いた」


 ここからここまですべて受注したクエストをようやくクリアしたアヴィ、アイン、オーヴェンはアカデミーへの帰路についた。

 多くのクエストと視線を越えて既に満身創痍の三人だったが、表情は暗くない。

 むしろ、成し遂げることが出来た達成感すらあった。


「お前は一体なんだ。何者だ」

「うん? アヴィリア・フロージス」

「ふはっ、天才的な天然っぷりで笑える。笑えねえ程に笑える」

「黙ってろ。アヴィ、お前の成長速度は何だ。お前このままじゃ、ただの変な奴だぞ」

「間違っちゃいねえ気がするが」

「変じゃない」


 圧倒的実力と個人技が三人の仲を微妙に深めていく。フィオンを失ったことを、アヴィ以外は気にも留めていなかった。

 アヴィだけが、アカデミーに戻る道すがら、弔いの花を買った。アヴィ自身、心根では理解していた。人は容易に死ぬことを。一々悲しんでいたら、戦いに呑まれることを。

 しかし、友を忘れる気持ちはこれっぽっちもなかった。

 アヴィは自分の横で戦う人間がいるとすれば、ゼル以外ではフィンだと思っていた。

 恵まれたステータス。類まれな戦闘への嗅覚。もし、アカデミーではなく、フィオンがゼルを選んでいたら、また結末は変わっていたのかもしれない、と。

 花を握る手に不思議と力が入った。これは後悔なのかもしれない。せめて自分が一人ではなく、フィオンを選んでいたら、また、別の結果があったのではないか。


「おや、弔花かい? 誰か亡くなったのかな、心より、お悔やみを申し上げるよ」


 ピンク髪の恐らく男性が、にこやかな笑みを浮かべている。

 他の候補生。もしくはフィオンの後釜だと思った三人は、同じ空間に足を踏み入れた瞬間、強烈な悪寒を覚えた。

 アカデミー。帝国で最も警備が厳重なのは都にある皇帝が住まう居城。現場の直接指揮を執る第二騎士団長、ミュハエル・クレゼット率いる騎士団。

 そして、皇帝直属の守護を司る聖騎士が、国内を動き回るミュハエル・クレゼットの隙を守る。

 では、二番目に厳重な場所はどこか。平常時はミュハエル・クレゼットが管理するアカデミーだ。だから誰も思わない。アカデミーに、敵が入り込むなんてことは。

第一にリスクにメリットが見合わない。アカデミーにいるのは教官や運営含めて元騎士か探究者などの戦闘要員だ。戦いに特化した人間を襲撃する意味はない。

 目の前のピンク髪の男性は人懐っこい笑顔を浮かべているが、三人は全く別の印象を受けていた。

 悪魔が、目の前に立っている。叩き潰す必要があるのだと、体が反応した。


「やっぱり優秀だねぇ、帝国のアカデミーは。出来損ないのゼル君はボクに気付かず家族を好きにされたというのに」


 反射でアヴィは飛び出していた。

 片手直剣を握り、圧倒的なパワーで振り降ろした。


「おっと。さすがにそれは当たれない――」

「じゃあ、これはどうよ!」

「君は速いね。速いだけだ」


 オーヴェンの蹴りをカランビットで受け止めつつグルグル流してオーヴェンの呪具をずたずたに斬り割く。

 ふたりが作った隙を確実に決めるため、ゆったりとした動きでアインが剣を差し込んだ。

 速さにおいて絶対的な体制があると見越して緩急をつけた攻撃。

 ピンク髪はカランビットの先を剣の先に打ち立てて軌道を逸らし、アインの横に踏み込むと肘で腕を軽く上げて開いた脇にナイフを――

 刺そうとしたところで、態勢を立て直したアヴィが剣を落とした。

 あまりに重い一撃をナイフ一本で受け止め、膝を折る。立っていた地面が陥没して、ピンク髪は凶悪な笑みを浮かべた。

 全てはアインのブラフ。オーヴェンと緩急をつけた自分自身をデコイとして、本命のアヴィが仕留める。

 アヴィの激情、オーヴェンの単独行動。アクシデントを巧みに利用したアインはすぐさまここまでの流れを描き切った。


「つっよいね。ゼル君とは大間違いだ。彼のは受けても最悪死なないけど……やれやれ、世界は変わったね。今は才能の宝庫だ」

「ゼルに、何をした」


 聞いて起きながら喋らせる気はないというようなアヴィの剣の重さにピンク髪はナイフを素早く落とした。

 アヴィの剣が反動で地面に突き刺さる。その間に悠々と拘束から脱して見せた。


「ほあ。全く、少しは敬意を払ってほしいんだけどな。敵意でも良いけどさ」

「お前、誰だ。何しにここに来た」

「君はボクが一言話せば百の何かを見つけてきそうであんまり話したくないんだよね。別に話さなくても目的は達成できたりしちゃうしね。ほうらこの通り!」


 両手を大仰に広げると、火炎の渦が一瞬で生成される。何かの呪具かと思った途端、渦がぐるぐると回り始め、天井へ突き刺さった。

 一瞬で天井が半壊した。圧倒的な爆発は、思わず口が空いてしまう程の威力だ。


「やれやれ、人の居ぬ間に、とんだ訪問者だな」


 ミュハエル・クレゼットが血相を変えて……いいや、殺意に満ちた笑顔で到着した。

 教え子を死なせ、挙句の果てにはアカデミーのど真ん中に風穴を開けられた。

 真鍮が穏やかであるはずがなかった。


「はっ、君が帝国で二番目に強いんだって? レベルは9か。じゃあこの戦いで10になれるか、死ぬか、なのかな」

「……そう言う事か、皆、少し離れていなさい。こいつは私が駆除する」

「待って。まだ、ゼルのことなにも聞いてない」殺すならその後が良い」

「あのさあ、ボク、弱くはないつもりなんだよね」


 パキキ――


 一瞬で氷が生成され、足もとから浸食していく。動きが止まったところで雨雲もないのに雷が落ちる。

 雷光を避けられる程の速度を持つのは、オーヴェンだけだ。

 オーヴェンはアインを守り、ミュハエルは剣を避雷針代わりに躱し、アヴィはひたすら我慢した。苦痛を我慢するように、口から短い呼吸を吐く。

 天井――

 半壊した天井を氷が覆うと、高い位置からつららが何本も速度を得て降り注ぐ。

降る瞬間、雷が押し出し加速。当たればひとたまりもない。

オーヴェンがアインを守り、ミュハエルは抜剣の勢いだけで全てを封殺。アヴィはひたすら我慢した。痛みを堪えるために、腕を組んで胸をしっかりと支える。


「器用な奴だが、それで私は殺せない」

「いいや殺させてもらうよ。行きな、眷属たち」


 爆発。爆炎が地面に穴を開け、地面から姿を現したのは、人の足が数百本生えた百足。顔は鳥類の骨格だけの化け物。それが何匹も出たかと思うと、天井の氷を砕いて黒い翼を持った鳥が、腹の口を大きく開いて飛来する。

 極めつけは、アカデミーの壁をぶち抜いて現れたひし形の体に一つの巨大な目。いくつもの触手を持った、怪物だ。

 突如現れた魑魅魍魎たちに、二つ目の驚愕を禁じ得ない一行。

 ただひとり、ミュハエル・クレゼットだけが、事態の深刻さを正確に理解していた。


「そうそう。君なら知ってるよね、彼らが何かを。ボクの可愛い眷属たちが、何なのかを」

「どこがだ。気持ちわりいなあ」

「え、かわいいけど」

「君とは仲良くなれそうだ」

「どうでもいい。ナンバーツー。知ってること全部話せ。あれは何だ」

「……あれは、魔獣。神が生み出したものが我々人間やモンスターだとすれば、アレの生みの親は、魔竜」


 魔竜。かつて世界の大多数を手にいれんとした最大勢力。全てを破壊し尽くしかけた存在。

 その暴虐ぶりを危惧して、五人の英雄が身を賭して封印した。後に英雄の遺志を継いだ者たちは、聖騎士と呼ばれるようになった。


「なんでそんな物を使役できるの?」

「なんででしょうねええ! 分からないよね、だってボクらは君たちにとってお母さんが夜寝る時に聞かせてくれる御伽噺の存在なんだからね!」


 怪物たちが襲い掛かる。何匹かはアカデミーの壁から出て行き、町へ向かった。

 最悪な状況に、即座に反応したのはミュハエル・クレゼット。


「ここは、私の国だ!」

「自己紹介がまだだったね、ミュハエル・クレゼット!」


 ミュハエルの本気を軽くいなして、ピンク髪の男はゆっくりと、慇懃に、礼をする。


「初めまして皆さん、魔族です」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ジャンヌ・ダーク

レベル:10

パワー:800

アジリティ:1200

ディフェンス:900

マジック:12000

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