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ステータス異常の逆転劇~レベルもステータスもゴミな僕は技術と不意打ちで勝っていく  作者: 聖音ユニア


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20/33

最強の少女とそこそこ強い仲間たち

 アヴィリア・フロージスは天才であった。

 恵まれたステータス、恵まれた戦闘センス、恵まれたフィジカル。全てが、戦いにおいて上位種になるために整えられていた。

 アカデミーに入学し、その才能は顕著な形を持って、花開くこととなる。


「フロージス、半歩下がれ。行け」


 もう一人の天才。試験(セレクション)合格組のアヴィに対して、推薦組トップの天才、アイン。ふたりの登場は、アカデミー始まって以来の新風だった。

 模擬修練場。ランダムに這えた木々の間を、適当に放たれたモンスターた¥ 模擬とは言っても殺されればもちろん死ぬ。本番と違うのは、危険が訪れれば教官に救出されるという事。

 ただ問題が一つだけ合った。既にこの二人を含めたパーティーが揃えば教官を越えていた。

 完璧な指揮(フルディレクション)を受けて、アヴィは森の木々をあまりに自由に駆け抜ける。


「入れ、グレンローゼス」

「分かってるっちゅうの!」


 掻き乱す、アヴィと、アヴィを狙おうとしたモンスターを屠る絶対の破壊、フィオン。

 そして――


「やっほー! 俺の登場だぜ!」


 前へ前へと突き進む二人と同じく前目で攻撃命令を下すアインの間。ハンターの役目を補うのはオーヴェンだ。

 驚異的な身のこなしと素早い判断で伸びがちな戦線を補強する。

 アヴィは実感を以って認識していた。

 ゼルとは違う、独善的だが正しい指示。自分のやりたいことを作戦の軸として構築し、展開する。アヴィ活かしつつ、自分の指揮をどん欲に遂行し、完成させる。

 アヴィとフィオンのツートップを軸に、オーヴェンがバランスを取る戦術に穴はない。

 敵を見つけたら最後、完璧なシステムが群がって来る。

 さらには森の間を抜けて、完全に統率されたフォースアングルから放たれる芸術に似た美しい攻撃にモンスターたちは姿を見た瞬間には死んでいる。

 訓練。あまりに実戦的な訓練は、アカデミーのレベルを一つ上げた。


「上々って感じで良いんじゃね? 俺たち」

「どこがだ。戦闘中に耳から意識が消えてる。俺の指示を聞け。出なきゃ死ね」

「指示がうるさい。私に合わせて」

「あんたね、いつまでもワンマンプレイできると思わないでよ」

「黙れ。お前らが俺を超えるまでは、俺の指示に従え」

「うほ、それって、何やったら超えるって分かるんだ?」

「俺を屈服させてみろ」

「わかった」


 アヴィが剣を構え、アインもまた構えるまさに一触即発の状況だった。


「そこまでにしておきな。もう二か月。喧嘩してばかりだな君たちは」


 ミュハエル・クレゼット。帝国第二騎士団長にして、アカデミーを取り仕切る役目を担う。

 誰もが彼を目指す中、アヴィは初めて会った時からミュハエルを蹴り飛ばしている。

 このことから、アカデミーの人間ですら、アヴィを遠巻きにしていた。


「君たちにもそろそろギルドでクエストを受けてもらう予定だ。ただ、そんな状況ではいつ死んでもおかしくないな」

「問題の本質を理解できない奴が、トップを気取るな」


 アインの不遜な態度に、ミュハエルはしかし笑顔を見せ続けた。


「君は、随分と怖い目をしているね、アイン君」

「黙れ。俺はあんたもその先も超えなきゃいけないんだ。邪魔をするな。グレンローゼス、お前、さっさと力を着けろ。お前のところでシステムが崩れてる」

「はあ? 何言ってんのあんた」

「お前だけ見えてない。そこの猪突猛進バカは感覚派だが、戦場がまだ見えてる」

「あんたの指揮が悪いんじゃないの。大体、何が見えてる、よ。ちゃんと言葉にしなさいよ」

「俺に従えないなら今すぐパーティーを降りろ」

「はい、そこまでー、そこまで。仲が悪いのは構わないが、そんなんじゃ本当に死ぬよ。全く、良い才覚だと思うのに、残念だよ。分かった、かかって来な、候補生」


 間髪入れずに襲いかかったのは、アヴィ、アイン、オーヴェン。

 三方向からの同時攻撃。普段の訓練から放たれた芸術にも似たトライアングルオフェンス。隙はない。それどころか、二人死んでも自分だけは必ず殺すというエゴを孕んだ攻勢。

 しかし――

 次の瞬間、三人は床に伏していた。何が起きたか、フィオン以外が全て悟った。


「こほこほ、ふう、土煙を上げてしまった、申し訳ない」


 三人がかりを仕留めて無傷。それが、かつて聖騎士候補となりながらも、人を守る仕事を選んだ第二騎士団長、ミュハエル・クレゼットの姿だ。

 だが、ミュハエル・クレゼットですら、よく分かっていなかった。

 この三人の、才能を。


「な……いつ、当てられた?」


 攻撃は、当たっていた。膝をつき、ミュハエル・クレゼットは久しぶりのダメージに思わず口の端が上がる。


「中々どうして、今年は豊作じゃないか。候補生諸君、本気、出してしまいそうだよ」


 嬉々として威圧感を振りまくレベル9到達者、最強に近い男、ミュハエル・クレゼット。

 しかし、同じように中々どうして、アインとオーヴェン、そしてアヴィは全く別の考えが頭を巡っていた。

 三人とも、仕留めるつもりでミュハエルに仕掛けていた。

 一瞬の剣戟の最中、オーヴェン、アインは実力差を見極め、抵抗して見せた。そんな二人を押しのけて、一太刀入れて見せたのは、アヴィだった。

 化け物。そんな感想が、ふたりがアヴィに対して抱いた共通認識。

 ミュハエル・クレゼットに、一撃を入れ込む実力を、アヴィは秘めていた。

 当のアヴィ本人は、倒せなかったと悔しそうな表情を浮かべ、何事もなかったかのように立ち上がる。


「クソガキと一緒にいただけのことはある」

「どーかん。お嬢ちゃん、とんだ化け物じゃないの。ワクワクしてきた」

「何? 私たちは今、負けた。負けたなら、彼の指示に従うべき」

「……ふん、良いだろう。クエスト、だったな。おい、クソ騎士団長。どんな風なルールにクリアしてもいいんだな」

「ああ、お好きにどうぞ。君たちがよりよいパーティーになるなら――」

「S級推奨のクエストをそれぞれ一人で受けてクリアしろ。出来なきゃ、このパーティーから抜けろ」

「何それ激熱じゃねえの。てかそれ、アインさんよ。お前の目的からしたら大分温いところにあるとはいえ、クリアできんの?」

「黙ってろ足だけ野郎。お前こそクリアできねえなら俺の前から消え失せろ」

「ちょっと待った。君たちは確かに四人揃えば帝国屈指のパーティーだ。そのまま四人とも聖騎士、なんてことも有り得るだろう。だからと言って、何の意味がある」


 ミュハエル・クレゼットからしてみれば、四人揃って強い人間が単純に分割して強いわけがない。むしろ、ひとりで無駄に死ぬだけだと容易に結論付けられた。

 第二騎士団長に上り詰めた彼にとって経験からくる真実だった。


「温い、浅い、それじゃあ、ただ死ぬだけだ。あんたは才能に恵まれたのか? それとも、仲間に恵まれたのか?」

「……分かった。好きにすればいい。ただ、全員の同意が必要だ」

「俺は良いぜ」

「私も構わない」

「そんな、急に……分かったわよ、やればいいんでしょう」

「クエストは自分で選べ。後は好きにしろ、次に会うのは、クリア後だ」


 一方的なアインの提案と流れに、誰もが思い思いの着地点を見つけていた。

 ただひとり、フィオン以外は。

 フィオンだけは、理解が出来なかった。アインの提案も、自分に見えていないのが何なのかを。

 不安、興奮、葛藤、不動、様々な感情が渦巻く中、四人はミュハエルから、ギルドにて特別なクエストを受けることができるカード、推薦カードを手渡された。


「君たちにはまだ速いと思ったが……成長のためにはやむをえまい。魔族の動向が怪しく、情けない話だが、上は即戦力を期待している。私はそこまで焦ってはないんだけどね」

「知った事か。魔族も聖騎士も、俺が潰す」

「血気盛んなのはいいことだ。だけど、魔竜が封じられたとはいえ、魔族は主力を残したまま何十年も牙を研いできた。あまり舐めない方がいい。さて、説教はこの位で、さあ、行ってきな、夢みる若者たち」


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