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独走する才能

「何やってんだ、アヴィリア! 前に出過ぎだ、囲まれて死ぬぞ!」

「言っても無駄だあの馬鹿は! 退くぞ、モンスターが多すぎる!」

「あいつはデュエリストだ、ひとりでもなんとかやるだろうさ、死ねクソ女!」


 高い天井の洞窟。この辺りでは初級レベルの遺跡に、四人の男女のパーティーがひとつ。

 先頭は、水色の長い髪をした少女。長い髪は紐で結われて、戦闘で邪魔にならないようまとめられている。軽装甚だしい安上がりな装備に、黒い片手直剣。

 後は追跡者(ハンター)一人、付与魔導士(エンチャンター)ひとり、そして中核、統率者

(レギュレーター)ひとり。最もスタンダードなパーティー構成。

 それぞれ明確な役割があり、基本的には兼任できない。

 僕と兄、ゼルが目指したデュエリストの役割は、斬り込み、敵を殲滅し、全てのヘイトを受ける。チームで最も強い奴がなる位置づけだ。

 周りには多くのモンスター。デュエリストの彼女は見捨てられたようで、他はさっさと退いて行った。

 傍若無人。自分勝手に戦列をかき乱し、合理性の欠片もないチームプレイ無視の動き、か。


「面白い」


 気づけば僕は、飛び出していた。

 物陰から出て行くと同時に、彼女の背中を守るように陣取った。


「何? あなた」

「ゼル・ゼハード。君に見惚れた一般人だよ」

「……危ないよ、そのステータスじゃ、死ぬ」


 僕の天窓を即座に見たのか、一瞥だけで再びモンスターの群れに向き直った。

 微塵も興味を感じない。些かも、期待されてない。ああ、いつも、僕に向けられた目、だ。

 だからこそ、僕は笑った。


「そういう君も、付与魔導士なしでこの数は捌けないだろう? 援護する。好きに動けばいい。邪魔はしないよ」

「好きに? そう。なら、死ぬよ」


 殺気……に似た闘気。滲み出る確かなプレッシャーを纏った少女は剣を横に倒して掌を掲げて集中する。剣も、気力も、鋭利に研ぎ澄まされていく。

 目の目には浅黒い肌のゴブリン3匹。奥には巨体なゴブリン、ホブゴブリン。さらに戦局次第では退くか攻めるか伺うような位置に人型のトカゲ、リザードマンが控えている。

 しかもゴブリンは棍棒ではなく錆びた鉄剣と盾を装備していた。過去に僕らのような探究者(シーカー)を殺して手に入れた実績を意味している。

 どう、出る?


「ふっ」


 軽く息を吐いて、少女はいきなり正面突破。

 イカれてる。もしくは、相当自分に自信がないと決して踏み込めない一歩。

 面白い。

 正面爆速でゴブリン一匹に反撃を許さないまま胸を一閃。鮮血が飛び、胸に突き刺さった剣を抜こうと手を伸ばすゴブリンをそのまま横に凪いで四散させた。

 自己紹介には必要以上の鮮烈さ。他のゴブリンたちは意識を切り替え、囲みにかかる。

 二匹。両サイドからの攻撃。僅かに足並みを乱し、前に出たゴブリンを貫き、もう片方は首を片手で握り掴む。

 疑似1On1を二回。連勝してみせ、圧倒的なパワーでモンスターを屠った。

 ゴブリンは決して弱いモンスターじゃない。むしろ、初級探究者を最も殺している、亜人型で知性が高いモンスター。幼い頃から、こいつに覇気を着けろと教わる程だ。

 そんな初心者狩り三匹の死を受けて、ホブゴブリンが巨体と棍棒を携えやって来る。

 巨躯が動いたことで、控えていたリザードマンたちもまた剣を抜いて参戦。

 勝負(ゲーム)のレベルが一つ上がった。

 遅いホブゴブリンを抜いて、リザードマンが少女に急襲。

 さすがに受けに回る。

 剣を横に倒し、弾く勢いそのままに剣を振り抜いて追撃も弾いた。抜群のセンス。

 しかし、リザードマンは関節が以上に柔らかく、追撃するわけないタイミングで追撃が来る。

 少女は回避ではなく、受けを選択した。恐らく、自分のディフェンスの高さを担保した戦法だ。

 パワーに対し、ディフェンスが高ければ大したダメージにはならない。だが、数で不利な今、たった一撃でも蓄積すれば死へ直行だ。

 そうならないために、僕がいる。


「え?」


 驚く少女の顔を背に、剣を差し込み、リザードマンの剣を地面に誘う。

 剣は地面に深く刺さり、リザードマンは動けない。すぐに膝と腕に打撃を与えて顔を蹴り飛ばす。

 ダウンしたところにすかさず、五連撃。僕のパワーじゃ、これだけやっても始末できない。

 しかし、必要量を優に超えた時間稼ぎは実った。

 態勢を整えた少女がリザードマンふたりを瞬殺。

 残されたホブゴブリンが……いない?

 一瞬だけ、僕らは確実に油断した。あの巨体が、宙を舞って、天井を蹴り上げた上で、強襲をかけてくるとは思わなかった。

 退く。この一点において、僕も少女も共通の認識を持っていた。

 間違いない。途中までは間違いなく持っていた。

 だけど、僕の眼前にチラついたのは、醜悪な容姿をした大鬼ではなく、兄の影。

 ああそうか、あんたはそうやって、また僕に言うのか。逃げちまえ、って。

 足が地面を擦り、前へ進んでいた。

 挑戦を馬鹿と言うのなら、僕はこの国一番の大バカ者で構わない。

 大きく助走をつけて、飛び上がる。飛び上がり様に身体強化(フィジカルブースト)。加速は上々だ。

 相対するホブゴブリンが振り下ろされる棍棒のパワーは、僕のゴミみたいなディフェンスを優に超える。だから磨いた、技術を――

 ホブゴブリンの棍棒の速度に合わせて剣で弾き、反動を利用してくるっと回転。

 眼前に迫る顔に、間髪入れずの連撃。

 削れる、僅かにだが、ダメージが入る。

 あの時僕は絶望した。

 全てのステータスが1になってレベルは二度と上がらなくなった。それでも、僕は兄を追い続けた。

 必ずあんたに、復讐するって、だから――


「お前を倒せない位じゃ、進めない、目指せない!」


 確実にダメージは蓄積する。落下までの僅かな間で、叩き込めるだけ叩きこむ。

 心臓が速い。吐きそうになる。彼女が一撃で屠れるような相手でも、僕は、何度でも――


「あなた、面白いね」


 才能とは、いや、才能からは、逃げられない。

 僕がまあまあ苦労して跳んだ距離を、ほぼノーモーションで、追随してきた? 本当に、どれだけ能力値が高いんだ。


「合わせられる?」

「……ああ、やってみろ」


 少女は鋭く真剣な瞳でホブゴブリンの棍棒を、片手剣で完全に受けきった。軋む音が響いて、僅かに止まった棍棒。

 少女の意図を見逃さず、棍棒を足がかりに、顔面、眼球に一撃ぶち込んだ。

 落下まではあと僅か。コンマ数秒、閃光が、閃く。

 正直、ほとんど時間なんてなかった。

 生物のほとんどは体の自由が利かない宙では無防備。

 そこにつけてこの女、一瞬だけホブゴブリンと自分が直線になるタイミングでホブゴブリンが身をよじって生まれた体のスペースを足場にしやがった。

 もう、宙も地面も関係ない。腰の入った一撃で、ホブゴブリンは落下と同時に命を散らした。

 こみ上げる、笑い。自嘲に似た、敗北感が胸を埋めた――

 ヤバい、あとのこと考えてなかった。こんな状況で落下したら、死ぬ。僕のディフェンスはあまりに脆いから。


「お疲れ様」


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― 新着の感想 ―
技量で戦うって良いよな。 力任せの戦いよりもカッコいいから好き。
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