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ステータス異常の逆転劇~レベルもステータスもゴミな僕は技術と不意打ちで勝っていく  作者: 聖音ユニア


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16/33

最高の師匠

「兄に会ったことが?」

「ああ。強い人だったよ。親子そろってお世話にいなっちゃって。その時に、勝手に思ったんだ。君たち兄妹や家族に、ちゃんとお礼をしなきゃいけないって。良かった、お役に立てたようだ」

「ええ、十分に」

「ああそうだ。お兄さんを追っているなら、彼は今、聖騎士として重要な任務に就いているそうだから、アカデミーで――」

「それはちょっとできないんだ。落ちちゃって」

「じゃあ、探究者かなあ。探究者は騎士みたいに、一般騎士と聖騎士のように狭いランクと役割じゃない。幅広い役割と、ギルドにというくず入れにゴミを入れるように詰め込められるクエストをクリアする高い能力が必要だから、いずれはお兄さんのお仕事に関われると思うけど」

「ありがとう。そっちの線で動いてみるよ。ネミュも、それでいいかな?」

「たぶん、ふたりとも、聖騎士に進むだろうから、都合いいかも」

「さて、道も決まったし、行こうか」


 席を立つ。父さんの状況は分からないけど、まあ元気だろうし、母さんもそうだ。

 ダークさんのお陰で、母さんもユアも安心だ。まっすぐ進むべき場所を見続けよう。


「ゼル」


 振り返ると、母さんがぎゅっと抱き寄せて来た。


「行っておいで。今度は、ちゃんと送って、ちゃんと待ってるから」

「……行ってきます」


 手を振って家を出た。ダークさんと母さんと、そしてユア。背中に受ける力の強さを感じながら、足を向けた。


「どこへ、行くの?」

「ギルドだよ」

「わかった。そう言えば、一年家を出て、何してたの?」

「ああそうだね、その話を、しておこうか。僕の師匠の話を」


   †


 一年前――


「ゼル! あんたそんな体で、また!」


 兄さんに裏切られた僕は、左目を失い、ステータス全てを失った。

 治療を適当に済ませて、外へ飛び出した。

強くなろうとレベルの上げ方を学び、ステータスを上げる努力をし続けて、それでも何も出来なかった。

焦った僕は家を飛び出して、走り続けた。どこでもよかった。このまま死んでしまうならそれでも別に構わなかった。

眼帯と、ユアにもらった剣を持って、森を抜けた。いつもなら訓練で狩るレベルのモンスターに苦戦して、弱いはずのモンスターに殺されかけた。

そんな日が一週間続いて、ある雨の日、僕は高熱を出して、森の中で倒れた。


「……殺せよ、僕を」

「死ぬのは勝手だが、ウチの前ではやめてくれないか? 息子が泣く」


 頬を打つ雨が、小さな顔に遮られた。疲れた瞳が僕を射るように見つめ、短い茶髪から雨がポツリと落ちた。

 暫く時が止まって、ズキズキと目の痛みが強さを増していった。


「つ……」

「随分な怪我だな。治りかけじゃないか。ヒールをやってやりたくても、私じゃ無理だ。家に旦那が――」

「放っておいてください。僕なんて、どうせこのまま――」

「息子の教育によくないと言っている。ったく、どんな親が育てたらこうなるんだ。ちっ、煙草も湿気てやがる。ほら来い。小汚いから風呂入れ」


 嫌がる僕を、しかし彼女は力づくで風呂に運んで見せた。情けない……僕は今、こんな小柄な女性にすら、力で敵わないなんて。

 久しぶりにお湯を浴びた。体の筋肉が弛緩していくのを感じる。久しぶりに張り詰めていた物がなくなって、安堵からか、口から息が漏れた。

 すぐに、左目に激痛が走って身を捩る。いい、これは、これで良い。

 ずっと声が聞こえる。兄貴を思い出せる。恨みが強くなっていくのを感じる。

 風呂から上がると、リビングに座っていた眼鏡の男性が、優しい表情でこちらへ来た。


「初めまして。私はアーランド。アカデミーで呪具の歴史を教えている。彼女、エレアの夫だよ」

「そのガキにまともな服と飯をくれてやれ。ジゼットの教育上よくない」

「悪気はないんだ、妻は少し人付き合いが苦手でね。あれでも良き妻でよき母だ」

「聞こえてるぞアーランド」


 幸せそうな家庭。自分の場違い感に思わず吐き気がしそうだった。

 頭を下げる。ここに長くいることはできない。というか、ここにいたくない。


「待ってくれないかい? せめて、その目を治療させてくれないかい?」

「無理ですよ。これ、治らないんで」


 目のヒールを、母さんはもちろん、医者も試したが、この目は治らなかった。目らしい形にはなったが、色も変わってしまった。まるで、兄貴が僕に呪いをかけたように、痛みが治まらないんだ。何も見えないのに、痛みだけある。


「……なるほど。エレア。彼を少し家で診てもいいかな」

「お前の家だ。好きにしろ。だが、そのガキが帰るというなら止めないぞ」

「君、名前は?」

「ゼル……ゼハードです」

「ゼハード? ああ、あの天才の。そんな天才がどうしてこんなところにいるんだ」

「関係ない話です。治療も結構です。失礼しま――」

「待ってくれ。君の瞳は、恐らく呪具だ」

「呪具? 呪具って、遺跡から出土する、正体不明で超常の力を得るっていう?」

「ああ。私はアカデミーで教鞭を執っているが、まず間違いなさそうだ。どうして君がそれを使っているか、その目がどんな呪具なのかは分からないけれど、どうだい?」


 兄貴を追うにしても、自分のレベルを上げるにしても、どうでもいいこの目が武器になるなら、喜んで僕はこの目を差し上げよう。


「分かりました。でも、僕は代わりに何を?」

「手伝え。働かざる者食うべからず、だ」



 呪具の研究は、アーランドさんに、僕のこれまでを話すものだった。何をされたか、何をし返したか、迷惑をかけたか。そんな話から始まって、兄貴や妹、家族の話しをした。

 合間に家の掃除を手伝って、1歳になる息子さんのお世話をした。新しい命というのはかわいい物で、いつの間にか口癖がゼルになっていてふたりに怒られた。

 研究も進み、僕はいつしか笑うようになって、目の痛みも気にならなくなった。

 アーランドさん、エレアさんに今日は何を作ろうか献立を考える程度には。

 ある日、家の外でタバコを吸うエレアさんの姿が見えた。元々馬鹿みたいに吸っていたが、ジゼットが生まれてからは数本を家の外で吸うだけにしたらしい。


「おい、バカゼル」

「バカじゃないです。何ですか? 煙草止めた方がいいですよ?」

「黙れ。お前、今は何を考えてる?」

「何を? 何をって……強くなりたいです。兄貴を追うために」

「殺すのか?」

「……いいえ、でも、あの兄貴に教えてやりたいんです。僕は、あんたより弱いわけじゃないって。全部、ぶち壊したい。何も知らないのは、嫌なんです」

「……そうか。まあ、学びはしたようだな。殺すと即答しないだけマシだ。だがな、お前の兄貴は天才だ。噂はアカデミーでも轟いていた。史上最年少の聖騎士と」

「何が言いたいんですか」

「お前、レベルがどうしたら上がるか知っているか?」

「……自分の命を脅かす程の脅威を打倒する事」

「そうだ。簡単な方法は何だ?」

「モンスターを狩り続ける。各上のモンスターを狩れば、それだけレベルが上がりやすい」

「正解。では、ステータスはどうだ」

「例えばパワーなら単純な筋力トレーニング。剣を振るとか。ディフェンスは攻撃に打たれるとか、ですか? ああ、マジックは例外で、あらかじめ総量が決まっているんですよね。レベル1で一〇〇なら、10なら1000になる」

「ああ。よく勉強してきてるな」

「アカデミー志望なので。まあ、今年はこの怪我なので諦めるつもりですが。準備も出来てませんし」

「アカデミーで騎士になって、兄貴を追う、か」

「そのつもり……ですけど」

「……お前を見ていると、奴を思い出す」

「え?」

「何でもない。天窓を見せてみろ……パワーだけ3であとは1か。酷いな、その呪具のせいか?」

「どうでしょう、取ったら死ぬかもしれないので取れませんし」

「そうだな。そうだった。だが、取り敢えず限界まで上げるぞ、お前はこれから戦う技術を得るんだ。その他絵にはすべてのステータスを限界一定にする必要がある。死ぬほどつらいが死ぬな」

「ちょ、待ってください。何の話ですか?」

「お前をアカデミーに受かる程度の実力にしてやる」

「エレアさんが? そんなバカな――」


 地面が回って、後頭部の痛みと同時に宙が落ちて来た。何が起きたか本当に理解できなかった。気づいたら、地面に背中を強か打ち付けていた。


「え? エレア、さん?」

「これは技術だ。割かし小柄なお前より私は小さいが、お前を倒せる」

「いや、不意打ち……」

「それが何だ? お前が例えパワー600あろうと、私は900ある奴を知っている。正面からやっても勝てない。ならば技術で勝つしかない」


 煙草の煙を吐き出して、エレアさんは僕に手を貸してくれて、グッと引いて起こした。


「不意打ちは立派な技術だ。お前の左側から近づいて背中で背中を押して回転、そのまま地面に倒した。お前、マジックについて知ってるか?」

「え、あ、はい。代表的なのでいうと、身体強化や物理攻撃を防ぐ障壁、マジックを防ぐ魔障壁」

「そうだ。身体強化は消費マジック分の数値をプラスする能力だ。速い話、パワー200でマジック20のパワータイプに、パワーは5しかないがマジックが200ある奴が身体強化を極めて全てブーストさせると理論上は勝てる」

「でも、僕は全部1しかなくて」

「1足す1は倍だ。戦闘中という短い時間で強化をかければ、お前は数字の上では二倍加速する。上手く使えば一瞬相手の視界から消えられる。そうだな、正面からの不意打ちを手に入れることになる」

「そんな、机上の空論ですよ」

「そうだ。実戦で格上は明らかなステータスの差で殴って来る。だからお前はとにかく避けろ。避け続け、相手よりも集中し、執拗に弱点を狙え。ステータスが死んだお前が出来る唯一の、勝ちへの方程式だ」

「……ムリですよ、僕のステータスじゃ」


 エレアさんは僕に自分の天窓を見せて来た。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

エレア・スレット

レベル:7

パワー:10

アジリティ:1300

ディフェンス:25

マジック:0

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