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13/33

2位の実力

「マジか、いつ気付いて――」

「彼はレギュレーターとして才能高い。リスクは分散すると思っただけだ」

「まだだ、まだ、終わってねえ、オーヴェン!」

「ご、ごめんなさい!」


 ネミュが襲われ、タスキが1つ奪われた。だが、アインもアヴィとフィオンを振り切るために多少無理したらしく、すぐに二人が追い付いた。

 これで、二枚と四枚。あと一枚奪われれば、僕らの負けだ。単純に僕の一枚を持って逃げおおせるか? いいや、許されないだろ、そんなこと。

 ネミュにアヴィが近づいて、残った僕らの命綱を指さした。


「それ、私が持つ」

「え、アヴィ……ちゃん?」

「ネミュはゼルに集中して。私が守りながら戦う」

「はっ、あんた、重荷背負いながら戦うつもり? 勝てんの? それ」

「重荷なら、背負える人が背負えばいい。私にはそれだけの強さがあるから」

「……ふん、私が先にあいつを倒す」

「よし、お嬢さん方、数は僕らの方が上だ、締めて勝つぞ」


 タスキを腕に巻いて、さらにスイッチ。次の相手は、アインだ。

 僕らはオーヴェンに背中を向ける。既に現場は大混乱。余裕で屠れると思われていた弱者の僕らが牙をむいた。

 何とかしようと、そして自分の力をフルに活用しようと、オーヴェンは必ずこの隙を狙ってくる。


「行かせないぜ、クソガキ」

「行かせてもらうよ、ちょっぱや銀髪」


 僕の背中を守るように、アヴィが剣を差し込んだ。見えないレベルの素早さも、アヴィなら天性の嗅覚で嗅ぎつける。

 信じて良かったよ、君は最高のデュエリストだ。

 次いで、既にアインを狙う攻勢に出たフィオンの周りを飛び交い、彼女の戦闘の選択肢になる。

 隙がほしけりゃ無理に攻めてきっかけを作り、攻撃の隙は意識を僕に向けさせて、フィオンが反撃しやすいように動く。

 盾でも剣でもない、僕は黒子。影から答えを提示する、正解への暗躍(シャドウディレクション)だ。

 だが、アインは完全に僕を意識の外へ切り捨てて、フィオンとの1on1に。

 だったら僕の役目はここまでだ。くるっと振りかえってアヴィの元へ跳ぶ。

 剣を抜いて、交戦中のオーヴェンの背中を狙う。オーヴェンは全身に目がついているような奴だ。僕の攻撃は軽々避けるが、アヴィの速く、鋭く、強い攻撃は避けられない。


「うっぜ。お前マジでうっぜえなあ、クソガキ!」

「ありがとう!」


 アヴィが僕の服を引っ張ると同時にくるっと回って背中を弾いてアヴィを加速。

 力強い一撃でオーヴェンに襲い掛かる。これなら、勝て――


「その場の有利に固執した、甘ったるい作戦だな、クソゴミが」

「アイン――」


 こいつ、いつから僕の背中に――

 すぐに反撃して剣を振るが、アインは剣を肩に受けながら、僕のタスキを……奪った。

 バカな、鎧も盾もなしの状態で、普通に剣の切れ味だってあるのに、ディフェンスの高さだけで受けた? 傷も、ちゃんと追ってるだろうに。


「く……!」

「お前の攻撃じゃ、俺を殺すことも戦闘不能にも出来ねえ。技術だけ引っ提げてそのまま死ね、雑魚が」


 足りない……いつまで経っても、どこまでやっても、僕の力じゃ、足りない。

 壁が立つ。見ようと見まいと、存在し続ける、大きな壁。何度跳んでも、景色は変わらない。何度叩いてもビクともしない。

まるで、定められた運命を受け入れろと、言うように。

 今までの僕なら、失敗も仕方ないってそう思ったろう。だけど僕は今、育て上げた。

 困難に立ち向かい、無理をぶっちぎって、影として動くことで……最高の、仲間を。


「マジで、こんないい女を忘れるって正気?」

「悪いが好みじゃない」


 フィオンの一撃を片手でいなし、距離を取ろうとする。


「逃がさない」


 アヴィ参戦。強烈な一撃が足場を粉砕して、土と岩が飛び跳ねる。まるで矢の雨。その場の誰もが顔を守った。環境が凹凸によって激変する。

 だが、アインだけは、顔を守ることもなく、タスキを守るために耐えていた。ふざけんな。

 バランスを崩したアインを守ろうと、馬鹿みたいに良いところにオーヴェンが来る。


「ばひゅーんと登場!」

「待ってほんとに、止まって!」

「つ、邪魔……かったいなお嬢ちゃん!」


 足元に絡みつくネミュ。ディフェンスが尋常じゃなく高いお陰で、どれだけオーヴェンが振り払おうとしても払えない。

 混戦、混乱、最中で僕は……タスキを、握っていた。


「ああ? 手前……視界から消えて、最短で瓦礫の中を突っ切って来やがったのか」

「雑魚から目を離すからだよ。ご馳走様でした」


 最後は運だった。フィオンが隙を生み、アヴィが足場を崩し、ネミュが邪魔をした。

 全てが噛みあった最後、僕の目が、瓦礫の間を抜ける最後で僅かなコースを導いた。

 全員の……勝利だ。


「そこまでだ、諸君。よく頑張ったね、お疲れ様」


 パン、と手を叩いてその場を収めたのは、第二騎士団長、ミュハエル・クレゼット。

 全員の動きが止まり、僕らも剣を納めてその場に座った。

 ああ、疲れたし……負けてんじゃんか、僕らは。

 結局タスキは二枚だけ。合格ラインではあるものの……結局、壁は高いまま、か。


「推薦組二人は人数不利を物ともせず、実力を見せつけるように全滅を狙った姿勢を高く評価しよう。逆に、格上相手によく粘った。呪具も持たずに――」

「どうでもいい。こんな腹立たしさは初めてだ。お前は必ず俺が潰してやる。精々、仲間と遊んでおけ」

「それが、そうもいかないんだよ。アイン君」


 総評を途中でぶった切られたミュハエル・クレゼットは顔を片手で隠した後、真剣なまなざしを向けて来た。視線の先にいるのは、僕だ。

 ああそうか、また、壁か。


「ゼル・ゼハード君。君はここまでだ」

「どういうこと?」

「ぜ、ゼルは私たちのリーダーで、実際あの人たちとも渡り合いましたよ!」」


 アヴィとネミュが抗議の視線を送るが、その横で、銀髪長身、オーヴェンがカッカッと笑う。


「単純なことだ、お嬢さん方。アカデミーへの入学可能レベルは2だ。そのガキはレベル1には思えないが現実的には1だ。決まり事なんだよ」

「気に入らないわね。レベルで実力は測れない。決まりだと言うこと程簡単なことはないわ」

「ミスグレンローゼス。言い分は尤もだが、これから先、君たちが騎士になり、その上を目指す道中、彼は自分のステータスと戦わざるを得ない」


 ミュハエル・クレゼットが話し始めた瞬間、僕は目を瞑って天井を見上げた。

 ああ、楽しかったな、この、何週間か。


「強力なモンスター、敵、魔族。レベルを上げる才能を持ち、強力な防具、呪具を持って、それでも死ぬような敵を目の前にして、彼のステータスでは全てが必殺級の攻撃になる。その上、彼では倒しきれない」


 彼は自分の腕、胸についた巨大な傷跡を見せた後、天窓を表示させた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ミュハエル・クレゼット

レベル:9

パワー:900

アジリティ:900

ディフェンス:900

マジック:900

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 これが、騎士団を背負う人間の、歴史が積み上げたステータス。

 このステータスの感じは、よく知ってる。全てを限界まで押し上げる努力。血のにじむような努力をしなければ、こんな数字にはならない。

 そんな彼でさえ、恐らく何度も死線を潜り抜けているんだ。


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― 新着の感想 ―
キツいよなぁ。ステータスがある世界では技術だけではどうにもならない強さの人もいるのは分かってはいたけど、これから主人公がどうなるか続きが気になります。 誤字報告 各上相手⇒格上
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