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ステータス異常の逆転劇~レベルもステータスもゴミな僕は技術と不意打ちで勝っていく  作者: 聖音ユニア


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12/33

予定にない名勝負

 天窓を開いて見せた。

 何度も見た。間違いじゃないかって。寝て起きたら元に戻ってるんじゃないかって。

 特訓もした。母さんに食事の量を増やしてもらって、最初は片目さえ見えないのに無理して体を鍛えた。

そして僕は、長い人生の中であまりにも早く、自分の限界であるオール7を、見た


「だからなんだ」

「え?」

「周りが悪いのか? お前のステータスが悪いのか? お前、それを味方がいなくなった時や味方が死にかけた時、同じことを言うのか。僕のステータスが低くて無理ですって。甘えるなよ、クソガキ。お前は責任の所在が分からず苦しみながら言い訳を並べる雑魚だ。師ね、雑魚」


 アインが詰めてくる。

 言い訳が、全くできない。アインも呪具を持っている可能性がある。考慮しなきゃいけない、考えなきゃいけないのに、僕は、アインに言われた言葉が突き刺さって動けない。

 そうだよ、僕は分かっているつもりでいた。自分が雑魚であることも認めていた。認めた上で、兄貴を追うために強くなると誓った。

 ただ、思ってしまったんだ。アヴィやフィオン、ネミュと出会って、高い壁がせり上がって。この壁を超えるのは、無理だって。

 見ずにいた事実が目の前に現れて、動きを止めてしまったんだ。


「終わりだ、クソガキ」


 装備は片手直剣。動きは機敏で足も速い。レギュレーターにしてはアジリティに振ってる。

 ああ、体、動かない。師匠が見たら、何の躊躇もなく僕を殺すだろうな……


「つう、いったい、なあ!」


 間に入ったのは、ネミュ。持っていたのはマジックを効率よく発動させる杖。受ける瞬間に軌道を変えた当てに言ったアイン。軌道を変えたせいで威力が死に、馬鹿みたいに高いディフェンスを持つネミュは僅かな切り傷で済んでいた。

 済んでいた、じゃない。何を、やってるんだ……


「ネミュ」

「あんね! めっちゃ聞いてほしい! 私たち、ゼルを雑魚だと思ったこと、一度もないし、言ったことない! 全部、ゼルが勝手に思い込んでるだけだから!」

「え……」

「めっちゃ高いとこから落ちてくるメテオグルス倒したのも、盾にしかならない私を拾ってくれたのも、すっごい仲悪い二人を指揮して、今もたぶん、瞬殺されてないのはゼルが戦い方を見せてくれたから! ごめん、私頭良くないからすっごい話しちゃうけど、これだけ。ゼル一人で弱いなら、私たち全員で強いなら、それでいいんじゃないかな!」


 情けないな、僕は。

 こんな、道半ばも良いところで、まだ何度も気づかされるのか。

 いいや、違う。決めつけてしまったんだ。何のメリットもなければ証拠もないのに、僕は自分が限界だって気づいた。努力しきった、これ以上は全部運や環境のせいだって。

 ごめん、それと……


「ありがとう、ネミュ」


 ネミュの腰に手を当てて、ゆっくり後ろに提げる。この話し合いを見過ごす程、アインという男は馬鹿じゃない。

 すぐに反撃のため、剣を振り上げていた。

 僕は片足をまっすぐ、アインの足に踏み込み、体がほぼ密着するところまで近づいて剣を弾いた。

 互いに気持ちの悪い間合い。バランスが崩れ、一歩引く。よし、分かった。


「アヴィ、フィオン、スイッチだ」


 過剰に熱で溢れている。戦いたいという、気持ちデュエリストたちの気持ちを、理解しろ。

 ふたりが言う事を聞いてくれる理由があるとすれば、僕が本気で勝ちに行くと見せる事。


「スイッチ? ゼル。それはどういうこと?」

「……バカ女、私らであのイケメン殺すわよ」

「バカじゃない」

「うるさい。キモい男のプライドよ。反吐が出る」

「なら、止めたらいい」

「あいつじゃ勝てないって?」

「……わかった」


 両手を上げると、片手ずつパンと叩かれる。いったいな、パワー値が違いすぎる。


「負けたら殺す」

「いつでも助ける」

「ありがとうよ」


 対峙する。オーヴェン。この短時間とは言え二人を圧倒した実力者。僕じゃ勝てない。

 それは、味方すら感じているこの戦場(フィールド)での共通認識。

 盤面を、根っこから、裏返すだけだ。

 さあ、弱けりゃ、狂え。


「やっほ。あんたが俺の相手をしてくれるのか? そのステータスでよく来たもんだ。俺がみてた限り、一番低いけど、やれんの?」

「あの、ここ僕の間合いなんだけど」


 ステップ。数歩跳ぶように近づいて三歩目で足のみ身体強化。緩急着いた動きで、僕は実際大して早くないのに早く成れる。


「っと、へえ」


 剣先を僅かに避けるが、頬は切り裂いた。避けることは織り込み済みで全力の斬撃。

 逃げる方角は足と視線の動きでよく分かっていたが……こいつ規格外だ。

 足を開いて一気に姿勢を低くすると同時に片手だけで体を支え、逆に蹴り上げる。呪具でブーストされた速度と稲妻のような効果は健在。

 だが、見えている。

 普通は見えたところで体が動かなくて見えないが、僕が見ているのは、厳密には攻撃じゃない。


「っほ、はええ……訳じゃねえな。お前も呪具持ちなのか?」

「バレますか。まあここで多く語る気はありません。フィオン、アヴィ! タスキはそっちが全部持ってる! 奪えば勝ちだ、押し切れるな!」


 さっき、剣を交えた時に見えた。彼の上着の中にタスキが。考えてみれば、ポケットに入れればすぐわかるが、上着の下ならそう簡単に分からない。

 彼らは二人組。調べるために挑発したのは、少しだけずるかったかな?


「うっひょ、こいつらてごわ。アイン、舐めてると確実にやられる、分かってんな? ここで負けるとかあり得ねえし、あんなに言っといて、結局時間経過で勝ちました、じゃ――」

「黙ってろ。たかが二人相手に負けるわけがないだろう。お前も、分かってるな?」

「もちコース。さあ、ぶっ殺しましょうか、ガキ、お前名前、なんて言うんだ?」

「ゼル。ゼル・ゼハードだ」

「……はっ、おっけ、もう完全にお前さんを舐めたりしねえ。合点がいった。俺らの先輩、ニア・ゼハードの弟――」


 喉元を狙った。

 足を高く上げて折りたたみ、脛辺りで剣を受けきられる。なるほど装甲が足まで上がるのか。いつできたかも分からない古代の遺物が高性能なことだ。


「僕は天才の弟じゃない」

「悪かったよ。二度と言わねえ、ゼル、お前、殺すのにちょうどいいサンドバックだぜ!」


 縦回転。放たれる蹴りは剣の峰で受けてるっていうのに腕ごとへし折られそうだった。

 ディフェンスも何もかも上。分かり切ってる。

 僕は、真っ向から戦えない。戦うことを、選ばない。

 横に素早く跳ぶ。初速だけなら、僕は消える。

 死角。人はハンターとしては致命的に視野が狭い。ルーレットの用に資格から視覚へ回って動き、逆手に素早く持ち替えた剣で腰を狙う。


「速いなあ。俺も、はええけどなあ!」


 剣が空を切る。僕より速いって照明のためか、わざわざ後ろに回って来る。

 さっきまでいた場所は音すら残ってない。完全に抜け出したか。

 見えないって本当にさ。これだから……嫌いなんだよ、天才は……とでも言うと思ったか?

 速すぎたのが災いしたな、天才強者クソ速野郎。

 僕の見ることができる攻撃の時間はめちゃめちゃ少ない。だからこそ、速すぎる次元での攻防は、攻撃の最初から終わりまで、全部描き切れる。


「トラップだ」

「あーりゃりゃ、こりゃ、してやられた……つってもさあ!」


 剣の横を蹴られ、腕が強制的にグッと引き上げられる。

 オーヴェンは即座に耐性を戻して次の攻撃を放った。開いた無防備な瞬間を狙った蹴り。


「結局、ステータスっしょ。お前じゃ俺は殺れねえよ、遅ガキ」


 今までで一番速い蹴り。速度を攻撃力に変換した、速さこそパワーな最速最強の一撃。

 勝てません、ていうか、防げるわけないでしょ、こんな、規格外な攻撃。

 ひとりの僕ならそうだった。だが、わかっちゃいないね、ちょっぱや天才。

 僕と天才の間に、壁が出現する。前面と言うより、一点集中型の壁、壁。

 魔障壁がマジックを弾くのに対し、障壁は、物理攻撃を弾く。

付与術師が使う、最もベーシックなマジックだ。


「見てた、ちゃんと見てたよ、ゼル!」

「それがどうした! 障壁程度じゃ、俺は止まんねえ!」

「いいや、軌道がずれれば、それでいい」


 雑魚な僕がそれでも強者を食らう(ジャイアントキリング)する方法は、一つ。

 唯一無二の、命を懸ける事!

 障壁は砕かれるが、足の軌道は僅かに逸れる。避けず、真っすぐ突っ込む。

 機動はずれ、僕の肩を蹴りが直撃するが、僕の剣は、脇腹を貫く!

 服と、彼のタスキが切れる。

 見逃さ……ない!


「うおおおおおおおおおおおお!」


 腕を伸ばし、タスキを……奪い取った。

 これで、三枚と、三枚!


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