格上との激闘
バチバチと耳障りな音が響いた。
加速音が直に聞こえる程の爆音。銀髪長身男は、閃光に、成った――
「はっ、大丈夫だ、安心しろ、この結果は、当然だ。あんたらは俺に呪具を使わせただけ十分よくやった。お疲れさん」
黒煙が起き、消えるまでの僅かな間で、ウチのデュエリストは、膝を折っていた。
腹に攻撃を食らったのか、腹を抑えながら、アヴィもフィオンも跪いていた。
見たことがなかった。ふたりが、攻めっ気を完全に失った瞬間を。
「早い。ちょっとだけ、私よりも」
「見えなかったわよ、クソ!」
「悪いなぁ、俺は呪具持ちなんでね。分かったらとっとと帰りな。アカデミーはまた次の試験で入るといい」
「あなた、それを使いこなせてる。ずっと、使えるの?」
アヴィの問いに、銀髪男はニヤッと笑った。
「そうだ。俺はガキん頃から、騎士、果てはその上の――」
アヴィが突っ込む。ただの上段斬りが冗談ではない威力になるアヴィの剣を、銀髪男は足で受けきった。呪具の硬質さを活かした防御と単純に守る技術が高い。
「話を聞きなよ、お嬢さん」
「アヴィリア・フロージスだ。お嬢さんじゃない」
「ああそうかい、アヴィリアちゃん。俺はオーヴェン・スロウス。オーヴェンで良いぜ!」
足で押し切り、距離が離れたところをたったのワンスライドで詰め切る。
足が攻撃の軸になっているオーヴェンの一撃を、アヴィが読み切れないわけがない。
片手で斬り弾く……即座にオーヴェンは足首を自ら掴んで静止。角度を変えて上から足を叩き落とす。
より鋭角になった蹴りをそれでも二の腕で受け同時に右下からの逆袈裟。
さすがにオーヴェンも退いて体勢を立て直した
「いいな、アヴィリアちゃん!」
「私も、いるっつうの!」
アヴィが作った隙を敏感に嗅ぎつけてフィオンが攻め入る。さすがだ。ダメージを受けながら、素早い反撃へ移る。どんな時でも攻めを忘れない。デュエリストの鏡だ。
「っと、あぶねえ。レベル2の動きじゃねえな。実戦レベルに達してる」
「どうも、ありがとう!」
剣を盾にしつつ、横に大きく振るってアヴィが攻める時間の隙間を作る。
いつもいがみ合ってる癖して、こういう時の連携は……違う。
アヴィが攻める瞬間を、オーヴェンは咎める。フィオンが作ったのはアヴィが攻める時間じゃない、アヴィを迎え討つことに意識を使う、オーヴェンの隙。
味方を利用して、全くなかった敵の隙を作り出したのか。天才だな。
「オーヴェン、吊り出されるな」
「あっぶね……姉ちゃん、ハニートラップなんて、いけない子だ」
「キモい」
「フィオン。二度と、私の動きを邪魔するな」
「はあ!? 囮でも攻め手を作ったのに活かさないあんたのせいでしょ?」
「手伝ってくんねえ? アイン」
「黙れ、速く終わらせろ」
冷静沈着。まるで人のことなんて見えていないという程の殺気だった瞳。顔立ちは忠誠的で幼いが、滲み出る殺気が普通じゃない。
そう。彼が普通じゃなく、いつまで経っても隙も、手の内も見えない。このレギュレーターは、僕よりも強い。
「他の仲間が見えないけど、君たちはまさか二人で戦ってるわけじゃないよね」
「黙れ。喋るな」
「悪いけれど、僕はおしゃべりが好きな性質でさ。君たち二人の強さはよく分かる。君も、呪具を持ってるんだろう? 戦闘に参加しない理由は? レギュレーターとしての信念か」
「オーヴェン、先にこのクソレギュレーターを殺せ」
「ああ? こっちも手が離せないんだよ。こいつら、意外と強いぜ?」
「本気で、やれ」
「それは、こっちのセリフだわ、アイン」
「ちっ」
このふたりも恐らく即席チーム。ある程度の情報を共有しているだけ。驚いたな、じゃこのふたり、ほぼ初見でタスキを四枚集めたのか。
「つまんないだろう? 君は多分、もうこのゲームを支配したつもりでいる。後はあの銀髪長身のオーヴェンが二人のデュエリストを倒して、僕もやって、タスキを奪えば勝ち。なのに本気を出さないから苛立ってる。自分の思い通りにいかない世界はお嫌いかな? だとしたら君はこの後を生き残れない。まるで子供だ」
「あっはっは、ウケるそれ。マジそれ。もっと言ってやれよ小柄長髪優男」
「黙れ……ああ、うるさい。頭にくる。もう良い、しまいだ。このガキは試験を戦いに出来ねえ、遊び場か何かと勘違いしている。推薦組が何故推薦されたか、聖騎士とは何かを知らないまま、ここに来てしまった俺が、お前を終わらせてやる」
推薦組の理由、か。
僕も別に彼を煽るつもりはなかった。というより、彼を見た瞬間、妙な親近感と、圧倒的な不快感を持ったんだ。
理由は、今ので分かった。また、チラついてくる、兄貴の、影が。
そうだ、彼は、兄貴と同じ、アカデミーの推薦組だ。
「終わらせてよ。僕も、嫌なんだ」
「お前……ここ何で来てんだ?」
「さあ。分かんない。復讐なのかもしれないし、どうでもいいのかもしれない。ここに来るまで、色んな人にも会った。師と呼べる人にも出会った。今の仲間は僕にはあまりに輝いて見えるし、光を前にして、壁を前にして、僕は、無力さを痛感する自分は、雑魚だって」